神託と影

ここは神界


数多の神が住んでおり、人間、亜人、モンスターなどの観察や手助けをしている。


その神達の前で大きな声で喋っているのは、全知全能の神、ゼウスである。


「邪神が復活したことは明白である!だが邪神の反応が弱くなっていっていることに皆も気づいているだろう!来たる日に備えて力を溜め込んでいるのかもしれない!遠くない未来に邪神は完全復活を経て世界を混沌に飲み込んでしまうだろう!その前に手を打つのだ!」


神界では邪神に対してどのような処置をとるかを話し合っている途中だ。


「ゼウス様、我々は下界に手を加えることができないはずです!どうやって手を打つつもりなのですか?」


神の1人がゼウスに問いかけた。


「その通り。我々は下界に手を出すことは大罪にあたる。下界のことは下界に任せるしかない」


「祝福などを授けるということですね」


「それもありだが、誰も彼もに祝福や寵愛を授けてしまえば、それだけ加護の力も落ちてしまう。故に下界のものに今から力をつけてもらうしかない。神託をくだすのだ」


「神託、ですか」


「そう!教会を持ち信仰されている者は自分が一番信頼する者に神託を。教会を持っていない者は己の祝福を授けるに値する人間を見つけ出し加護を授けよ」


「「「はい!」」」


「よし!それでは解散だ!」


集まった神達は散り散りに飛んでいく。


「アルテミス」


「……兄さん」


集まった神の中に、その兄妹はいた。


「狩猟の女神は教会を持っていたか?」


「兄さん。今は月の女神よ。教会もあるし、加護を授けた人間もいるわ」


「そうか……まだ怒っているか?」


アルテミスは遠い空を見上げる。兄の問いかけにアルテミスは僅かに憂いの表情をのぞかせた。


「怒っていない。と言えば嘘になるわね。でも兄さんのことはもう許しているわ。許せないのは、彼を信じれなかった私自身」


「アルテミス、俺は」


「ごめんなさい兄さん。私神託を伝えに行かなくちゃ。兄さんも加護を授ける人を見つけなきゃね。太陽の力は邪神を退ける力になるわ」


アルテミスはそう言って、スタスタと歩いていってしまった。

アルテミスは思い出していた。かつて愛していた男を、今でも忘れることのできない男を。


アルテミスは頭を振り、その考えを捨てる。

今やるべきことは昔を思い出すことではない。今の彼らだ。


(神託はカグヤに伝えるとして、加護ね……カグヤとムルトだけにしかつけていないけれど……そうね、もう1人)


加護を授けた2人を思い出し、3人目の少女を思い出す。


(あの子ならムルトのために戦ってくれる)


アルテミスは彼女に授けることを決め、神託をくだすためにカグヤへの元へと向かった。




「つまり……邪神に対抗できるような仲間を見つける?」


「そうだ」


「でも私……1人」


「そうだな」


「タナトス様の信者は……私1人?」


「そうだな。他に必要もないだろうし、加護や祝福は少数の方がいい」


少女は考え込むように腕を組み、小さな体ながらも、頭を大きく傾げた。


真っ暗な部屋、壁は所々かけており、人が住めるような環境ではなかったが、少女はここを気に入っており、ここで暮らし、日々祈りを捧げていた。


「邪神が復活したら……いっぱい殺す?」


「そうだ」


「人が死ぬなら、タナトス様喜ぶはず?」


「確かに私は死神で命や魂を管理している。だが邪神は命を、魂を新たな器に入れそれを使役する。つまり人が死んでも私の仕事は行われない。魂を導き、新たな生を与え輪廻へ加えることができないのだ」


「そこで……私?」


「そうだ。お前の力ならばその魂達を救い、邪神に対抗することもできる。死霊魔術師ネクロマンサーのお前ならばな」


「うん……頑張る」


「理解したか。だがお前1人でも限界はある。だからこそ仲間を探せと言っているのだ」


「……頑張る」


「神託を授かったのはお前だけではない。他の教会に属するものなども授かっている。そういった者達と合流し力をつけていけ」


「でも私1人」


「そう。私を信仰しているのはお前1人だ。だが、その根気強い信仰を持ったお前だからこそ1人で戦えるかもしれない。死霊魔術と」


タナトスはそこで区切り、少女に向けてはっきりといった。


「【信仰】の美徳スキルを持つお前ならば」





「うわぁ〜広い森だなぁ〜」


森の中を歩く少年。両手を広げ、目を輝かせ、クルクルと回りながら歩いている。


「このきのみは食べれるのかな?」


木の下で立ち止まり、きのみを拾い上げ食べた。バリバリと音を立てながらそのきのみを完食する。


「う〜ん。雑味と辛味……あまり美味しくはないね」


少年はそう言いながら森の中を進んでいく。

道草をしながら、拾い食いをしながら


『止まれ』


森の中から少年に声がかけられた。

木々をかき分け出てきたのは鷹の頭に蛇の尻尾、6枚の蝙蝠の羽。一目でキメラと分かる風貌をしている。


「だ、誰?」


『傲慢の罪を持つもの。と言えば分かるか?』


「わかんないや!それで、僕に何の用なの?」


『我に一撃を入れろ。それまでは何もしない。そしてその一撃で私を倒せなければ……』


「おじさん偉そうだねぇ!あ!おじさんも羽が生えてるんだね!僕も生えてるんだよ!ほら!」


何もなかったはずの少年の背中から、夥しくそして乱雑に翼が生えてくる。右に20枚、左に20枚。合計40枚の翼が現れる。


「そういえば……天魔族は美味しかったなぁ」


目の前のキメラなど眼中にないと言わんばかりに少年は自分の体を抱き、頰を赤らめ空を眺めていた。


『ふむ……まぁいい。早く打ち込んでこい』


キメラは挑発的に指を差し出し、クイクイと動かした。少年はその動きを見て不思議そうに首を傾げた。


「え?まだ気づいてないの?攻撃ならもうとっくにしてるよ?これで106回目の攻撃になるね」


『なに?』


キメラがそう疑問を浮かべた瞬間、視界が歪む。体が軋み、痛みが走る。

キメラは気づいなかった。


自分の体が、すでに使い物にならなくなっていたことを

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