勇者と角骸骨1/4

(ふむ。俺の手助けがなくとも心配はあまりなさそうだ)


ハンゾウ、分身ではなく本体も、レイスやリッチの大群を相手にしていた。


(物理攻撃は効かず、魔法もイマイチ)


ハンゾウはすでにレイスに多大なる攻撃を放っていたが、そのどれもが有効打にはなっていない。


(聖天魔法が有効だが……)


ハンゾウは自分の忍者刀に聖天魔法の魔力を纏わせレイスを倒していた。

分身も同じことをしていたならば、ここまでハンゾウも悩むことはない。

ハンゾウの分身は、全てがハンゾウのHPとMPを10分の1にしたステータスを持っている。言い換えるならば、HPとMP以外のステータスは全てがハンゾウと同じなのだ。そのステータスの中に当然聖天魔法も節制の美徳もある。だが、不思議なことに分身のハンゾウは、美徳スキルのMP軽減などを使えるが、聖天魔法だけは使えないのだ。


(本体の俺だけがレイスを倒せても、時間がかかりすぎる。アンデッドに光魔法が効くのは当たり前……)


ハンゾウは1人でレイスと戦いながら考える。


(物理無効なのも霊体だから当たり前……霊体……?そうだ)


ハンゾウは思い出す。かつて自分が過ごしていた日本という国で、幽霊をも切れるという名刀の話を。


(ふふふ、本当にできるかもわからないのに、試してみようとは……俺もこの世界の力に慣れてきたようだ……)


有効打を打てず、レイスの牽制をしていた分身たちが、一度レイスたちと距離を取り、忍者刀を前に、左手を印の形に結び、顔の前に持ってくる。


(確か、その刀の名は……)


本体のハンゾウも一歩引き、分身たちと同じ構えをとり、魔力を練りながら、一斉に術を唱えた。


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「

  変化の術!霊刀・マサムネ!!!  

」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


ハンゾウの持っていた忍者刀の刀身が伸び、細くなっていく。

それはまさしく、刀だった。

そこまではいい。忍者刀が刀に変化するのは予想していた。

だが、その力まではどうか。


(これでダメであれば、ミナミ達に応援を頼むしかない)


ハンゾウも幽霊への対象法はいくつか知っている。例えば、幽霊だけではなく、妖なども相手にしていた陰陽師と言われる坊主達、札や経、不思議な術を使って幽霊を成仏させたり消滅させたりしていたと聞く。

聞いてはいるものの、ハンゾウは陰陽師でもなければ坊主でもない。札を持っているはずもなければ、忍者として武芸を仕込まれ生きてきたので、経を読んだこともなかった。


「はっ!」


ハンゾウ達は走る。一斉に、レイスへと

刀を振り上げ、レイスを袈裟斬りに切る。


(手応えは……!ない!)


豆腐を切るかのように、霊刀・マサムネはレイスの体をすり抜けていく。


「キィエエェェェエエエェェ」


レイスの叫び声、袈裟斬りに切っていた体は繋がらず、そのまま千切れ、レイスは消滅していく。

これは本体だけではなく、分身全てに言えたことで、霊刀・マサムネは、見事にその力を発揮した。


(いける!)


まさに一転攻勢、レイスに苦戦していたハンゾウだが、それも、もはやなくなった。レイスを倒せる武器さえあれば、魔法を使わなくとも勝てる。

ハンゾウの身体能力ならば。そして、同じ身体能力を持つ分身が何百人もいる。


「ふふふ、さて、反撃だ」


レイスも瞬く間にその数を減らすこととなる。





ソルジャースケルトン、レッドスケルトン、ハイスケルトン、トールスケルトン、ワイト、パワフルワイト、ワイトキング

大小様々なスケルトンがいる。


ジャックはこのスケルトン達を相手取ることになった。


スケルトンはあまり強いものがいない種族だ。その理由は簡単で、進化をする前に退治されてしまうからだ。だが、それだけに進化すれば強い個体になることが多い。レッドスケルトンやリッチ、トールスケルトンが良い例だ。

そのことからスケルトンが必ずしも弱いとは限らないのだ。


ジャックは、目の前のスケルトン達が進化したのではなく、召喚されたものだとあたりをつけていた。

召喚されたスケルトン種であれば、弱くはないが進化して強くなったスケルトン種よりも幾分か弱い。それでもジャックは微塵も油断をしていない。


「ハンゾウさんは援護と迎撃をよろしくお願いします!打撃攻撃で頭蓋骨を破壊するのが弱点です!」


「わかった」


ハンゾウの分身は、どこから出したかわからないが鎖鎌を手に持っていた。鎌の反対側についている分銅を使って戦うようだ。


そしてジャックは短剣を浮かしていた。

色のついた4本の剣が、背中の後ろで外側を向きながら浮いていた。

両の手にも短剣を逆手に持ち、構える。


「ー熾天使の羽・六枚刃ー」


それぞれが聖天魔法の魔力を帯び、それぞれの短剣の色と溶け込む。

輝く赤、青、黄、茶、そして手元で輝く黒と白。握り心地を確認した後、数度地面を踏みつける。


そしてジャックは屈み、膝と手をつく。


「On your marks?」


親譲りの発音のいい英語。ジャックは、日本で自分が心血注いでやってきたスポーツ、トレーニングを思い出す。

この世界に召喚されてからも、トレーニングは欠かさなかった。毎日走り込みを行っている。


「Get set?」


前傾姿勢をとり、膝を浮かせる。

ジャックの魔力が高まり、ジャックの履いているブーツも、背中に浮いている短剣、握っている短剣も輝きを増している。

ジャックは短剣を使って戦っているが、彼の真の強さは違う。

彼の強さとは、その腕力か、バランスか、気さくな性格?どれも彼の真の強さとは言えない。


彼の真の強さとは、人生のほとんどをそれに注ぎ込み、なお高みを目指し走り続けたその足だ。

黄金の足を持つ男とも呼ばれた彼の真の武器。


それは、スピード


「GO!!」


掛け声とともに、ジャックが走り出す。


(……まさに閃光)


ハンゾウはジャックを見てそう例えた。

聖天魔法の白い色が、光速で戦場を駆け抜けていた。ハンゾウが打撃武器の分銅でスケルトン達の頭蓋骨を破壊している中、その弱点を教えたはずのジャックは打撃武器など使っていなかった。

目にも留まらぬ速さで6本の短剣で頭蓋骨をすっぱりと切っていたのだ。


知恵の美徳で並行思考、思考加速を駆使しながら戦場で走り抜けられる道を探し、ジャックはそこを走り去る。その近くにいたものはジャックの背中に浮いている4本の短剣が自動で迎撃する。そしてジャック本人も両手に持っている剣で次々と敵をなぎ倒していた。


4人は次々とアンデッド達の数を減らしていく。

形勢は見事に逆転していたが、それぞれが何かあった時のために魔力を温存していた。

その時、スケルトン達を倒して回っていたハンゾウの分身が突如として搔き消える。

それに気づいたのはハンゾウだけだ。

ハンゾウの分身を消す方法は3つある。

ハンゾウが分身に消えろと命じた時、

ハンゾウの分身が自ら消えようとした時、

そして、3つめだが、これは当たり前のこと、ハンゾウの分身がやられた時。


協力して戦っている中、ハンゾウが消えろと命じることも、分身が消えたいとも思うことはない。最後に残る原因は、HPを削られた時、それも、この一瞬で。ハンゾウは分身も使い、ジャックに同時に叫ぼうとした。

だが、遅かった。


「ジャック!!」


「っ!」


ハンゾウの分身が消える前に見た、角の生えたスケルトン、そいつはジャックのすぐそばにいた。

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