骸骨とミカイルの秘密
「ムルトさん、人違いをしてしまってごめんなさいね」
「気にするな。困ってはいないからな」
「ミカイルさんもごめんなさい」
「いえいえ、私は今ムルトさんのお付きですから、ムルトさんが良いといえば良いのです」
「それじゃ、私はこれで。話せてよかったわ。懐かしいものも見れたし」
「あぁ。私も話せてよかった。達者でな」
「あなたも、良い旅を」
手を振りながらイレーナと別れる。
料亭では話が盛り上がってしまい、長く滞在してしまった。辺りはすっかりと暗くなっていた。
「今からゆっくりお城に向かえばちょうどいい時間かもしれません」
「そうか、ならそうしようか」
「はい。その前にムルトさん、お腹の方は大丈夫ですか?」
「ふむ……あまり」
ミカイルが言っているのは、俺の腹のなか、先ほど食べた料理のことだ。
骨人族用の胃袋が壊れてしまってから食事をするときは常に腹のなかに風の空間を作り、そこに食べかすなどを入れ、ローブや剣などが汚れないようにしている。
「それでは、捨ててから行きましょうか、ついてきてください」
ミカイルが案内したのは、人気のない路地裏のような場所、面の華やかな場所と違い、閑散としている。
「それでは、ここに捨ててください」
ミカイルが魔法で穴を掘り、俺は腹内にある食べかすをそのなかにいれた。
上から土をかけ、ミカイルが魔法を唱える
「さて、行きましょうか」
一仕事終えたように清々しい笑顔でそう言い、何もわからず城へと向かう。
それについての説明はなかったので、俺も聞かないことにする。
「ムルトさんは胃袋のようなものを持っていたのですよね?」
「あぁ。骨人族が使っている胃袋を知り合いに勧められてな。それが壊れてしまったんだ」
「なるほど……ムルトさんの褒賞はまだ足りないほどだ。と陛下も仰っていたので頼んでみてはいかがでしょうか?」
「あまり権力というものには頼りたくないのだが……考えておこう」
「どんな構造してるかなどは覚えていますか?」
「あぁ」
「ならこの国の職人にハンドメイドで作ってもらえば良いと思います。私たちは仲介をし、ムルトさんはちゃんとした料金を支払う。それならばムルトさんも納得できますか?」
「それならいいかもしれない。無理強いでなければ私も是非お願いしたいのだ」
「それではパーティの時陛下に聞いてみましょう」
「頼む」
それからも色々な話をしながら城を目指す。
俺がエルフの国で見たいものをミカイルは聞き、日程を組もうと思っているらしい。
世界樹、風呂、特産品、人間との交流など、気になるものはたくさんある。
「今日のパーティは誰が参加するんだったか」
「謁見の間に残った方々と、料理人も何人かだったと思います」
「ドレスコードなどはあるのだろうか」
「タキシードやスーツが原則となっておりますが、ムルトさんは顔を隠したままでも構いません」
正直なところ、俺が顔を隠しているのは俺の顔を見て人間やエルフが怯え、俺にいきなり攻撃を仕掛けてこないよう。怖がらせないように、というのが大きい。
俺は自分の容姿などを隠すつもりは元々ないのだ。
歓迎されているエルフの国で、招待されたパーティでわざわざ隠す理由もない
「パーティに……スケルトンが参加するのはおかしいと思うか?」
「おかしくありませんよ!」
横を歩くハルカが少しだけ強く言い放つ。
ハルカは優しい。そして俺を大事に思ってくれている。ハルカのその優しさは嬉しいが、俺はエルフたちに聞きたかった。ミカイルを見て答えを待つ。
俺たちと変わらぬ早さで歩くミカイルは微かに悩み、その答えを出す。
「これは私の意見です。陛下や他のエルフがどう思ってるかはわかりません。私はスケルトンがパーティなどに参加することは……おかしいと思います」
予想した通りだ。やはり苦手意識はあるようだ。生者の催しに死者が並ぶ、滑稽だろう
「ですが」
ミカイルは言葉を続ける
「ムルトさんが参加するのは全くもっておかしいことではありません。この国を身を呈して守り、危害を加える気もなく、こちらの話すことを理解し考えてくれる。エルフや人間となんら変わらないじゃないですか。たまたま種族がスケルトンだっただけです。キマイラや悪魔だったとしても、ムルトさんはムルトさんでしょう」
ミカイルは俺を一人の人間として見てくれているらしい。スケルトンの俺ではなく、ムルトの俺として
「ですから、胸を張ってパーティに参加してください」
「あぁ」
「見えてきましたね」
気づけばすでに城が見えてきてきた。
昨日謁見を行なった場所だ。
今回のパーティは俺の歓迎会、モンスターを倒した感謝会など、色々あるが、非公式なもので、参加する人物も多くはない。
慎ましくはあるが豪勢にする。とジルが言っていた。
「それでは、こちらへどうぞ。礼服などは持ってますか?」
昨日を思い出す。こうやって待合室のようなところに通され、剣などはそのままでよいと言われたのだよな。
「あぁ。2人とも持っている」
「そうですか。着替え終わったら私が迎えに来るので、木板で呼んでください。私もすぐに着替えますので」
「わかった」
ミカイルが出ていき、俺とハルカのみになる。
俺は短剣などをハルカのアイテムボックスにしまい、ローブをたたんで腰に巻く。
レヴィアのところでもらった青のスーツを着た。
そして腰には月光剣だ。
これだけは手放したくない。
ハルカも漆黒のワンピースへと着替えている。2人とも胸元に月のネックレスが輝いている。
俺はブローチを左ポケットにつけ、万全。のはずだ
「ハルカ、どうだろうか」
「とっても似合ってますよ!やっぱりムルト様は月と同じ青が似合いますね」
「そうか……ふふふ、照れるな」
ハルカ曰く、青いスーツに青いペンダント、そして静かに燃える青い眼。
腰に差している月光剣は漆黒の鞘がアクセントになっていてとても綺麗だと言ってくれた。
頭蓋骨と指骨は見えているが……
「ハルカもとても美しい」
「ひぇっ!あ、ありがとうございます!」
ハルカは勢いよくお辞儀をし、顔を真っ赤にしている。
いつも美しいハルカだが、今日のハルカはいつにも増して綺麗だ。
漆黒のドレスにも見えるワンピース。そこへ月のペンダントが綺麗に光る。
髪は結い上げられており、少し大人っぽく見える。
「それではミカイルを呼ぶか」
「はいっ」
木板を使うのは初めてだった。
(確か、魔力を通せば……)
『はい。ミカイルです。ムルトさんですか?』
木板からミカイルの声が聞こえた。
遠く離れている相手とでも話ができるのか
「す、すごいな」
『そういえばムルトさんは使うの初めてでしたね。ふふふ、これがエルフの技術です。人間の方にも作り方は教えたはずですので普及してるところもありますよ』
「おぉそうなのか、是非探してみよう」
『便利ですので是非……と、お着替えは済みましたか?』
「あぁ。今しがた終わった。迎えに来るのか?」
『はい。すぐに向かいますので、少しだけ待っていてください』
「わかった」
『それでは失礼します』
切れてしまったようだ。
初めて使ってみたが、すごい発明だ。
ドアがノックされる。ミカイルは1分も経たぬうちにきたようだ
「待ってい……た」
ドアを開け、ミカイルを見て驚いてしまった
「ふふふ、驚きましたか?」
目の前のミカイルは困ったように笑っていた。驚くべきなのは表情ではない。服装だ。
緑と黄を基調としたキラキラとしたドレス
控えめな胸を大胆に開け、艶やかな肌が色っぽく見える。長い耳にイヤリングもしているようだ。
「あ、あぁ」
「よく言われるんですよ。男っぽいって、私、女性ですよ」
そう。ミカイルは、女性のエルフだった
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