10話 黒衣の再訪
ご飯を食べて顔の左側にある火傷に薬を塗って包帯を巻き直す頃にはボクの魔力もだいぶ戻り、体には少し倦怠感と火傷の痛みはあるけど問題なく動けるまで回復した。
そしてグリンダとそのお父さんの警邏官のお兄さん、本名はアッシュ・ヴァルト=エマーソンさんは淑女の酒宴で保護する事になった、こういう時に頼りになりそうな司祭様達は不在だったりする。
今は一階にはアッシュさんと女将さんが今後の事を話し合っていて、ボクとグリンダとそれとリーリエさんとアストルフォの3人と一頭?一羽?は二階のボクとお母さんの部屋で待機している。
グリンダは日頃の心労とボクの事が重なって少し体調を崩してしまいベッドで眠っている、ボクは椅子に座りながらグリンダの看病をリーリエさんは…拳銃を整備している。
あれって確か坂本龍馬が使っていた拳銃だよね?いやでも少し違う、どこか西部劇に出て来そうな感じだ、あとアストルフォは普通に定位置で眠っている。
さてとボクは半日も気を失っていたから眠くない、それに何というか胸騒ぎがする。
バウマンとセーシャルがこのまま何もしてこないなんて絶対にありえない、必ずどっちかがもしくは両方が何か仕掛けて来る筈だ。
だから眠くならない、眠くならないけど手持ち無沙汰だ。
本を読もうかと思ったけどそんな気分にはなれないし、だからと言ってボーとしている訳にもいかない、何より落ち着かない、どうしたものか……。
「マリア、眠らねえのか?」
「はい、どうしても眠る気にはなれなくて」
「そうか、だけどちゃんと寝ろよ?じゃねえといざって時に体が動かねえからな」
「はい」
リーリエさんも落ち着かないのかさっきから拳銃に弾を篭めたり出したりしている。
ううん、何と言うか空気がピリピリしているという感じだ。
重たい沈黙とグリンダの暢気な寝息が聞こえて来るだけで、本当に重たい。
何か話をしよう、じゃないとボクがこの空気に耐えられない!
「あのリーリ―――」
バン!という大きな音が、映画とかで良く効く爆音が響いて一階から物が壊れる音や皆の悲鳴が聞こえた。
「お母さん!?」
「馬鹿!隠れてろ!」
「離してください!お母さんが!?」
あれは銃声だ!誰かがここを銃撃している!
さっきから途絶える事無く銃声が鳴り響いて、物が壊れる音が響いている、お母さんは?女将さんは?副女将さんは?シェリーさんは?ララさんは?キルスティさんは?セリーヌさんは?アデラさんは?皆は無事なのか!?
ボクの頭の中が混乱して今すぐに駆け付けたいという衝動にボクは身を任せて部屋から出ようとして、リーリエさんはボクを羽交い絞めにして静止する。
「落ち着け!今出たら危ねえぞ!大丈夫だ、下にはララがいる、あいつは元山岳兵だ、誰よりも勘が鋭い」
「でも!?」
『点呼!シェリー!』
『はい!』
下から女将さんが皆を呼ぶ声が聞こえて、それに皆が答える。
全員の名前が呼ばれ返事をしたのを聞いて、ボクは気が抜けてそのまま膝から崩れてしまう。
「落ち着いたか?カウンターは防弾仕様だ、あそこに隠れてば機関銃の掃射にも耐えられる」
「いや、機関銃の掃射って……」
ボクは冷静になったのを確認するとリーリエさんは女将さんの呼びかけに答える為に扉を開こうとドアノブに手を掛ける。
ボクは立ち上がって同じ様に答えようとした瞬間だった。
殺気を感じて後ろを振り向いた。
そこには忘れもしない5年前にボクを襲った黒衣の男が、窓を蹴破って侵入しようとする姿があった。
「リーリエさん!後ろです!!」
「ん?なっ!?」
ボクはリーリエさんに窓から侵入してこようとする黒衣の男の事を知らせるとボクはグリンダの隣に移動して、戸棚に置かれているポシェットからナイフを取り出して構える。
そしてリーリエさんは拳銃を構えると同時に黒衣の男は窓を蹴破って侵入して来る。
「動くな!撃つぞ!」
リーリエさんは拳銃を黒衣の男に向けながらそう叫んだ。
その声に反応して確かカリムがラシードと呼んでいた5年前にボクを襲った黒衣の男は立ち止まる。
だけどその表情からは拳銃に対する恐怖心は感じられなかった。
嗜虐心に満ちた残忍な笑みを浮かべている、それは拳銃など怖くも何ともないという顔だった、何よりアストルフォに切り落とされた筈の腕がある!?もしかしてこいつはボクと同じ様に内向魔法に特化しているのか?
