24話 廻り始める宿命の歯車【中編】
王都ルイン、その最南端にある旧ナルゥヴァ地区現流民街。
王都の退廃地区、政治家の怠慢の象徴、移民の面汚しが最初に流れ着く場所、様々な言われようだが外の国で一般的なスラムとは様相は違い、一見するだけではとてもスラムには見えない。
だが一部屋に複数の家族が押し込められている光景を見れば誰だろうとここがスラムだと納得する、そんな場所にルッツフェーロ商会は本部を構ている。
周囲の建物と同じように定期的な補修は行われず、不定期で行われる杜撰な補修で壁はボロボロで酷く薄汚れ、場所によっては朽ちている所のあるそんな建物がルッツフェーロ商会の本部だった。
ギルガメッシュ商会と激しい商戦を繰り広げる商会の本部としてはあまりにも酷い有様だったがあくまで「一般の従業員と幹部の本部」が酷い有様なだけだと考えているルッツフェーロは商会本部が見える位置にある自分の屋敷で、新聞を読みながら遅めの朝食を取っていた。
テラスで優雅に自分の前世の記憶を元に使用人に作らせた料理を食べながら、新聞を読むルッツフェーロは記事の内容を見て憂鬱になる。
「また載ってる、しかも今度は新商品の宣伝込みだよ…濃縮液体ブイヨン、あの缶詰メーカーはこの世界でのマギーになるか…早めに取り込めたら良かったが仕方ないね、それとこのマリアローズ…まあ、潰せるうちに潰したいな……」
「なら手配をしましょうか?」
「おや?カリギュラか、帰って早々だけど報告」
「はっ」
音も無く最初からそこにいたかのように現れたカリギュラに、特に動じる事無くルッツフェーロは紅茶を飲みながら報告を受ける。
「バウマン様は一時的にヴィーヴィル領で匿っています、国外への移送は塞翁様に委ねましたのでその先は、マリアローズに関しては王都に派遣されている地方貴族を介して南部を中心に手続きが進められているので、近い内に街道警邏は悲願だった逮捕権を手に入れマリアローズ逮捕の為に各地で暴威を振るうと思われます、これは副次的な結果ですが移民系議員もバウマン様の為に動いているようです」
「そう、でサル君は?」
「…問題なく処理しました、第三中隊の者には自殺にしか見えない筈です」
報告を聞き終えた満足そうに皿に乗せれてたクロックムッシュをナイフとフォークで切り分け、一口食べようとして何故か親の仇を見るような目でフォークに刺したクロックムッシュを見つめる。
「どうかされましたか?焼き加減は気に入らなかったとか?」
「いや違うよ、ただあの小娘はボクの好物であるクロックムッシュを考案して記事に載せたのさ、オーブントースターの宣伝を兼ねてだ…腹立たしい、ボクだけの物だったのに……」
「心中お察しいたします」
と、カリギュラは言いつつ心の中では別の事を思っていた。
(これがセーシャル様が言っていた力を授かった者の悪癖…何かに対して異様なまでの強い独占欲を持ち、時としてそれが理性や知性を上回る…セーシャル様が全幅の信頼を置くこの方ですら、私怨で動いてしまうとは……)
カリギュラはマリアローズが生贄として差し出された理由が何かの思惑からではなく、純粋な私怨からだったのではないかと思うが、自分が命令された時にはまだオーブントースターが売り出されていなかった事を思い出してその疑念を頭の中から振り払う。
「それじゃあ答えるかな」
「は?それは一体…どう意味ですか?」
唐突に何時もの証人としての顔に戻ったルッツフェーロはカリギュラに話し掛け、その意味を理解出来ずカリギュラはただ困惑するばかりだった。
「君は疑問に思っているんじゃないのかな?サル君を始末した事に」
「!?何故……」
カリギュラは驚きを隠せなかった。
確かにサルコジを始末する事に納得が出来ていなかったからだ、それは殺した今も納得が出来ず他にも選択肢はあったのではないのか?これは悪手だったのではないか?その疑念がカリギュラの中で渦巻いていた。
