4.景色泡沫

景色泡沫/夢幻・0

 果たしてあれは夢だったのだろうか。

 現のあたしは眠っていた。あたしはその事を確かに知っていた。未だに躰が動く気配は感じられない。瞼すら開かない。けれどもあたしは……視て、或いは観て、居た。

 深い深い水底へとゆっくり沈み込んでいった。美優の気配が薄れ、薄紅の繭が解けてると、あたしは光の届かないその水底へと臥したまま落ちていった。それはとても安らかで心地好い感覚だった。

 底は知れない。けれど底が無い不安は感じない。只々、ゆっくりと、木の葉のように、羽毛のように、ゆっくりと、沈む。温かで穏やかで、満ち足りた水底へ。


 ずっと、そのままで良かったのだ。

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