8話 そんな性格だったっけ?
あれ?ボクは何で家のベッドの上で寝ているんだろう?
それに視界の半分、左側が全く見えない。
そう言えばエマは無事だろうか?確かボクはエマを守る為にエプロンを脱いでエマに被せてそしたら炎が迫って来ていて……駄目だ、その先が全く思い出せない。
曖昧とか霧が掛かっていてとかじゃかなくてその部分がすっぽり抜け落ちて空白になっている、いくら思い出そうとしても全く思い出せないし何より体を襲う倦怠感と左側に感じるヒリヒリ、ジンジンという痛みが邪魔でこれ以上、頭が回らない。
それよりもエマは無事なのだろうか?いくらエプロンが防火性があるとは言え、あんな大きな炎を迫って来ていたんだ。
下手をしたら大火傷を負っているかもしれない、ボクはその気になれば自力で治癒できるけどエマはそういう訳に行かない。
ボクはエマが心配になり起き上がろうとしたけど、駄目だ、倦怠感だけじゃなくて体そのものに力が入らない。
上体を半分も起こせない、だけどエマが心配だ。
このくらい屁でもない!
「マリア?マリア!何をしているのですか!?寝ていなさい!」
左側が見えなくて、頭もボーとしている所為で気付かなかったけど隣に副女将さんがいた。
「大丈夫…です、それ…より…エマが!」
声が上手く出ない、とても息苦しいい。
気付かなかったけどこれは魔力が枯渇している時に症状に似ている、つまりボクはまた重傷を負ったという事だ、それならエマは?一緒にいたエマは無事なのか!?
そう思った時、脳裏にエマが死んでいたらと思ってしまった。
激しい動悸、背筋を走る冷たい感覚、強烈な不安感に襲われた瞬間だった。
暢気な寝息が聞こえた。
「ぐが~」
そこには椅子に座って眠るエマがいた、腕とかに包帯を巻いているけど無事だった。
恐怖は安堵に変わり、体から一気に力が抜けて副女将さんに支えられながらゆっくりとベッドに倒れる。
とても暢気な寝顔だった。
ホッとした、本当に無事でよかった。
「マリア、何があったのですか?目撃した生徒は誰も彼も恐怖から証言がバラバラで、エマにも聞きましたがやはり詳細は把握していませんでしたが、カリムに襲われたと言っていました。目を覚まして早々、体に鞭を打つ事になりますが詳細の報告をお願いします」
そう言った副女将さんの顔は鋭く相手がボクじゃなかったら叩き起こしてでも情報を聞き出そうとしそうな、逼迫した顔だった。
ボクは大きく深呼吸をして起きた出来事を順を追って思い出して副女将さんに報告をする。
カリムの正体、セーシャルと名乗るボクと同じ世界から廻って来たと思われる男、そして委員会と今回の主犯がバウマンである事、そしてその目的が暴発を起こす事、最後まで何とか話し切れたけど駄目だ、思っていた以上に魔力の枯渇は酷いみたいだ。
直接、脳に釘を刺された様な鋭い痛みが走ってボクは思わず顔を顰めてしまう。
激痛で顔を歪めたボクを見た副女将さんはメモを取っていた手を止めてボクの額に手を当てる、すると何か温かくなり頭痛が和らぐ。
これは副女将さんの治癒魔法だ。
副女将さんはボクの表情から痛みが治まった事を確認するとノートを閉じて立ち上がる。
「ごめんなさい、もう大丈夫です。何か甘い物を持って来るので休んでください」
そう言って副女将さんは部屋から出て行く。
痛みは確かに和らいだけどやっぱりこの酷い倦怠感は和らがない、これは魔力が枯渇している時の症状で、魔力が一定の水準まで回復すれば治まるけどそれまでは耐えないといけない。
そして魔力の回復に関しては人それぞれ体質によって異なる、普通に寝たりすれば回復する人もいればボクみたいに食事で回復する人もいる。
さてボクはどれくらい寝ていたんだろう。
カリムが言っていた暴発する事がバウマンの望みだと、だけど副女将さんの口振りからバウマンの関与は断定できていなかったみたいだ、するとまだ自警団の人達は武装蜂起を起こしていない。
だからと言って猶予に構えてはいられない、特にボクがどれくらい眠っていたのか。
2,3日も寝ていたとしたら事態は完全に後手に回る事になる。
バウマンの目的が自警団の暴発なら目的はその先な筈だ。
地球で起こった事件を参考にするなら暴動鎮圧という大義名分の名の下に粛清を行う筈だ、ボクが住んでいた日本の周辺国家がよくやる手だ。
半日程度ならまだまだ対処が出来る、だからこそ眠っていはいられない!