ボクは慎重にラシードの出方を見る。
ラシードは拳銃を凝視した後、何故か愉快そうに笑いだす。
「クキキキ、そんな豆鉄砲で俺を殺す気か?俺を殺したければ大口径の拳銃を持って来い、女子供が使う為の銃じゃあ俺は殺せない」
ラシードがそう言った瞬間、リーリエさんは拳銃を発砲した。
パンという軽い音と共に撃ち出された銃弾はラシードの肩に命中したけど、撃たれたラシードは全く動かなかった、最初から何もされていないという感じだ。
「グルルル」
アストルフォは翼を広げて唸り声を上がる、グリンダは目を覚ました様だけど状況について行けていない。
やばい、色々と危機的状況だ。
リーリエさんはたぶん戦いは不得手だ、アストルフォは室内だから全力が出せない。
ボクは満身創痍でグリンダはただの女の子だ。
そして目の前にはラシード、改めて見ると万全の状態だったら時間稼ぎに徹すれば何とかなる相手だけど、今のボクは左側が見えないから上手く動けない。
死角に入られたら、たぶん一巻の終わりだ。
「マリアァァアアアロォオオズ!!」
ラシードは唸る様に呪詛の念を込めているかのような醜い声でボクの名前を叫ぶ。
その目は狂気に染まっていた、前と明らかに様子が違う。
どういう事だ?どこか悲壮な雰囲気を纏っている。
「殺す!お前達を皆殺しにしてぇえええ!セーシャル様に俺がまだ使えると証明してやるううう!!」
そうか切り捨てられたのか。
だから悲壮な雰囲気を纏っていたのか、そして本当に危機的状況だ!
相手は捨て身だ、ちょっとやそっとじゃ倒せない。
気絶させて無力化するとか通じない、息の根を止めても油断出来ない。
ゾンビを殺す様に頭を潰して入念に徹底的に壊さないと、指一本でも動き続ける限りボク達の命を狙い続けて来る。
誰か助けを、でも下も一大事だ。
助けは期待出来ない、だけどこのままだと誰かが殺される!
「誰か…助けを……」
焦る気持ちからボクの口は勝手に動いてしまった、その言葉を聞いたラシードはさらに顔を醜く歪めて勝ち誇った笑みを浮かべる。
……あれ?ラシードの後ろに誰かいる?誰だ?
燕尾服、そうドラマとかで執事が着る黒いあの服を来た初老の男性が後ろにいる。
え?何時の間に?リーリエさんもアストルフォも気付いていない。
これはボクの幻覚?危機的状況に助けが期待出来ない事に追い詰められて誰かが助けてに来た幻覚を見ている?
でもこんなにはっきりと幻覚は見えるの?分からない、幻覚を見た事が無いから分からい、だけど幻覚じゃないなら何で誰も気付かないんだ?
ボクが混乱していると執事服を来た初老の男性と目が合う、すると執事服を来た初老の男性は優しくボクに微笑みかける、その瞳はあの日のアストルフォがボクを安心させる為に向けてくれた瞳と同じものだった。
「いやその前に誰ですか貴方は!?」
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