第四話 紅雲大火山-3
地表が近づくと、カンナが「揺れに備えて」と合図した。バーナーの勢いを調節してなるべく柔らかく着陸。藤編みのバスケットが着地の衝撃を吸収して、ぼよん、と二回跳ねた。
しぼんでいく球皮を引きずるように滑走したバスケットが停止すると、待ちわびた大地だ。地面は紅蓮の岩肌。足をつけると、なんだかまだ浮いているような奇妙な感覚で、真っ直ぐ立つのが難しい。
「っはー! 楽しかった!」
「運転ありがとうございました」
「ぜんぜん! みんなお疲れ様。ひとまず、気球を隠せる場所を探しましょ」
カンナが言うなり、動物じみたスピードで走っていったテトが、近くに気球を隠せそうな横穴を見つけてきた。単細胞そうに見えて、意外とそつない働きをする。俺とマリアで力を合わせて気球を引きずり、無事に隠すことができた。
俺たちが着陸したのは、標高何千メートルとも知れない
気球でも、山頂は雲に囲まれて視認さえできなかったが、雲間から、灼熱に煮えた光が雷のように明滅するのが見えた。この山の火口は常時煮えたぎって、いつ大噴火を起こしてもおかしくない飽和状態。山頂からの熱気がここまで降りてくるなんて異常だ。普通、熱は上へ昇るのに。
「あの分厚い雲が、空へ逃げる熱気を留めてるんだね。山を登れば登るほど暑くなりそう」
「そうだな……夜までに涼しい場所を探してベースキャンプを建てないと」
「うん! じゃあいよいよ、実地調査に出発しようか!」
「おっしゃー! シオン、どっちがたくさんモンスターぶっ殺せるか競争な!」
「いいぜ」
「いいぜじゃないわよバカ!」
マリアに腹パンされ悶絶する。相変わらず洒落にならない暴力だ。
「このクエストの趣旨は実地調査の第一段階! あくまで目的は
「わ、分かってるって。あくまで、たまたま出くわしたモンスターをどっちが早く倒せるかって勝負だよ。なぁ、テト」
「お、おう、そうだぜ」
目配せし合い、二人してぶんぶん頷くと、マリアもやっと拳を納めてくれた。ほっ。
「まったく、これだから戦闘狂は……」
腰に手を当てマリアがやれやれとため息をついた、次の瞬間、付近の岩壁が破裂した。
舞う土煙。空いた大穴から大量の岩石を崩落させて、体長三メートルは下らない恐竜型のシルエットがぬっと姿を表す。全身を灰色の、岩のような鱗で覆った爬虫類。岩の甲冑の隙間から、竜種の眼が金色に爛々と光る。
「さっそく来たぁっ!」
「手ぇ出すな、俺がやる!」
戦闘態勢に入った俺達を、ぴょんと追い越して。
「――いきなり、気色悪い
轟音と、地震。岩トカゲは威嚇行動に入る間もなく、その巨大な顎を大地に叩き伏せられた。マリアが眉間に叩きつけた剣の、あまりの威力によって。
「……ルミエールでは剣をああいう風に使うもんなのか?」
「マリアにとって、剣は鈍器だからな……」
地響きを上げて崩れ落ちたモンスターの頭部に着地し、
ぐわり、と、マリアの倒したモンスターが身じろぎした。
「っ、マリア、そいつまだ生きてる!」
チッ、と舌打ちして飛び退ったマリアを恨みがましく睨み上げ、モンスターは吼え猛りながら四足を踏ん張り起き上がった。ほとんど効いていない。ヤツの装甲は相当硬そうだ。
「テト、アイツの動き、一瞬止められるか」
「ヨユーだね」
「よし、俺に合わせろ」
駆け出した俺に気づき、岩トカゲが照準を俺に映す。刀に手をかけ、腰を低く保ちながら加速。
棗流走術【
そんな俺を、蒼い閃光が矢の如く追い越し、岩トカゲの背中に張り付いた。
「せーのっ」
薄暗いフィールドが、強烈な青い光で昼間のように照らされた。凄まじい放電音を伴って、テトの纏う電流が急激に増幅、岩トカゲの体を駆け巡る。
悲鳴を上げて硬直したその
「【火之迦具土】」
円を描いた爆炎が、岩石製の首を豆腐のように両断した。分断された首と体が時間差で地に臥し、俺たち三人が着地したところで、カンナはにっこりと手を叩いた。
「うんうん、いいチームワークだねぇ」
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