23話 初めての誕生日
「ふふ、やっとこの日が来たわ」
「そんなに楽しみだったんですか、お母さん?」
「そうよ、娘の最初の髪結いは母親の特権だからね、お母様、貴女のお祖母ちゃんも私の髪を結うのを楽しみていたわ」
お母さんはそう言いながら長く伸ばしたボクの髪を丁寧に結って行く。
お母さんや女将さん達がしている髪型で伸ばした髪を束ねて後頭部で丸く纏めて行く髪型でメイドに奨励されている髪型の一つシニヨン、心はまだ男のままだから少し複雑な心境だけどお母さんとお揃いなのは素直に嬉しい。
他にもリーリエさんやセリーヌさんの様にショートの人もいればシェリーさんみたいに肩まで伸ばしてポニーテールにしている人もいる。
ボクの気持ち的にはショートの方が気持ち的には楽だけど、いずれは自分の心と折り合いを付けないといけない、なら今日を切欠にすこしずつだけど自分が女の子に生まれ変わった事を受け入れて行こう。
「はい、出来ました。うん可愛いわ」
「ありがとうございますお母さん」
ボクは鏡に映る自分の髪型を確認する、おおシニヨンだ。
さすがにまだ長さが足りないからお母さんや副女将さんみたいなボリュームは無いけどシニヨンだ。
「お母さんとお揃いですね」
「ええ、お揃い」
思っていた以上に嬉しい、うんシニヨンは良い物だ。
「ベティー!マリア!準備できたぞ!」
下から親方さんの声が聞こえて来る、今日はボクの誕生日の為にお店を休みにして常連のお客さん達にも参加してもらって、盛大にお祝いしてくれる事になった。親方さんやニムネルさん、お弟子さん達やグスタフさん、あとお母さんに何度もアタックしては即答で断られている警邏官のお兄さんと司祭様も来ている。
そう言えば最近知った事なんだけど司祭様がボクに、ボク自身の生い立ちを語った日に一緒に来ていた三人組、つまりロドさん達なんだけど女将さんに聞いたらボクが襲撃された事件の後からロドさん達が身辺警護をしていてくれていたみたいで、お母さんとは面識は無いけど亡くなったお祖父ちゃんの元部下で軍縮で職を失った陸軍の士官さんだったらしい。
お祖父ちゃんは軍人だったと聞いているけど何者だったんだろう、お母さんもお祖父ちゃんが陸軍の将校で大佐という事以外は知らないらしい。何者で何をして来たのかは誰も知らない。
今度、機会があったらロドさん達に聞いてみよう。
下りる前に身嗜みが整える、人生初の誕生日パーティーなのだから恥ずかしい格好は出来ない、ボクは入念に身嗜みを整えてお母さんに手を引かれながら一階に下りる。
「主役が来たから始めるとするかね。それじゃあ―――」
「「「お誕生日おめでとう」」」
一斉に皆がボクをお祝いしてくれる、やばいもう泣きそうだ。
「泣く程嬉しいか嬢ちゃん、ほら俺からのプレゼントだ。業物だからよ、気を付けて使えよ」
「ありがとうございます親方さん!」
親方さんがくれたのは……ナイフだった、ボクには少し大きいけど柄は滑らない様に加工されていて、一目で業物どころの話じゃない一品なのが分かった。
「まあ、今は女将に預けときな、危ねえからよ」
「親方、分かってるなら別のにしましょうよ……」
お弟子さん達は少し呆れ気味だったけど、でもすごく嬉しい。
「次は私だな、私からソルフィア教のきょ―――」
「馬鹿は放置して私共からはこちらを、魔除けの護符で東部の隠れ里で作られている
司祭様が教典を渡そうとした瞬間にロドさんが司祭様の押しのけてプレゼントをくれた、綺麗な朱色の簪で先の方には赤色の薔薇と白色の薔薇の飾りが付けられている。
「ありがとうございます。お母さん!」
「はい、動かないでね」
さっそくお母さんに付けてもらう。
その後もハリエットさんは植物の図鑑を、グスタフさんからは万年筆、警邏官のお兄さんは……教科書だけど高等部用と書かれている、ボクはまだ6歳だよ。
そんなんだからお母さんに振り向いてもらえないんだよ?
そして最後に女将さん達からは靴や辞書を貰った。
初めての、生前は最後まで知る事が出来なかった誕生日を祝ってもらうという事、知らなかったこんなにも嬉しくて楽しかったなんて。
大きなケーキや美味しそうな料理、皆と一緒に食べながらボクは人生初めての誕生日を満喫した。
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