だが同時にそれを悟られる様な未熟では自分に課せられている役目は全うする事は出来ないと、カリギュラは理解しその疑念を直隠しにしていた、だからこそ驚きを隠す事が出来なかった。
「精神干渉は…その様な力だったのですか?…っは!?」
「いや、これは異能ではなくて商人としての感、感の悪い奴は商人にはなれないのさ、それと気にしなくていいよ、君は使える男だ」
思わずカリギュラは禁止されている質問をしてしまうがルッツフェーロは気にしなくていい、何も聞いていなかったと身振り手振りで示すと最初に行ったサルコジを始末した理由を語り出す。
「君はこう思っている、サル君があれ程の錯乱を起こしたのはボクの異能で精神を摩耗した事が原因で、適切な休息を取らせれば元通りになるのだから生かしていても問題は無かったのではないか、だね?」
「はい」
「確かにそうさ、本来の彼はもっと強かだ、あの程度で錯乱して半ば発狂するような男ではなかった、だけどね…彼は悪人でもなかったのさ」
「悪人ではなかった?」
カリギュラはルッツフェーロが言わんとする事が分からなかった。
サルコジは決して善人ではなかったからだ。
生まれはソルフィア王国の外、人間の国で元はそれなりに歴史と伝統のある小国だったが争乱が終結して100年を経た現在でも平和とは程遠い大陸情勢もあり、サルコジは幼い頃には既に故国は取り返しの付かない所まで腐敗し切っていた。
それ故にサルコジは早い内に犯罪に手を染め、王国の外にまで手を伸ばしたオルメタに勧誘されルッツフェーロの部下になった。
だからカリギュラにはサルコジは悪人にしか見えなかった。
「サル君はね…半端なのさ、環境が彼を悪人に仕立て上げた、だからね彼は良心の呵責に苦しんでいた、本人は自覚してなかったけど確かに苦しんでいた、現にマリアローズの件で錯乱しただろ?つまり彼はいずれ裏切る、良心の呵責に耐え切れずにね」
「…つまり、そうなる前にですか?」
「そう、何より時期が悪い、今はほんの小さな可能性も許容できない、それくらいに追い詰められている」
ようやくカリギュラはルッツフェーロの意図を理解する事が出来た、表情にこそ出ていないが彼もまた追い詰められているのだと、
「さて、残る問題は…塞翁か」
「彼が、どうかされたんですか?」
「手紙を送って来た、その内容は凄く馬鹿げているし何より…」
「何より?」
「忘れてくれ、それじゃあ少し休んだら次の仕事を頼むよ」
「分かりました」
カリギュラは恭しく礼をするとまた最初から居なかったかのように消える。
それを確認したルッツフェーロは呟く。
「彼が眷族で良かった…サル君のような成り損ないは心が脆くなるから使い勝手が悪い、それと成り損ないを魔族と称して人を集めるのもそろそろ限界かな?」
そう呟き、また好物のクロックムッシュを親の仇のように睨みつける、いや浮気をした恋人を睨むというのが正しいのかもしれない。
♦♦♦♦
「人聞きの悪い事を言ってくれるね、これだから異端審問官は品性に欠けると言われるのだ、街道警邏にバウマンの身柄が渡ったのは君達が強引に移送計画を推し進めたからだろ?マリアローズさん、彼等のように法の一つも守れない無作法者をしようしていけませんよ、特に!この男は信用したら最後、骨の髄までしゃぶりつくす外道の極みの様な男ですから!」
「戯けた事を、我々が計画していたのは列車での護送だ、それも軍用路線を使ってのだ、それを蒸気自動車での護送に変更したのはお前達中央警邏ではないか、途中で故障してヴィーヴィル領に立ち寄る羽目になると想像できなかったのかな?いいかマリア、こいつらは正義を掲げて平然と二枚舌で人を騙し誑かす詐欺師の様な奴等だ、特にこの男は人としての良心の欠片の無い、悪鬼も裸足で逃げ出す下種だ、決して信用するな」
さっきからこの調子だ。
ヴェルガッソラさんが説明を始めようとした瞬間に司祭様が乗り込んで来てからお互いに責任の擦り付け合いを始めて、今はボクを味方につけようとお互いを罵り合っている。
