48話 解決へと向けてⅢ

「成程な、外神委員会が関わっていたか。あれだね、ユスティーナは小隊の到着と同時にイリアンソス全域の警備と警戒を指揮してくれ。君達は一人で出歩くのは禁止だぞ、王子として先輩としての命令だ」

「「「……」」」

 

 エドゥアルド殿下の住むお屋敷で今回ボクとグリンダが遭遇したヴァレリーの蜘蛛と、新しく見つかった証拠について殿下に報告したのだけど、普通なら仰天したり動揺したりする事なのに、殿下は予想に反して落ち着いて今後の対応についてダンテスさんに指示をし同時にボク達にはより警戒を促した。

 隣でお茶を飲むメルはヴァレリーの名前が出ると動揺を浮かべ、レオもはしばみ色の瞳を見開いて驚いたのに、ダンテスさんが淡々としているのは納得ができるけれどなんでエドゥアルド殿下はここまで冷静なんだろう?

 もしかして……。


「いや…あははは!実は早々に外神委員会が関与しているのは予想していたんだ。クライン、彼が昏睡し続けさらに原因が不明となると十中八九、呪毒しかありえないからな。軍にも動いてもらい既にリサ殿が治療を始めている……だからそういう目で見ないでくれない?」

「見るに決まってるよ!というよりも!リサさんがもう到着しているってクライン君の治療が始まってるって!なんで教えてくれなかったんですか!」

「それに関しては私から、マリアローズさん。敵の正体は不明、名医が到着したからと言って即座に治療が出来るわけではなく、使われている毒を断定するまでの時間が必要です。その段階で襲撃されたら?」

「……それは」


 守りようがない。相手が誰なのか?それが分かっていれば対策は出来るけれど、分かっていないのなら後手に回るしかない。守る上でそれはとても不利で最悪助ける手段を永久に失ってしまう。


「せやな、まあうちでもそうるわ。そんでもまあ納得できるか?言われたら一発後で殴らせて」

「いいですよ、殿下でしたら幾らでも」

「こらこらユスティーナ、俺王子だよ?お前の主人だよ?もっと敬おうか」


 レオも納得しているみたいだし、ここでボクがこれ以上詮索するのは止めておこう。

 それよりもそうなると後はクライン君が目を覚ますのを待つだけっで事件は解決しそうだし、今後やるべき事はオズワルド殿下の邪魔をする一本で良いのかな?


「いえ姉様、犯人捜しは引き続きですの。そろそろ貴族派や革新派が強引に事件を解決に導き始めますわ。真犯人でなくても犯人を仕立て上げれば良いだけですし」

「あり得そうだな。セドリック殿下は…まあ時折乱心するが基本は真っ当だ。だが南部連合出身者はそういう道理を持ち得ていない、間違いなく気に入らない相手を犯人に仕立て上げる」


 確かにここまで長期化してしまうのは誰も予想していなかった。

 焦れて短絡的な思考から犯人を断定してまう事態は今後必ず起こる。クライン君の治療が始まっているからと言って今日明日目を覚ますわけじゃない。とにかく一日でも早く犯人を捕まえる必要があるのは変わらない。

 

「しっかしボタンを失くした生徒やろ?学園の男子の半分以上は失くしとるで、うちかて何とか失くしてマリやんに付け直してもらっとるし」

「ですがここ最近に絞ればだいぶ絞れると思いますわ。ただ…どれだけの方が協力してくれるのか?そこが問題ですわ」


 何より犯人が今もボタンを失くした状態で放置しているとは思えない、見つからず諦めて付け直しているに違いない。複数犯の可能性が高い以上、口裏合わせをしてごまかされるのが目に見えている。

 新しい証拠を手に入れたけど、手に入れただけでそれが有力な証拠になり得るとは限らない、でもヴァレリーは蜘蛛を使って回収しようとした。つまり見つかると困るものなのだからきっと犯人に繋がる手がかりの筈だ。


「……そう言えば学園の制服って基本的に高いよね?」

「そうか?普通やで」

「こういう学園の制服としては普通ですわ」

「いやメルやレオの感覚だと普通かもしれないが私やマリアの感覚だと高い、家に余裕がない者ならボタン一つでも死活問題だ」

「そう言われますと確かに…ええ久しく忘れていましたが、高いですわね」


 ボクやグリンダは今でこそ生活に余裕のある裕福な位置にいるけれど、以前はアーカムに住む普通の子供だった。その時の感覚は今でも残っているからはっきりと言える、ボタン一つでも失くしたら大ごとだ。

 なら犯人がもしもあそこに再び戻る可能性が、何度も戻ってしまう可能性があったからヴァレリーは回収しようとした?そう仮定するなら犯人はだいぶ絞れ……そうか、実行犯は何度も戻っていてうっかりボク達と鉢合わせしたんだ。

 それをたぶんヴァレリーに繋がる人に、主犯に相談した。だからボク達が怪しんで尾行したり、近辺を捜索する前に回収しようとした、そして運悪くボクとグリンダに遭遇してしまった。

 なら実行犯は彼女だ。

 そして主犯は彼だ。

 クライン君をイリアンソス学園に誘いかつ彼女達とも繋がりを持っていて、中等部一年生の革新派の生徒を一挙に任せられているあの人だ。だけどこれは憶測に過ぎない、彼女が自白すれば良いという問題でもない。

 最悪の場合、学園に外神委員会が潜り込んでいる可能性があるからだ。


「どうやら姉様は何か推理ができたようですわね?」

「うん、だけど…決定的な証拠がないから、鎌をかけて自白させないといけない。そうなるとクライン君の治療を始めた事を口にしないといけないんだ」


 そうなると秘密にしていた意味がなくなる。主犯が外神委員会に繋がっているかもしれないのに、治療の途中だとこちらから打ち明ければ邪魔をされる可能性がある。犯人を捕まえる為に、これ以上クライン君を危険に晒す訳にはいかない。


「なら明後日まで待っていただけますか?明日には直属の第一小隊が到着します、そうれば万全の警備体制を敷けます」

「うん、じゃあ結構は明後日。問題はそれまでに彼女が口封じをされないかだけど…」

「これ以上の問題は起こすとは思えませんわ。ただでさえイリアンソス全体が厳戒態勢だというのに、さらなる問題を引き起こせば都市議会は問答無用で、自分達の政治家声明を断ち切ってでも介入しますの」


 よし、段取りは決まった。

 後は王都からの応援が到着するのを待つだけだ。

 そう結論付けてた時だった、突然血相を変えたネスタ兄さんが扉を勢いよく開けて中へ入ってきた。


「大変だ!中等部の、貴族派の連中が七人の姉妹の集会場に押し入った!」

「何だと!それでアルカ先輩や会員の女子生徒は?」

「捕まってアルカ先輩は学園側に引き渡されたが他の子たちは逃げ延びて俺に知らせに来てくれた。やったのは南部連合出身の奴らだ。セリナの雑貨店も相当酷く荒らされて、店主は幸い怪我はなかったが当面は休業する」


 セリナの雑貨店…確か今も商店通りに店を構える唯一の老舗でお母さんやシャーリーさんがイリアンソスに在籍していた頃は、足しげく通ったお店だった筈。それなら七人の姉妹?という秘密倶楽部が集会場に使っていても不思議ではない。

 ただ問題なのは捕まったアルカ先輩と呼ばれている女子生徒が学園側に引き渡されたことだ。彼等がそのアルカ先輩…アルカ先輩!?


「ネスタ兄さん、もしかしてミートソースのオムライスが大好きなあのアルカ先輩!?」

「ああ、そのアルカ先輩だ。今は七人の姉妹の中心人物で、以前から高等部内で反理事長を掲げる中心人物でもあった」


 一大事だ。

 今の学園側なら事件を無理やりにでも終わらせる為に、無理やり自白を強要させるに決まっている。それも実際に秘密倶楽部の中心人物の上に自分達と対立する相手なら、どんな無茶でもやってしまうかもしれない。

 いや絶対にやる、もうすでにやっている筈だ!助けに行かないと!!


「ユスティーナ」

「はい、すぐに……」

「ちょっち待ち」


 緊迫した事態に即座に殿下はダンテスさんに指示を出し、ダンテスさんが動こうとした時だった。レオは何故か待ったをかけた。

 一分一秒を争う事態にダンテスさんの目は鋭くレオを見据える。


「レオノールさん、状況を理解されていますか?意見などは後日でお願いします」

「自分、学園の構造どこまで把握しとるん?」

「……おおまかにですが、任務に支障をきたさない程度には把握しています」

「うちは完ぺき…とまでいかへんけど癖でな、入れる場所は全部入って把握しとる。それにオトンやオカンに仕込まれて、敵地に潜入するんは玄人よりも玄人や。そんでうちなら学生やさかい怪しまれへん。ここは任せてーな」

「お断りしま…―――」

「そう言わへんと、な?」


 レオの提案にダンテスさんは断ると即答しようとした瞬間。

 ボクもあまりの動きの速さに目で追えず、そして信じられない事にあのダンテスさんが何の抵抗も出来ず、喉元にレオの指先を突きつけれれていた。


「以前から気になっていましたが、何者ですか?」

「平たく言うとマリやんの同類のおっかない版やな。ええやろ?潜入任務は経験済みや」

「……分かりました、ただし一切の証拠を残さず敵に発見されずにやり遂げてください?」


 生前は軍人だったって言っていたけれど…本当に何もだったんだろう?

 そしてやっぱりあの時の手合わせ、完全に手加減されていた。

 人を食ったような笑みを浮かべるレオに、ボクはそう確信する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る