番外編Ⅱ 元上司と元部下

 これはメルセデスの誕生日の少し前のお話。


 その日、ロドは困り果てていた。

 理由はレオニダスである。

 ただでさえ大改革を行うぞ!と中央が言い出し領毎にバラバラだった学校制度の統一化が強行的に行われ始め、ソルフィア王国の教育界が大混乱に陥っている中で派遣先が決まらずやる事が無いから仕事をくれと元上司が訪ねて来ているのだ。

 正直言うとレオニダスはロドにとって面倒臭い上司である。

 

 不器用で配慮に欠け、やる事が徹底し過ぎて反発を招き別の組織と対立を繰り返し足を引っ張り合う。一昔前は頼りになる上司だったが、外神委員会の中枢を担う者達を討伐し終えた頃から面倒臭い上司に変わって行った。

 特に中央警邏との一件はロドにとって「駄目だこの上司何とかしないと」そう決意させるには十分な出来事だった。

 なのでマリアローズからロドさん達と一纏めにされていた部下の二人、イスラとショーンと共にレオニダスから離反、異端審問会の取り潰しと中央捜査局との合併を画策し部下二人は中央捜査局に入り、自分は教師としてマリアローズを守る為にシャトノワ領へとやって来た。

 元上司のおまけつきで。


(失態だ、大失態だ…絶対にアグネス殿から恨まれる……)


 内心溜息をつく。

 ロドはレオニダスを王都に置いて来るつもりだった。

 アグネスに恨まれたくなかったから、レオニダスへの復讐の為にモンターク家に代々伝わる毒に関する秘術を自力で再現したアグネスの不興を買わない為に……結果は、常に飲食物を警戒しなければならなくなった。


(あの…世間知らずの深窓の令嬢だったアグネス殿が、今では暗殺の腕ならベルベット殿からも一目置かれるまでに成長するとは…全部レオニダスの所為だ!!)


 結果だけを言うのならどうしようもない理由があったにせよ。

 レオニダスはまだ少女だった頃のアグネスを言葉巧みに愛の言葉を口にして、騙し利用し捨て、さらにレオニダスは実家が取り潰され路頭に迷ったアグネスを助ける事は無かった。

 よくある償いの為に影から支援はしなかった、というよりしたのはロドだった。

 当時から部下だったロドはあまりにもアグネスが不憫でアグネスがベルベットに出会うようにコッソリと裏で手を回すなど、レオニダスの代わりに手を尽くしてアグネスを支援していた。


 一応、レオニダスは身動きの取れない自分に変わってロドがアグネスを助けるだろうと分かった上での行動だったが、そんな事は言い訳にならず今でもアグネスはレオニダスを恨んでいる。

 ついでにロドも恨まれている。


「レオニダス殿、言っておきますが教育界は大混乱の真っ最中、門外漢に回す仕事はありませんよ」

「知っている、何でも領毎にバラバラの学校制度を見直し共通化するんだろう?基礎学校を卒業する年齢が10歳から12歳なのを12歳に統一したりするんだったか?」

「付け加えるとバラバラの名称をある程度一本化すると言うのもあります。習う内容は一緒でも基礎学校だの初等学校だのバラバラでしたので、一応学園規模の場合は初等から始まり中等・高等に統一される予定です」

「まあ同じ領でも後ろに誰がいるかで基礎だの基幹だの中等だのとバラバラだったからな、スッキリするな。しかしイリアンソスは初等部は導入せず幼年学校を存続させるんだろ?」

「あそこは…まあ今でも世間知らずの上級貴族はいますので、事前に一般常識を学ぶ場として必要ですし、何より学園施設を増設するのは難しいですから」

「いるんだな、世間と常識が乖離した貴族の子弟と言うのは」


(お前だよお前!元王族!!)


 ロドは心の中でレオニダスを罵倒する。

 今でも常識の欠けた行動を繰り返す元上司。

 こういうのを量産しない為に幼年学校の存続は必要だとロドは痛感していた。


「取り合えず学園以外は基礎学校から始まり基幹学校、そこから職業学校などですね…まあ名称よりもまずは何歳で入学し何歳で卒業するのか?そこを統一しなければなりませんからな」


 だからこそ忙しい時に頭痛の種である元上司が自分の家にいる事が面倒臭いロドだった。

 現状、シャトノワ領ではセイラム領都同じくクラス毎に教室を固定し教師が教材を持って出向く形だが、この先はもしかしたら他の領、特にイリアンソス学園と同じようにクラス毎にロッカーが与えられ、そこに教科書など私物を置き生徒は教師のいる教室に移動する形になるかもしれなかった。

 どうなるか?

 それは今後の政治次第。

 

「それよりもだロド、茶はまだか?」

「残念ながら私はコーヒー派です」

「あんな炭のような飲み物をよく飲めるな?舌大丈夫か?」


 ロドは静かにレオニダスが当面の間、シャトノワ領に滞在する事をアグネスに伝える事にする。

 死なば諸共の精神で。

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