骸骨にお話を


「ふふふ、それはさておき、行きましょう」


「あ、あぁ」


突然のことに面を食らったままであるが、ミカイルの後ろにつき、パーティ会場へと向かう。

ミカイルの歩き方は昼間と違い、気品溢れる歩き方になっている。いつも歩き方を変えているのだろうか


「美しいな」


「ムルトさんは気づきますか、歩き方は場によって変えているんです」


「それもだが、ミカイルが美しいのだ」


ミカイルの耳がピクピクと動き、少しだけ赤く染まっているように見える。


「わ、私も女性なので、そう言われると嬉しいです。ありがとうございます」


歩き方が少しだけ乱れてしまったようだ。場によって歩き方を変えていると言っていたが、あまり慣れていないのだろうか


「ムルト様、ナンパはダメですよ」


「ナンパ?」


「今、ミカイルさんにしていることですよっ」


「褒めることはナンパに入るのか……ならさっきハルカにもナンパをしてしまっていたな」


「ち、ちが、違いますっ!ほ、褒めるのはいいんです」


「それでは一体何がいけなかったのだ?」


「そ、それは」


ハルカも顔を赤くしつつプルプルと震えている。ナンパの意味は知っているが、したことはないと思っている。

褒めるのがナンパではないのなら、何がナンパに見えてしまったのだろうか。


「ふふふ、ハルカさん、私はムルトさんをとったりをしませんよ」


「ふぇっ?!」


「ハルカさんの気持ちはわかっています。頑張ってください」


「あ、ありがとうございます……」


ハルカが俯いてしまった。恥ずかしがっているようだが、何を恥ずかしがっているのかがわからない。俺をとらないというのはどういう意味なのだろうか……骨の1.2本ならばとられても良いのだが……


そんな話をしつつ、パーティ会場へとつく。

館内は必要最低限の人物しかいないようで、パーティ会場につくまで誰とも会っていない。こんなにも堂々と骸骨の顔を晒しながら城を歩くのは、初めてではないだろうか


「どうぞ」


ミカイルが扉を開いてくれ、中へと入る。


華美にならないほどの煌びやかな飾り付け

煌びやかなのは飾り付けだけではなく、テーブルやテーブルクロス、イスや食器なども見事なものだった。

立食形式ではあるが、休み用のイスなのだろう。

俺たち以外は全員揃っているようで、既に談笑を始めていた。


「おぉムルト!!さぁ!今回の主役のおでましだぜ!」


俺を見つけ、そう叫んだのはバルギークだ。

バルギークの着ているスーツは彼の筋骨隆々な体格にあっていないようで、今にもちぎれそうだった。


「バルギーク、陛下を差し置いてやめなさい。まずは陛下よりお言葉よ」


それを諌めるのはファッセだ。真っ赤でキラキラと輝くドレスが、口紅と相まってとても美しく見える。そして何より眼を見張るのはその胸元、ギリギリ隠れていないのではないかというほど際どいが、肌の白さがその胸をさらに強調している。


「よいよい。無礼講の場だ。それはさておきムルトくんに渡すものがある」


「……俺にか、それはなんだ?」


「ほっほっほ、さぁ、これを受け取りなさい」


ジルが手渡してきたのは、布に包まれた何かだ。


「開いてみなさい」


言われるがままに布を開く。そこには、何かの皮に留め具がつけられているものがある。


「これは……」


「ミカイルから話を聞かせてもらったよ。手の空いていた職人に試作品を作ってもらった。しばらくこれを使うといい」


それは、骨人族用の胃袋だった。

差異はあるが、実用的で、しっかりとした作りになっている


「ふむ……ありがたい」


「よし!それでは、ムルトくんが戻ってきたらパーティを始めよう!」


ジルは手を叩き、そう伝えた。

俺は裏ですぐに胃袋を装着し、服を着なおし、会場へと戻る。


皆がグラスを片手に俺を待っている


「どうぞ!ムルト様のぶんです!」


ハルカがワインの注がれたグラスを俺へと手渡した。


「よし!それでは皆揃ったな!今夜は無礼講じゃ!飲んで食って語らい、親睦を深めようではないか!そして、この国のために身を呈して戦ってくれたムルトくんに!乾杯!」


「「「乾杯!」」」


「……ふっ、乾杯」


チリン、グラスをぶつける音が、綺麗に響いた。





「ムルト、また剣の持ち込みかぁ?」


「ムルトくんは本当にその剣を大事にしておるのだのぉ」


立食パーティではあるが、見事に男性と女性に別れてしまった。女性は女性で話に花を咲かせ、俺たちは俺たちで俺の話をしている。


「武器を持ち込むのは申し訳ないと思っているが、この剣だけは手放したくないのだ」


「ほっほっほ。そう言ったら儂のこの杖も武器じゃのぉ」


「私のハープも武器に入りますね。(ポロロン)」


「よく見りゃハイエルフはみんな武器持ち込んでんじゃねぇか……」


バルギークはそう言いながらクルシュの方も見ていた。小脇に本を持っているのだが、それが武器なのだろうか


「っと!ムルトお前、その剣を大事はしているが、まだ実戦で使ってるところを見てねぇな」


「そうだな、角の生えたスケルトンとは拳で戦っていたからな、他に危険にあってもいない」


「その剣、抜いてみてくれねぇか?」


「いいだろう」


俺は月光剣に手をかけ、音を立てながら抜いた


「ほぉ……なんという」


「刀身が透き通っている」


「かぁぁぁ俺の武器も見てほしいぜぇ!!」


各々が感嘆の声を漏らしている。

話に入り込めず、ただひたすらに食事をとっている衛兵2名も俺の剣に見とれている


「半月という、女神様からの贈り物だ」


「ダンジョンで見つけたってぇことか?」


「そんなところだ」


それにしても本当に美しい。

いつも磨いているが、なぜだか心が暖かくなっていく


「月光剣や半月やその首元のペンダント、ムルトさんは月がお好きなのですね」


「あぁ。大好きだ」


「話したと思いますが、私は吟遊詩人として旅をしていましてね、色々な話を見聞きしたのですが」


「おぉ!月の女神の話などは聞かなかった?」


「聞きましたよ。それをムルトさんにお披露目いたしましょう。あぁ、お披露目するのはもちろん構わないのですが、お礼といっては何なのですが、ムルトさんが今まで体験してきたことや行ったことのある場所、どんなことを思い、どんなことをしたのか、そんな話を私も聞きたいのです。いえ、どうしてもというわけではないのですが、やはり私も詩人、新しい話には目がなく、何ぶんこの国に……」


ハックは楽しくなったのか、突然饒舌に喋り出した。ジルがハックの肩を叩きながら


「ハック、また悪い癖が出ているぞ」


「お、おっと、これはこれは失礼しました。ムルトさん、月の女神のお話ですね?」


「あぁ頼む」


「はい。それではお聞きください。これは私が北東の方にある村で聞いた話です」


ハックはハープをゆったりと奏で、話を始める。月の女神の、優しくも悲しい、恋の話だ

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