ボクは震える体に鞭を打って起き上がる。
早く女将さんと副女将さんに伝えないと、惨劇が起こる。
「マリア?」
「起きたんですねエマ、よかったてつだ―――」
「うっぐぅうあぁぁ!マ゛リ゛ア゛ァァァァ!」
目を覚ましたエマに手を貸してもらおうと声を掛けた瞬間、エマはボクに抱き着いて大声で泣きだした。
ボクは呆気に取られてただ何でエマがここまで泣いているのか分からなかった。
「よがっだぁぁぁ!マリアが、マリアがお母様みたいに私を庇って死んでしまったら!私は!私は!!」
え?私!?エマ!君ってそんなキャラだったけ?それに声も何時ものハスキーな声じゃなくて何と言うか、そうとても女の子の声だ!どうして?もしかして2度目の転生!?いや、それは違うか。
「エマ!?お、落ち着いてください!とりあえず落ち着いて!」
「分かってる!分かってるけど、このバカ!何であんな無茶したんだよ!」
痛い!ポカポカという擬音が似合いそうな音を立てながらエマはボクの叩く、怪我をしているボクを気遣って力は抜いてくれているけど、でも今は普通に体が弱っているから痛い!
「バカバカバカ!!マリアがこのまま目を覚まさなかったらって!お母様の様に目を覚まさなかったら!私は!私は!怖くて…う、うあああああ」
「ごめん!ボクが悪かったから、とりあえず落ち着いてほら」
さらに大声で泣きだしたエマをボクは抱きしめる。
少し落ち着いたみたいだけど、まだ嗚咽が聞こえて来る。
ボクはエマを守りたい一心だった。
大切な友達を守る為に命に代えてでもって、馬鹿だボクは。
大切な人が自分を守る為に命を投げ出されても全く嬉しくない、もしもお母さんが同じ事になったらボクはきっと身を割かれる、いや死んだ方がマシだっていう気持ちになる。
それはエマだって同じだ。
ボクがエマを友達として大切に思う様にエマもボクを友達として思ってくれている。
勝手に命を投げ出され救われても、勝手に先に死なれても残るのは苦しみだけだ。
そうかこれがメイド道の本質、主を守り共に生き抜く常在戦場の心構え。
「ごめんねエマ、ボクはエマを守りたかったその一心でした」
「う゛ん゛」
「でも自分の事を軽んじていた、どうせ死ぬのは二度目だって諦めがついていたのかもしれません、だからあんな無茶をしました」
「う゛ん゛、ん?」
「だから誓います。二度も同じ過ちはしません、守り抜き生き抜く。どんな敵が来ても大切な人を守り抜いて一緒に笑う、その覚悟を持ちます」
「待ったマリア、その前に二度目って?」
「メイド道に生きる者として、何よりひ―――」
「ちょっと待って!今二度目って、死ぬのは二度目って!どういう事だ!もしかしてマリアは……」
あ、やっちゃった。
うっかり言っちゃった。
ボクの二つある秘密の内の一つ、廻者である事を!誤魔化そう。
「いや言い間違えました、その…えーと、死にそうになったかな?」
「嘘が下手過ぎだろ、明らかに一回死んだ事がある様な発言だったよね、もしかして廻者?」
「……はい」
エマは天井を見上げる。
まあこれが当然の反応だよね、お母さんや皆の反応が普通からズレているだけでエマの反応が正常だ、これだとエマとはもう友達でいられないかもしれない。
と、ボクが覚悟を決めるとエマはボクを真っすぐ見てハッキリと言った。
「分かった、だけどそれならマリアの家族には知られない様に私が協力するよ。家族を失う痛みはマリアには味わってほしくない、だから友達である私がマリアを守る」
強い決意に満ちた眼差しでエマはボクを真っすぐ見る。
ボクは少し泣きそうになった、だって心の友が出来た瞬間だったから。
エマはボクの正体を知っていてもそれでも友達だと言ってくれる、とても嬉しいけど言わないと周知の事実だって。
「エマ、そのとても嬉しいのですが実はボクが廻者である事はボクが生まれる前から皆知っていまして、周知の事実なんです」
「……これって友達として喜ぶべきか、それとも私の決心を無駄にしやがってと怒るべきなのか、どっちかな?」
「ええと、夕飯を食べて行きますか?」
「うん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます