骸骨と三つ巴


「うおぉぉぉぉおおぉぉおお!!!」


「オァァアアァアアアアア!!!」


スピードを上げて、ムルトが悪魔騎士へと斧を振り下ろす。力と速さ・・の乗ったムルトの一撃は、先ほどとは比べものにならないほど、重かった。

だが悪魔騎士は、それを剣一本で受け止めた。


「ー凶鞭槍ー!」


そこへラマの放つ鞭の一撃が悪魔騎士を襲ったが、それを避けることも、防御することもなかった。


「キカヌナァ!!」


ムルトの斧を押し返し、自分の体に当たった鞭を掴み、引っ張った。


ムルトはその衝撃を利用し、左手に持った宵闇で、逆袈裟切りをするが、それを悪魔騎士は防御しない。宵闇は鎧を切ることもできず、弾かれてしまう。


ラマは、またもや悪魔騎士の引く力に対応できず、体を宙に浮かされてしまうが、懐から新しい鞭を取り出そうとする。そこへ、一本の剣が飛んでくる。フランベルジュだ。


「喰ラエ!マンイーター!」


波を形どった剣は、まっすぐにラマに飛んで行く。ラマはそれに対応できず、刺し殺されてしまうと思った矢先、もう一本、剣が飛んできた。

宵闇がマンイーターを横から弾き、ラマは無事に受け身をとり地面に着地した。


「感謝するわ!」


「あぁ!」


これでムルトの武器は斧、半月一本となった。ムルトにとっては、それで十分ではあった。ムルトは戦斧を元の剣に戻し、悪魔騎士と打ち続ける。

その合間にラマは、ムルトと悪魔騎士に迫るアンデッドや、街の人々が戦っているアンデッド達の数を減らしていた。

エルダーリッチはおらず、ボーン・スケイルドラゴンを構成していた骨達も次々と砕けていく。


その間ムルトは、1人でずっと悪魔騎士と打ち合っている。怠惰の魔力のおかげで、腕や足でも悪魔騎士の攻撃を防ぐことができるようになっていた。そしてムルトは半月でひたすらに攻撃をする。悪魔騎士の鎧に当たれば、そこが凹む。顔に当てたいところだが、やはり相手の方が強い。そんな隙は全くなかった。


「驕ルナヨ!仮初メノ分際デ!!」


悪魔騎士は、力任せにムルトに打ち続ける。だが、その軌道はムルトの月読によって見えている。力任せに攻撃をしてくれたほうが、防御しやすいし、隙ができやすい。ムルトはそこを見極め、悪魔騎士の腹部へと、強烈な突きをお見舞いした


「どうしたどうした、さっきから動きが鈍いのではないか?」


「グッ、グゥ……キ、貴様ァァ……」


悪魔騎士は、怨嗟のこもった声を出す。

ムルトはそれを笑いながら見ていた。

半月を撫で、魔力を纏わせる。

半月は、透き通った赤色から、光沢のある黄色・・


「その力、返してモラおうか」


ムルトがそう言うと、剣を構える。

悪魔騎士もそれを見て、剣を構える。


悪魔騎士は、確実に弱っていた。まるで力が吸収されているかのように、じわじわと。

フランベルジュに纏われている魔力も、段々とその色を薄くしている。

それに比例するように、ムルトが微かに纏っていた黄色い魔力は、少しずつ濃く……


「暴食ノ力ワ、吸収……貴様の力モ、俺ガ喰ッテヤル!」


「俺には、食べる部位はないが?」


ローブを脱ぎ去り、ムルトがその姿を見せつけた。腕と足は赤、それ以外は青、そしてちらほらと紫や黄色があり、器のある肋骨のあたりが黒く変色していた。


「さぁ、どこからでも、攻めてくるがいい」


「アマリ……調子ニノルナヨ。俺の目的ワ、オ前デハナイ!!」


悪魔騎士はそう言いながら、カグヤへと向かって走りだす。が、その先には、ムルトが待ち構えていた。


「遅い」


「ナッ!」


突然目の前に現れたムルトに悪魔騎士は反応することができず、ムルトの横薙ぎに振られた半月を避けることはできなかった。鎧を切り裂くことはできなかったが、勢いのついた悪魔騎士と、ムルトの渾身の一振りを受けたせいで、悪魔騎士の体はくの字に曲がり、吹っ飛ばされていった。


二転、三転し、体勢を立て直した悪魔騎士の目の前には、ムルトがいる。

ムルトの体は、徐々に徐々に薄い黒色へと変化をしていた。


「グゥ、グガ、クソォ……!」


悪魔騎士は口のない顔で、言葉にならない声を出していた。


「手応えがまるでなくなってしまったな」


ムルトは、半月を片手にパシパシと打ちつけながら、悪魔騎士に向かってそう言い放った。


「異色の、骸骨……」


そう言ったのは、ラマだ。体は色々に変わっていたが、それは白以外の、異色であった。

王都の会議でも上がっていた、異色の骸骨、勇者や吸血鬼から出た、そしてセルシアンを殺したという、あの骸骨だ。


「お前がセルシアンを……!」


ラマは震える体を抑え、鞭を取り出した。


「今は仲間同士で争っている場合ではない。まずはこいつを」


「モンスターなんて仲間なわけないでしょ!」


ラマは鞭を振るった。今のムルトは、その鞭がどのような動きをして、どれくらい力を込めれば受け流し、受け止められるか、一瞬でわかる。ラマの操る鞭を片手で掴み、その動きを止めた。


「やめろ。今はこいつにトドメを」


「セルシアンの仇よ!!」


ラマは二本目の鞭を出し、それでムルトへと攻撃を繰り出した。

ムルトはそれを半月で受け止める。両手は、ふさがっている。

そこは悪魔騎士が攻撃を仕掛けてくる。

悪魔騎士が振るってきた剣に合わせ、その目の前に頭を持ってくる。


「チッ」


「お前は俺を殺せないからなー爆熱の印ー」


ムルトは、動きを止めた悪魔騎士の腹を蹴りつけ、魔法を発動させる。灼熱魔法が発動し、ムルトの足裏で爆発が起こる。

悪魔騎士はまたもやムルトの攻撃をモロで受けてしまった。


「クソ!クソッ!クソォォォォォオ!!」


怨嗟の声はどんどん大きくなる。

それに反応するように、悪魔騎士の持つ剣は輝きを増していっていた。


「奴ワ!奴ダケワ殺シテヤル!」


悪魔騎士の視線の先には、カグヤ。

だがムルトがそんなことさせるはずもなく。


「いや、その前に俺がお前を殺そう」


ムルトは瞬時に悪魔騎士の目の前に立ち、その頭蓋骨を両手で鷲掴みにする。


「死ね」


そして、ムルトは膝蹴りをした。

頭蓋骨の砕ける感触が伝わってくる。

悪魔騎士の頭部は、確かに粉々に砕け散る。


「ふぅ、終わった、か」


悪魔騎士の頭蓋骨を破壊し、倒したことでムルトは安心をする。


(先ほどまでの俺はなんだったんだ)


ムルトは、今、悪魔騎士を倒したまでの自分の行動を振り返る。相手に敬意を払わず、殺すことを楽しんでいた。言葉遣いも自分がいつも使っているものとは違い、憤怒と怠惰以外の力も使っていた気がする。


(この力はいったい……)


自分の手を見ながら、ムルトは再確認する。

ムルトの全身は、紫色に戻っていた。黒や緑はなくなっており、憤怒と怠惰を混ぜた紫だ。その紫も、徐々に白色へと戻っていく。


「MPが全然足りないな……ローブを」


そこでムルトは、自分がローブを脱いでいたことを思い出し、拾いに行こうとするのだが、そこには1人の女性が立っていた


「……ラマ」


「気安く呼ばないでもらえるかしら」


両の手には鞭を持っている。

今のムルトに戦うほどの力と魔力は残っておらず、ラマを相手に立ち回れば、必ず負けるだろう。それはムルトもわかっていることだ。


(かといって、負けるわけにもいかないのだが)


ムルトは、屍人の森にいるハルカとワイトを思い出しながらそう考える。周りを見れば、アンデッドはほとんど駆逐され、残っているアンデッドは、ムルトだけになっているらしい。


「……俺も負けられないのでな」


「お前は私達に勝てないわ。カグヤ」


ラマがそう言うと、カグヤが一歩出てくる。顔を伏せており、どういう表情かは全くわからない。


「聖天魔法を使える彼女にかかれば、アンデッドなんて虫以下よ」


ラマはそう言って、ムルトを指さす。


「カグヤ、やりなさい」


「……ません」


「なに?」


「できません!!MPが足りないんです!」


「嘘をつくなら、殺すわよ?」


カグヤのそれは、嘘だった。

聖天魔法は、光系統の超級魔法だし、MPも格段多いということもない。だがカグヤは、スキルや技術で、強い魔法を少ないMPでやりくりすることができる。

ラマはそれを知っており、濃厚な殺気を発しながら、カグヤを見る。


「ムルト様!逃げてください!」


カグヤは、ムルトに向かって目一杯叫んだ。

それが、聖国の裏切りだとカグヤはわかっている。


「カグヤ!」


ムルトは手を伸ばす。なにがどうなるかはわからないが、ムルトは、ただ腕を伸ばすことしかできない。


そしてそこへ、ある人物の声が聞こえる


「許サン……絶対、絶対ニ貴様ラオ、許シワセンゾォ!!!」


怨嗟に満ちた、先ほどまで聞いていたその声が。

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