骸骨達と仮面屋

翌朝。

皆で食堂で朝食をとっていた頃、ガロウスが唐突に言った。


「ところで、昨日から気配を消して我らの後をついてきているのは知り合いか?」


ガロウス以外の全員が疑問符を浮かべている中、二つの影が姿を現した。


「ムルト、ハルカ久しぶりだな。いつでるか迷っていたのだが……」


「どうせならいつまでバレないかやろうぜってな!」


左腕に銀の義手をしているジャック。見るからに忍者という格好をしているハンゾウ。ムルトやハルカとは顔馴染みだが、コットンやカグヤのようにほとんどが初対面だった。

昨夜のように軽く自己紹介をして、二人も朝食に加わった。


「ふむ。これで十傑が全員集まるな」


「全員?」


「はい。主殿達が昨日到着し、ポルコ殿も今日到着します」


「ポルコ?泥熊ポルコか」


「新しく入ってきた方ですよね。私はまだ会ったことがなくて」


「ジュウベエ殿はご存知なのですか?」


「あぁ。あいつは昔から天才だからな……いつか昇りつめてくるとは思っていたが」


「……それよりも、私、気になることが」


「どうした?ハルカ」


セルシアンの代わりとして、新しく十傑に加わった泥熊ポルコ。ミナミとサキはまだ会ったことがなく、ジュウベエは何やら知り合いらしい。ハルカはそんな会話の中で気になることがあったという。


「ハンゾウさん、今ミナミちゃんのこと主殿って……」


「あぁ。ミナミを我が主とした」


「え、い、いやこれには色々あって!」


なぜか取り乱すミナミ、満足した顔で何かを思い出しているハンゾウ。驚いているのはハルカだけなようで、他の皆は普通に朝食を摂っている。

ガロウスはまるで興味がなさそうにガツガツと食事を口に運んでいるが、少しだけ笑っているように見えた。


(我が気配を気取れたのはあのジャックという小僧のみなんだがな……)


