骸骨の背中
ここ、イカロス王城の中には、十傑達専用に作られた棟がある。ムルト達は先ほどぶつかった二人とそこへ移動していた。
赤と黒の仮面をした男。その仮面の下は、迫力のある骸骨の顔。粉砕骨という通り名で、現十傑に名を連ねている。
ムルトが魔都レヴィアで出会った|骨人族〈こつじんぞく〉である。ムルトは幾度となく彼に助けられてきた。
「俺はコットン」
巫女装束に身を包んだ少女。整った目鼻に、サラサラとした黒髪。切れ長の瞳には安心感と優しさが篭っている。
聖国ノースブランで、月光教の巫女としてムルトを導き、手助けをした。今は慈愛の美徳を持つ者として、十傑によって保護されている。
「私はカグヤです」
三人は廊下での再会を喜んだが、その他の皆は置いてけぼりだった。廊下で話すもなんだからと移動し、ムルトとの出会い、ムルトとの関係、どんなことがあったかなど、ムルトが皆に向かって説明をした。
「ムルト、ハルカちゃん。見違えた。こんなに友も増え……自分のことのように嬉しいよ。それにレヴィア様も、お久しぶりです」
「ムルト様。ワイト様。ご無事で本当によかったです……」
カグヤとコットンの知らない者が圧倒的に多いので、各々の自己紹介もする。
「それにしてもムルト、なぜイカロスへ?」
「それは私が説明します」
十傑として、ミナミとジュウベエが招集されたこと、急ぐためにレヴィアの手を借りたこと、ムルト達は戦力として協力してくれることを快諾してくれたこと。
「なるほど。バリオ殿が『力量を測ってくる』と言ったのはそういうことだったのか」
「やはり、私たちは試されていたのですね」
「ふむ。そういうことになるのだろうな」
また重い空気が漂う中、コットンが話始めた。
「積もる話もたくさんあるが、今日はしっかり休もう。ムルト達には部屋が割り振られているのだろう?」
「そうですね。会議は明日ですし、今日は皆さん休みましょうか」
イカロスに入国したのは昼過ぎほどだったが、バリオとの一悶着、コットン達との会話で時間はとうに過ぎていた。ムルトとハルカ、ダンとシシリーといった風に部屋が割り振られており、それぞれが部屋に荷物を置いた。
その後は十傑達が使っている食堂、大浴場、訓練場、娯楽室、図書室などを案内した。
「お腹、空いた」
「あら、私もお腹空いてたのよねぇ。レヴィちゃんも一緒に食べましょうよ」
「そうね。飛びっぱなしだったしね」
「ほう。中々に広いな……ダン、少し付き合え」
「えぇ?!まだまだ王城の探検終わってないですよ?!」
「む!こっちにこい!」
「ちょっ!ダン!ガロウスさん!」
「儂もお邪魔しようかの」
「大きい風呂に入るなんて久しぶりだなぁ」
「ラビリスで攻略したダンジョンのようだ」
「わぁ~!ピンボール!懐かしいですね!」
「ハルカちゃん、これは昔の勇者が使ったものなんだって~。あっちにはテレビゲームみたいなものもあるよっ」
また一人、また一人とそれぞれの施設に姿を消していく。疲れを癒そうという話だったはずだが、十傑の施設はどこも一流であり、興味を持ってしまうのもう頷ける。一人一人にどこに何の施設があるかという見取り図を渡しているので、迷うこともないはずだが、何をしでかすかわからない者が多いのも確かである。
「ここが俺の一推しの場所だ」
最後に残っているのはムルトとコットンの二人。王城の庭へムルトを連れ出し、それを見せる。
白い大理石で作られたガゼボ。黒いテーブルと黒いイスのみが置かれている。ムルトはそれを見てある女神と出会った時のことを思い出していたが、コットンにそんなことはわからなかった。
「ふむ。美しいな」
「俺のオススメはあそこだ」
コットンが指をさしたのはガゼボの天井。その白いガゼボには屋根がついているのだが、その中心だけがぽっかりと空いているのだ。
「もう少し時間が経てば……あぁ、ここから見えるな」
コットンはムルトを連れ、奥の方へと案内した。
「おぉ……美しい」
白いガゼボの穴から見えるのは、真っ黒の空と、青く輝く月。その穴から見える月にもムルトは懐かしさを感じ、微かに震えてしまう。
「もう少ししたらこの穴の天辺まで上がってくるんだ。座りながら温かい飲み物を飲む。ムルトが好きそうだと思ってな」
「あぁ。素晴らしい」
「気に入ってくれたようで何よりだ」
「あぁ。コットン、ありがとう。そうだ、聞いてくれ」
ムルトとコットンはガゼボのテーブルに座り、共に月を見上げた。ムルトはコットンと分かれた後のこと、ここに来るまでの出来事の数々をコットンに話した。
次々と話すムルトにコットンは優しく相槌を打つ。ムルトは、まるで子供が親に話す時のように無邪気に、楽しそうに話している。
「……本当に、元気そうで何よりだ。お前には敵が、壁が多すぎるからな。だが、話を聞く限り、そんな困難も乗り越えてきたようだ」
「あぁ。それもこれも、全て友のおかげだ。本当に、俺は友に恵まれた。コットン、お前も含めてだ」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
「本当のことだ」
「ふふ、素直に受け取っておくよ」
コットンはムルトの口から出た無垢なまでの感謝に恥ずかしさを隠せなかった。
「お……。噂をすればだ。ムルト、最高の友達が来たぞ」
「む?」
コットンがからかうようにそう言い、ムルトが後ろを向くと……。
「ムルト、お腹空かないの?」
「ムルト!ここの料理めちゃくちゃ美味しいわよ!あなたも食べた方がいいわよ!」
「ひぇ~!ムルト助けてくれ~!!」
「ムルト様!昔の勇者が描いた飛行機の絵がありました!これが空飛ぶ鉄の龍ですよ!」
「ムルト!ここの風呂はいいぞ!広い!」
ティア、レヴィア、ハルカ、ダン、ティング。他の面々もムルトに話をしようと訪れていた。
「ご指名だぞ」
「……あぁ」
ムルトは立ち上がり、駆けてくる皆の方向へ向かって歩き出す。
(ムルト、本当に変わったな……)
コットンが重ねるのは、ムルトの昔の姿。
ムルトを迎える者はほとんどおらず、ムルトもあまり気にせず、我が道を行っていた。
今ではそれが信じられないほどの友に囲まれ、ムルトも友を想い手を伸ばす。寂しく見えていた背中はもう無くなっていた。
「俺も友に恵まれて嬉しいよ。ムルト」
「どうしたコットン?お前も来てくれ!」
「ははは、言われなくてもな」
コットンもガゼボから出て、ムルト達と合流した。
旅の疲れなどどこへやら。皆と食堂で食事をし、大浴場で体を温め、娯楽室で遊び、ムルトの部屋で夜が明けるまで数々の話をした。
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