後ろにいるロドさん達やヴェルガッソラさんの部下さん達は一様に溜息を吐き、自分の上司の醜態に頭痛がするのか頭を押さえて苦悶の表情を浮かべている。
それはボクも同じだ。
ボクがバウマン家当主で数々の犯罪に手を染めた凶悪犯に仕立て上げられた理由を説明すると神妙な面持ちで言ったのに、ヴェルガッソラさんは罵り合いに夢中で一向に説明してくれない、まあだけど何となくだけど理由の一つは二人の会話から推測できる。
ようは二つの組織がお互いにバウマンの身柄を確保する為に争って、その隙にバウマンと繋がりのある議員達が街道警邏に「バウマンを助けてくれれば街道警邏の存続に尽力する」と言って、彼等を味方につけて偶々偶然なのかボクがバウマンの身代わりに選ばれたみたいだ。
ただまだ分からない事が多いからはっきりと結論は出せないけど、ただ街道警邏の仕事は街道を散歩して何かあれば市中警邏に連絡し、領地毎に色々と管轄権で揉める市中警邏の代わりに犯人を刑務所とかに護送するのがお仕事の人達で、警邏と言われているけど逮捕権を持っていない組織だ。
そんな組織が正規の大罪人を助ける為に動いたのだから、相当な甘い汁をたっぷりと味わい尽くし蜜月を過ごせる時間、この二つの組織で重要な地位にいる二人が喧嘩していたというのだから呆れ果てて怒りも湧いてこない。
「いいですかマリアローズさん、彼が言う事は全て虚偽だと思ってください」
「マリア、付き合いの長い君なら分かってくれると思うが絶対に!この男だけは信用するな!」
どっちを信用するのも…嫌だというのが本音だ。
そんなボクの本音を代弁するようにメイド長さんが二人に苦言を呈してくれた。
「私等かすればアンタ等の違いは、頻繁に法を破るか稀に法を守るかの違いしかないさね」
さっきから過去の事を例に出して避難しているけど、それが完全にブーメランのように自分自身に帰って来て、評価下げている事にこの二人は何時気が付くのだろうか?それとヴェルガッソラさんも司祭様と同じタイプの人だったみたいだ。
つまり頭の良いお馬鹿さんだ。
あともういい加減にいい大人なんだから喧嘩は止めて欲しい、もう一時間もこの醜態なのだ、とボクが心の中で呆れていると急にシャーリーさんが立ち上がってテーブルに踏み壊さん勢いで足を置いた!?
「貴方方は!貴方方は、何て恥晒しなのかしら!今この瞬間にもマリアちゃんの身に!危険が迫っているというのにお互いの自己保身の為に喧嘩するなど…恥を知りなさい!!」
シャーリーさんは大奥様も驚く剣幕で喧嘩を続ける二人を怒鳴りつけた。
「口を開けはお互いの粗を言い合うだけ、今回の件に関する説明も釈明も無し!どこまで愚かなのですか!」
顔を真っ赤にして鬼の形相のシャーリーさんに睨まれた二人はまるで、蛇に…いや八岐大蛇に睨まれた老夫婦のように怯えながら抱き合い震えながらシャーリーさんを見上げる。
「もうこれ以上の時間浪費は許容出来ません、なので私の質問にのみ答えてくださらない?」
「シ、シャーリー、おち―――」
「私が何時、質問以外で口を開く事を許しましたか?ララさん」
「はいなの」
元気よく凶暴な笑みで答えたララさんはバン、バン、バン、と三回どこからともなく取り出したリーリエさんが持っていた拳銃よりも厳つく凶悪そうな拳銃を発砲した、それはもう流れるように躊躇いも無く、司祭様の足元を綺麗に撃ち抜いた。
「次は眉間なの!あ、両腕両脚を順番に撃つのもいいの、こいつは10ミリだからいい感じに手足が吹っ飛ぶぞ?」
「はい!真面目に質問だけ答えます!」
「右に同じ!」
楽しそうに凶悪な拳銃を司祭様の右手にララさんは照準を合わせた事でそれがただの脅しではない事を悟った二人は、先程までの聞き分けの悪い子供の様な態度を改めて顔を真っ青にしながらシャーリーさんが質問するのを行儀よく待っている。
というよりもいいの?そんな凶悪な拳銃を、熊も平然と撃ち殺しそうな物騒な物を一般人が持っていて!ソルフィア王国の銃刀法はどうなってんの!?
