第126話あらやだ! 情報を仕入れるわ!
裏ギルドに行くんはあたしだけでええと思うたが、結局無双の世代全員で行くことになった。
「あなた、アンダーがただの情報屋だって嘘吐いたわね?」
じとっとこっちを見るデリアにあたしは「別に言うとらんよ」と弁解した。
「それ言うたんはアンダーやろ?」
「否定も訂正もしなかったじゃない。どうして隠してたのよ?」
「裏ギルドみたいなダーティなところと関わらせたくなかったからや」
「余計なお世話よ! いつまでも子供扱いしないでよね!」
怒られてしもうた。あたしは素直に「ごめんな」と謝った。
次にクラウスやけど、なんか乗り気やった。
「僕も行きますよ。情報屋とは仲良くなってたほうがいいですね。珍しい食材の情報も手に入れられますし」
「できればイレーネちゃんが元気になってからにしてな」
「もちろんです――いや、イレーネさんの具合が少しでも良くなる食材を知っているかもしれません。それは訊いておかないと」
医食同源、ちゅうやつやろか? まあ頼りになるな。
「俺も行くぜ。お前らを守るためにな」
気合の入っとるランドルフ。するとデリアが「守る? 私たちを舐めてるの?」と不満を露わにした。
「そうじゃねえよ。裏社会の住人相手は俺の仕事でもあったからな」
「そうやな。元やくざやし」
ちゅうわけでこのメンバーで行くことになった。ちなみにクヌート先生は魔力肥大病について知っとる医師を探すため不参加やった。
あたしたちは裏ギルドに向かった。路地を歩いとると「あなたよくこんなところ歩けるわね」とデリアは不快感を示した。
「うん? まあ汚いところやけどな」
「違うわよ。もし襲われたらどうするのよ?」
「あー、その考えはなかったわ」
「無用心すぎるわよ!」
さっきから怒られてばかりやな。
「うん? あいつがゲートキーパーか?」
ランドルフが指差したところにゲートキーパーは立っとった。相変わらず刀傷が痛々しい。
「……久しぶりだな。ユーリ」
「そうやな。元気か?」
「……まあな」
あたしは「そうや。今ならその傷治せるで」と告げる。
「……本当か?」
「ああ。今すぐ治すわ」
あたしは神化モードになって、ゲートキーパーに触れた。刀傷をなぞる。徐々に消えていく。明後日の方向に向いとる目も正常に戻った。まあ神化モードなら火傷でも刀傷でも古傷でも治すことができる。
「…………」
「デリア。あんた手鏡持っとるやろ。貸してくれんか?」
「いいわよ。どうぞ」
神化モードを解いて――二分だけやったからそないに疲れてない――手鏡で顔を見せる。
「……ありがとう。ユーリ」
すっかり男前になったゲートキーパーの目から涙が流れた。
「泣かんでも――まあ泣いてええわ」
「……すまん」
「アンダーのところに行ってもええか? 後でまた会おうな」
ゲートキーパーは頷いて扉を開けた。
底冷えする階段を下る。相変わらず辛気くさいわ。
「……ユーリさんはおひとよしだな。あいつの傷を治すなんて」
「どういう意味や? ランドルフ」
「あいつは裏ギルドの人間だ。だから刀傷にはそれなりの理由があるだろう」
ランドルフの言いたいことはなんとなく分かる。あの顔になったのは自業自得やと。
「あんたは悪人でも救うのか?」
「そんな蜘蛛の糸のお釈迦様みたいなことせえへんよ。でも――」
あたしは三人に向かって言うた。
「基本的におせっかいなんよ。せやからついつい助けてしまうんやな」
そうや。ただそれだけなんや。
別に思想や信条があるわけでもあらへん。
「……そうか。ならそれでいい」
ランドルフは言葉を飲み込んでしもうた。何か言おう思うたけどやめてしもうたんやな。
クラウスはそんな様子のあたしを何も言わんと見つめていた。デリアも同じやった。
裏ギルドに入ると真っ先にデリアは「下品な場所ね」と言うた。裏路地を通ったときよりも不快な顔やった。
「懐かしい空気だな。まるで歓楽街だ」
「そうですね。あまり行ったことはありませんが、そんな雰囲気です」
ランドルフとクラウスは前世を思い出しとるようや。
それで例によって例のごとく、アンダーの使いのもんが現れて案内してくれた。
「よう。随分とご無沙汰だったじゃねえか。ユーリ」
暗い部屋で椅子に座っとるアンダー。あたしは「まあいろいろあったんや」と返した。
「ハーブティーと普通の紅茶持ってきたけど、どっち欲しい?」
「なんだ。両方くれないのか?」
「ハーブティー嫌いな人も居るからな。一応の気遣いや。両方あげるわ」
机の上に置くとアンダーは「悪いな。遠慮なくいただく」と笑うた。
「お前は俺とクラウスが転生者だと知っているな」
ここに来る前にアンダーが知っとることを話しておいたんや。
「ああ。そうだ」
「どうやって調べたのか分からないが凄腕だな」
「おいユーリ。お前話さなかったのか? 俺の能力を」
「あれ? 話しとらんの知らんのか?」
「お前たちを年中見張っているわけじゃない」
まあそうやな。あたしは「能力のことは話してないわ」と答えた。
「まあ話しても良かったが。とにかく俺はあんたらと同じように女神の加護もどきの能力を持っている」
「……俺の前世にもお前のような目をした人間は居たよ」
半ば無視するようにランドルフは言うた。
「そいつは裏社会の情報屋だった。金も権力もあったが、結局そいつは自殺したよ」
「ほう。どうしてだ?」
「そいつの妻と娘が殺されたからだ」
その言葉にアンダーは「…………」と何も言わんかった。
「雑談はそのくらいにして本題に入りましょう。僕たちはイレーネさんを救うためにここに居るのですから」
重い空気を変えるようにクラウスがわざと明るく言うた。
「そうだな。報酬の話は後回しにして、情報だけ言おう。まずお前らには三つの課題があるな。一つ目は適合する人間とそれを調べる検査方法。二つ目は手術とやらをする器具。三つ目は麻酔という薬」
アンダーの言葉にあたしは頷いた。
「一つ目以外はクリアできそうだ。まず手術の器具だが、それはドワーフに頼め。あいつらは鉄だけじゃなくて宝石やガラス細工も作れる」
ドワーフ。確か平等主義の職人集団やったな。
「三つ目。麻酔を手に入れるなら、行くべき場所がある」
「それはどこや? ソクラか?」
アンダーは「北の大陸ではない」と答えた。
「セントラル・コンティネントへ行け。もしかすると一つ目もクリアできるかもしれない」
「……どういうことや?」
セントラル・コンティネント。世界の中心にある大陸。
「前に話したが、セントラルで銃が開発された」
「……そういえば言うてたな」
「それに加えて、先進的な発明が次々に生まれている。中には医学的な発見もある」
アンダーははっきりと言うた。
「俺の推測だが――セントラルにも転生者が居るんじゃないか?」
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