第147話あらやだ! 組み合わせが決まるわ!

「ランドルフ! あんたランドルフじゃないか!」


 みんなを待っとるときに、まるで十年来の知己のように後ろから話しかけてきた人が居った。振り返るとそこにはえらい美人な女ドワーフがにこやかに微笑んどった。

 アデリナ先生に負けず劣らずの立派なもんを持っとる。目がぱっちり大きく、鼻筋も通っとる。背は低い。百四十くらいしかあらへん。茶色のショートヘアで背中に自分の身長の半分くらいの斧を背負っとる。


「なんだメノウか。久しぶりだな」


 ランドルフも懐かしい友に出会ったような反応を見せた。そしてあたしに紹介する。


「ユーリさん。こいつはメノウだ。器具を作ってくれたハガネの親方の娘で、メノウ自身も鍛冶職人だ」

「へえ。若いのに鍛冶職人なんやな」


 あたしが驚くと「あはは。これでも二十三だよ」とさらに驚くことを言うた。


「そないな歳には見えへんな。あたしよりも少しだけ年上っぽく見えたけどな」

「ドワーフの女はあまり年を取らないんだよ」


 メノウさんはそう言うてあたしに手を差し伸べた。


「あんたがランドルフの言ってた『ユーリさん』だね」

「年上やから『さん』は要らへんで」


 握手に応じながらそう言うとメノウさんは「じゃあ遠慮なくユーリと呼ばせてもらうよ」と笑った。


「それで、ランドルフはあたしのことをなんて言うてた?」

「お、おい。余計なことを言うなよ、メノウ」

「照れることないじゃないか。大切な仲間だって素直に言いなよ」


 お、大切な仲間やって。こっちが照れるやん。


「ランドルフ曰く、『おせっかいで無茶するところがあるけど、尊敬できる人』だって」

「あはは。的確やな」


 ランドルフはそっぽを向きながら「それでお前も参加するのか?」とメノウさんに訊ねた。


「ここに居るってことは予選を突破したってことだよな」

「まあねえ。あたいにとっちゃ余裕よ」


 そしてメノウさんはランドルフに向かって言うた。


「悪いけどあんたには負けないよ。優勝はあたいがもらう」

「その台詞、そっくりそのまま返すぜ」


 火花を散らす二人。まさにライバル関係やな。


「それじゃまた後で」

「ああ。ハガネの親方にもよろしくな」


 颯爽と去っていくメノウさん。なんとなく強敵な感じがするなあ。


「ランドルフ、メノウさんって強いんか?」

「強いな。しかし欠点もある」

「欠点? なんやそれ」

「はっきり言ってユーリさんは普通にやったら負けるが、普通にやらなかったら勝てるな」

「なんやそれ?」


 ランドルフは「それ以上は言えないな。公平じゃなくなる」と肩を竦めた。


 その後、扉の向こうからやってきたのはデリアやった。きょろきょろと周りを見とったんで「こっちやでー」と手を挙げた。すると嬉しさを隠しながらこっちに来る。


「デリアも合格したんやな」

「当然よ。この私が不合格なんて見る目が無さ過ぎるわ」


 次にイレーネちゃん、クラウスの順でやってきた。イレーネちゃんは分かるけど、クラウスが合格するとは思えへんかったな。

 イレーネちゃんはデリアと話さず、あたしの隣で黙ったままやった。


「クラウス、お前も合格したんだな」


 ランドルフが訊ねるとクラウスは複雑な顔をした。


「僕も驚きですよ。まさかね……でもまあ参加する以上、頑張ります」

「優等生っぽい言葉だな」


 ぽいだけで決して優等生やないんやな。

 そして一年生やけど、合格したんは三人だけやった。

 エルザ、ラウラちゃん、そしてキールの三人や。


「どうやら他の二人は落ちたようだな」


 キールがこっちにやってきて言うた。まあしゃーないことやな。ちゅうか一年生で予選に合格できることが異常なんやけどな。


「エルザ、どうやって合格したんや?」

「えっと、前にお姉ちゃんに攻撃した翼を出したら合格って言われたの」

「ええ!? あれコントロールできるんか!?」

「うん。少し練習したらできた」


 我が妹ながら凄まじい才能やな。


 全員が集まって、一時間後。

 合格者の前に三人のドワーフがやってきた。