「質問は一つです、貴方方はマリアちゃんがあの男の身代わりにされた経緯と理由を把握していますか?」
「す、すまない!殆ど把握できていないのだ!マリアに逮捕状が出されたと聞いて急いで来たもので……」
「わ、私もだ、私も大急ぎで来たので、詳細は把握できていないんだ」
さっき、事情を全て説明しますみたいな事を言っていたような…とボクがジト目でヴェルガッソラさんを見ると気まずそうにボクから視線を逸らした、あれだけ言い訳を考えていたからてっきり詳細を把握していると思っていたけど、どうやらこの人は見掛け倒しなのかもしれない…いや、見掛け倒しだったら出世は出来ないと思うからたぶん本当に寝耳に水という事態だったのかもしれない。
そう、思うようにしよう。
「はあぁ…これだと、どうしましょう小母様?」
話を振られた大奥様は少し考えてから「一番、この事態を把握していそうな人物に心当たりがある、この国で随一の腹黒い男だ」と言い、その人物にシャーリーさんは心当たりがあったみたいで、手を叩いで「ああ、あの人か……」と言った後、シャーリーさんはメイド長さんとロバートさんを近くに呼んだ。
「ロバートさん、銀行に行ってそうね…6000万くらい下ろして来て、ベルベットさんは大きな鞄を三つ用意して」
「ふむ、ふむ、成程、ではすぐに準備して来ますが全て紙幣で?」
「ええ、西部なら金貨だけどここは王都だから紙幣よ」
「ならバックも違和感がないのを選ばないといけないね、すると少し長めに時間を貰っても?」
「いいわ、ただそこまで時間の猶予は無いから早めにね、小母様、お姉様に服を貸してあげてくださらない?認めたくないけど、小母様は今もスタイルがいいので」
「ああいいぞ、さあ2階に行くぞベティー、前から一度は綺麗に着飾ってあげたかったんだ、まだまだ少女だというのにもったないぞ」
「え?シャーリーどういう事?それに大奥様!?」
今まで見た事のないニコやかな顔で大奥様はお母さんを引っ張って行った、綺麗に着飾るってお母さんがお洒落をするの?ええぇ…大丈夫かな、世の男達は?お母さんがだよ?薄っすらと殆ど化粧をしていない程度のお化粧であれだけのエロさだよ?変な男…司祭様とヴェルガッソラさんが何かしそうだったら潰そう……。
「物騒な表情で馬鹿二人を見てないでマリアちゃんも準備、それと一つ確認したんだけど」
「はい?」
何だろう?シャーリーさんが悪巧みをしている人のような怪しい笑顔でボクを見て来る、何を…考えて、思い付いて実行に移そうとしているんだろう?
「体の柔らかさには自信ある?」
「体の柔らかさですか?はい、それなりにこんな風に指先じゃなくて手の平を付ける事が出来ます」
ボクはシャーリーさんの前で前屈をする、ふふふ、体が硬いと怪我をしやすくなると生前からボクは柔軟体操は欠かせずして来た、それは今も変わらない、バレーのプリマドンナにも劣らない体の柔軟を維持し続けているのだ!