「この集団、飽きがなくて良い」


「でしょ?」


呟いたガロウスに同意するレヴィアだが、ガロウスの真意には気づいていない。


「それより、ジャックさんのその左腕は?」


「あぁ。これはまぁ、色々な」


盛り上がっていて気づかなかったが、ジャックは複雑そうな顔をしている。



「ジャック、喜んでください」


ミナミがそう言って差し出したのは液体の入った小瓶。


「霊龍の涙です。ハルカが譲ってくれました」


「霊龍?」


「はい。天魔族の皆さんにお世話になった時いただきました。聖龍の雫と同じ効果があるらしいです」


「て、天魔族?!」


「……天魔族?」


「ほう、戦争屋か」


何人か反応している者もいるようだが、ダン以外は空気が読めるようで、すぐに喋るのをやめた。ダンはシシリーにヘッドロックを決められている。


「もしかしたら俺のこの腕も……」


ジャックは左腕にはめられている義手を取り去った。肘から先、骨が剥き出しになっている。


「はい。きっと」


ジャックはミナミから小瓶を受け取り、それを左腕に振りかけた。

肘が溶け始めたと思えば、それらの肉が指先にまで伸び、骨を完全に包み込んだ。段々と元の腕のような形になり、爪や指のしわもでき、完全に元通りになった。


「ふむ。興味深い」


「あらあら、すごいですねぇ……」


その場にいる全員が感心し、ジャックがわなわなと震え、両腕でミナミに抱き着いた。


「……ありがとうっ」


止め処なく涙を流し、絞り出すように出た感謝の声に、皆も少し震えている。


「ジャック、皆困っちゃうでしょ」


「っ!あ、あぁ!皆ごめんな!朝からなんか!ごめん。ハルカちゃんも本当、ありがとう」


ジャックは神薬を譲ってくれたハルカ、ミナミとサキに協力してくれた皆に感謝を伝えた。そこへ、城の兵士がやってくる。


「勇者様方、ジュウベエ様コットン様もお揃いのようで……こちらバリオ様からお預かり致しました。円卓会議の日時でございます」


兵士は手紙を渡すと、すぐに食堂から出ていった。


「今日の午後3時ですね」


「けっこう時間がありますね」


「そうだな」


「よし!ならば、この後城下町を案内しようではないか!連れていきたい場所もあるしな!」


「おお、コットンのお勧めならば俺も楽しみだ」


「そうだろうそうだろう!」


「ふむ。ならば我とダンは昨日の続きを……」


「コットンさん!俺も!俺も是非いかせてください!!!」


ダンはガロウスの言葉に大きく目を開き、すぐに手を挙げてコットンへ助けを求めた。


「ダン!貴様強くなりたくはないのか!!」


「まぁまぁガロウス殿、俺の案内したい場所は全員を連れていきたいのだ」


「ほう?全員?」


「あぁ。全員だ」


コットンの提案に皆が首を傾げつつも、それに反対する者はいなかった。





コットンはきっと時間がかかるということで、一番最初に連れてきたいと言った場所に向かった。

ムルト達が大所帯ということもあるのだが、王都の十傑と呼ばれている内の半分がその中に交じっていたため、道行く人々に話しかけられたりし、中々進めなかった。

そこまで遠い場所ではないはずなのだが、コットンオススメの場所に着いた時には1時間ほど経っていた。


「ここがコットンお勧めの……店か?」


辿り着いた場所は、どこか寂れている建物。店と呼ぶほど賑わってはおらず、看板のようなものも見当たらない。


「いやいや。ここは俺の仲間が使っている宿舎だ。種族柄、こういう場所の方が落ち着くんだ。さぁ、中に入ろう」


建付けの悪いドアを開き、宿舎に入る。内装も外と同じように少し古ぼけている感じだが、埃などはなく、掃除が行き届いているようだ。そんなカウンターで新聞を読んでいる骸骨が一人。


「あれ?コットンの旦那?何の用で……あ、そ、その仮面はまさか、ムルトの旦那?!」


コットンとムルトに驚いているようだ。


「その声、キートンか!」


「レヴィア様も?!え、な、なんでやすか?!何が起きているんでやすか!?」


目のまで慌てふためいているのは骨人族のキートン。コットンやムルト、ハルカの仮面を作った仮面職人だ。


「キートンは私の仮面や装備の調整をしてもらうために連れてきたんだが……どうだ、全員分の仮面でも作ってくれないか?」


「コットン、どういうことだ?」


「いや、なんだ、私たちは仲間だろう?何か形として残したくはないか?仮面でなくともよいとは思うのだが……」


「それ、いいかもね」


「おぉ!なんか良さそうじゃん!!」


「コットンさん。私も、いいと思います」


レヴィアやダン、ミナミもコットンの提案に賛成しているようだ。


「コットンの旦那?あっしは是非皆さんの仮面を作りたいのでやすが、手持ちの素材じゃ全然足りやせん……」


「私の集めた素材も少ないか……」


「へぇ。作れて3人分ほどしか……」


「この後は会議があるから採取しにいくのはな……」


「なぁ~にぶつぶつ言ってんのよ」


そう言ったのはレヴィアだ。


「あん……キートンがムルトの仮面を作った時誰の鱗使ったと思ってんのよ」


「レヴィア様、まさか……」


「当然でしょ?ミナミ達に仮面を作るんだったら歓迎よ。それに、今回はこいつの鱗もあるわ」


レヴィアはグーでガロウスの胸を叩いた。


「我は構わんが、こんなところで枷を外せば家がなくなるぞ?」


「……さ!キートン!移動するわよ!」


「へ、へぇ!!ありがとうございやす!」


そんなやりとりを見て、皆が笑う。その後すぐ裏の広場でガロウスとレヴィアの鱗を数十枚剥ぎとり、宿舎に戻ってどんな仮面がいいかを皆が考える。

ああでもない、こうでもない、これがいい、あれがいい、わいわいと話し合いながら各々の仮面のデザインを考えた。ムルト達がこの国に来てから、笑顔が絶えることはあまりなかった。

ムルトが楽しみ、皆も楽しむ。想像できなかった光景の中に、今自分がいることに感動している人物が数人いた。

サキとハルカの絵が上手く、皆の要望に応えてそれを形にし、詰めていく。全員分の仮面のデザインが決まる頃には良い時間になっていて、仮面作りをキートンに任せ、皆は王城へと戻っていく。

十傑の円卓会議が始まる。

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