「えー、予選通過のみなさま。これよりトーナメントの抽選を行ないます。予選通過した方からくじを引いて見せてください」


 そして大きな紙――異世界ではかなりの貴重品や――に一から百二十八まで数字が書かれたトーナメント表が壁に掲げられた。順次書いていくんやな。


「まずはマグマさんから――」


 名前が呼ばれて、くじを引いていくドワーフと人間たち。さっきのメノウさんもくじを引いとる。ちなみにくじは木製の札やった。


「次、ランドルフ・フォン・ランドスター」


 ランドルフの名前が呼ばれた。くじを引く。おっ。メノウさんの真向かいやな。ちゅうことは決勝で当たるんやな。


「次、ユーリ・フォン・オーサカ」


 あたしの名前が呼ばれた。三人のドワーフの前にある木製の箱からくじを引く。


「ふむ。三十八番だな」


 三十八……ちゅうことは三十七番と戦う……うん!?


「なんだ。くじを引き終わったのだろう? さっさとどいてくれ」

「あ、ああ……すみません」


 あたしはみんなのところに帰ってくる。


「どうしたんですか? なんでがっかりしてるんですか?」

「そらまあ……」

「せっかくランドルフさんとは決勝で当たる位置に来たんですから。喜んでくださいよ」


 まあそれは喜ばしいことなんやけど。


「……メノウと戦うんだな」


 ランドルフは静かに言った。あたしは頷いた。


「メノウって、ランドルフさんに嫁入りしようとしたドワーフさん?」

「はあ!? ランドルフ、あんた結婚しているでしょう!?」

「誤解を招くことを言うなクラウス! デリアも真に受けるな!」


 三人が騒いどるのを余所に、あたしは知り合ったばかりの子と戦うことになって、複雑な気持ちやった。


 みんながくじを引き終わって、その日は解散となった。一回戦は明日から始まることになる。

 せやけど、くじの結果が良い者と悪い者が居ったのは事実や。


「はあ。まさか一回戦でランドルフさんに当たるとは。くじ運悪いですね」


 あたしはクラウスと一緒に居った。宿屋の一人部屋で休んどるとクラウスに誘われたんや。まあ、ランドルフは初戦の相手やし、イレーネちゃんとデリアは喧嘩しとるし、アルバンは予選に落ちて話しにくいし、そういった意味であたしが誘われたんやな。

 宿屋近くの居酒屋みたいなところで料理を食べながら、クラウスは溜息を吐いた。


「ええやんか。あたしなんか二回戦でエルザと戦うかもしれへんで」

「でも他の三年生とは決勝まで当たらないじゃないですか」


 そうやな。二回戦でエルザに当たるかもしれんのと、五回戦でキールやラウラちゃんのどっちか戦う以外は結構マシな組み合わせかもしれん。

 それに比べてクラウスは悲惨やな。一回戦でランドルフと戦うんやから。それに勝っても三回戦でデリア、準決勝でイレーネちゃんと戦うかもしれん。


「鉄血祭のルール見ました?」

「ああ。確かメモしたな」


 あたしは羊皮紙を取り出した。


「武器と魔法の使用あり。武舞台からの場外は即負け。気絶したら負け。相手を殺したら反則負け。降参は認められる。ダウンしても負けにならん」

「改めて見ますと結構平和的ですね」

「まあ祭りやからな」


 あたしはクラウスに言うた。


「あんた、わざと負けようと思うとるんやないか?」

「いえ。微塵も思ってません。しかしどうやって勝てばいいのか見当もつきません」


 あたしも想像がつかんわ。ランドルフに勝てる人間なんて存在するんやろか?


「でもだからと言ってわざと負けるなんて情けないことはしませんよ」

「結構男らしいやんか」

「男の子ですから。それに勝算がないわけでもありません」


 クラウスはにっこり笑いながら言うた。


「僕はランドルフさんの実力を十分知っていますが、ランドルフさんは僕の実力は知りません。そこが付けこむ隙になります」

「……意外と考えとるんやな。てっきり料理以外のことは考えとらんと思うたけど」

「酷いですよー。僕だって料理以外考えます」


 そんな会話をしながら、夜は更けていった。

 そして翌日。

 鉄血祭が開催される――

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