「なら問題ないわね」
「ふえ?」
問題ない…何がだろう?でもとても嫌な予感がする。
♦♦♦♦
「おい貴様!どこに行くつもりだ!」
「どこにって、所用で議事堂に行くだけよ」
「議事堂?何しにだ?それとその大きな鞄には何が入っている?」
だ、大丈夫かな?確かに最初は説明を聞いた時、やれるんじゃないかな?と思ったけどいざ本番となると、すごく不安だ…だけどこれ以外の手段はなかった訳でここは我慢だ。
「鞄の中身?お金、ざっと6000万ソルド」
「ろろろろろろ6000万!?なにに使う気だ?いいや、分かってる分かってるぞ!その金を議員に掴ませる気だな?没収だ!献金賄賂は犯罪だ!まずは中身を検分させてもらおう!」
「はあぁ…いいわ、ロバートさん、見せてあげて」
「はい、鞄一つに対して2000万ずつです」
「ほ、ほ、ほほほおほほ本当に、本当に2000万もあるぞ!没収だ!証拠として全て没収だ!」
うわ…ここまで欲に塗れた声は初めて聴いた、あまり耳障りの良い声じゃないな。
存在意義が無いと言われていても警邏と呼ばれているならもっと誇りを持って欲しい、アーカムの市中警邏さんは勇敢で仕事に対して熱いそれはもう燃える炎の、元プロテニス選手のあの人のように情熱に燃えている人達ばかりだった。
その人達と同じようにとまで言わないけど100分の1でも情熱を持って欲しい、あ、悪い方での情熱は燃やしているか、さっきからお金に目が眩んでとんでもない理由を並べて今は「私も鬼ではない、まあは2で手を打とう」とか言ってる。
どっか行ってくれないかな、いい加減に辛い……。
「言っておきますがこれは全て支払い、今まで父が滞納していた税金等の支払いに、納税の為のお金ですわ。金額が金額だけに公的な手続きが多く必要という事から議会堂での受け渡しとなっています、1ソルドでも手を出せば税務庁が黙っていませんよ?」
「な!?何を言っている!私は騙されんぞ!とにかくだ、それは証拠品として没収する!」
「没収ではなく押収ですよ」
「そうとも言うがそれを全て渡しなさい!」
「おいそこのお前!何をしている!?」
「よかった、警邏官さんこの方が鞄を寄こせと、それに厭らしい目で……」
あ、お母さんの声だ。
まだお母さんがどんな姿に変身したのか見てないかあすごく気になるけど、駆け付けて来た警邏官さんの生唾を飲む音がここまで響いて来たという事は…まあ、それよりもたぶん打ち合わせ通りだと思うから後は警邏官さんが追い返してくれる筈だ。
あと、お母さんを厭らしい目で見たら……潰すよ?
「貴様、街道警邏だな?この馬鹿が!お前達にはそんな権限は無いだろが、それと証拠品の押収に関しても色々と手続きがあるんだぞ?とにかくお前は恐喝の現行犯で逮捕な」
「はあ?え!待ってください私は!」
「ええい煩い、そい!」
「げば!?」
え!?なんか鈍い音がして人が倒れる音が聞こえて来たけど何があったの?
「では本官はこの馬鹿を豚箱に入れて来ますので、それと表から行った方が良いですね、裏通りを中心に張り込んでいるみたいです」
「ええ、ありがとう。それじゃあ行くわよ」
「待たせたね、ロバート代わってくれ、私はやっぱり自動車の運転は苦手さね」
「はっはっは、ベルは相変わらずですね」
そろそろいいかな?さすがにもう限界……。
「ごめんねマリアちゃん、今開けるから」
「自動車の中だからもう出て来ても大丈夫よマリア」
「あの…じ、地力で鞄から出るのは…無理です……」
か、体が痛い…確かに体の柔らかさに自信はあると言ったけど、まさか鞄の中に押し込められるとは……世が世なら児童虐待だよ?だけどこればかりは仕方がない、周りは街道警邏の人達が張り込んでいてボクが外に出るには変装か何かに隠れるしかなかった。
変装はさすがに無理があるから鞄の中に隠れたけど、もう二度とやらない、色々と体が辛いのと何と言うか…表現し辛いけど嫌だ。
さあ、愚痴はこれだけにして気を引き締めないと!
ボクは当事者として今からこの国の宰相に大奥様が「狡猾にして油断ならない」と評する相手に会わないといけない、気を引き締めないと簡単にとって食われてしまう。
ボクは気を引き締めながら窓から茜色に染まる王城が見る。
日本で言う所の国会議事堂と首相官邸の役割を持った場所でこのソルフィア王国の中枢、国王陛下が執務を行う場所でもある。
今からボク達はあそこに乗り込むのだ。
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