22話 訳が分からないよ……

 今日はボクの初めての誕生日で、それに向けて準備をしていたら良く分からない事が起こった。




「っざっけんじゃないよ!」


 女将さんの怒鳴り声が響く、他の皆も表情が険しい。

 まあ、ボクも内心は穏やかんじゃない。


 怒鳴られたのはギルガメッシュ商会の人達、腰を抜かしているのはアーカム支店の店主のボッシュさん、そして女将さんを怒らせたのもボッシュさん。


 端的に理由を言うとボクを売ってくれ、ついでに売れない商品を引き取ってくれ。

 怒るよね普通に、何で相手が怒らないと思ったんだろう。


「内のマリアを売れだあ!ぶっ殺されないのかい!!」

「いえですから、養子縁組の提案をですね、彼女のは素晴らしい才能が有りますので是非とも―――」


 その瞬間、ボッシュさんは宙を舞った。

 アデラさんの土人形、お母さんの氷の弾丸、リーリエさんの水流と皆の魔法が炸裂した。


「そういうのを売れっていうんだよ!どこの世界に自分の家族を売る馬鹿がいるんだい!帰りな、さもないと次は」


 女将さんの拳が光を放つ、そしてボッシュさんの顔のすぐ横に振り落とされる。

 女将さんの拳はレンガを粉々に砕き、衝撃で小さなクレーターまで作っていた。


 そんな恐ろしい鉄拳を顔のすぐ横に落とされたボッシュさんは泡を吹いて意識を失っていた。


「当て、ん?のびたのかい、軟弱だね」


 女将さんはボッシュさんを持ち上げると一緒に来ていたギルガメッシュ商会の人達に投げて渡す、商会の人達は最初は受け取ろうとしたけど受け止めずに避けた、そして一斉に頭を深く下げる。


「どういつもりだい、あんたらも同じ考えじゃあないのかい?」

「いえ、この男一人のの暴走です。ただ質の悪い事に商会の創設者の一人を曾祖父に持つ事から誰も意見が言えず……」

「そうかい、じゃあさっさと失せな。後ろでダルトンが今にも暴れ出しそうになってるからね!」


 あれ、本当だ!お店の目の前に親方さんがいる。

 顔を真っ赤にした親方さんがお弟子さん達に羽交い絞めにされている、そう言えば今日は親方さんに頼んでいた調理器具が届く日で試食会にも招待していたんだった。


「離せ!クソ!テメエ!二度と商会に物卸さねえ!!」


 さっきのやり取り見られてたんだ、でも親方さん、ギルガメッシュ商会との取引はダルトン工房の貴重な収入源なんだから商品は卸した方がいいよ。


「……本日は一旦帰り後日、正式な謝罪をさせてください。あとこちらの商品は無料で差し上げます」


 そう言うと馬車から木箱を下すとギルガメッシュ商会の人達は帰って行った。


 ……ん、というか何でこんな事になったんだっけ?今日はボクの誕生日で準備を進めていて、で急な来訪でボッシュがあれしてこれして、急展開過ぎて頭が追い付かない!


 お店に入って来るなりボクに養子縁組を持ちかけて来て、しかもその相手がボクの血縁上の父親で悪名高いバウマン、それで女将さん達が怒り狂ってしまい……本当に何でこんな騒ぎになったんだろう?


 まあ、いいか。

 こうい事もあるか。


 とりあえず今はさっきから暴れている親方さんを落ち着かせる事を優先しよう。

 ボクは親方さんに椅子へ座ってもらい、少し前に親方さんに作って貰ったジューサーで特製のミックスジュースを作って親方さんに飲んでもらう。


「落ち着きましたか?親方さん」

「ああ、その前に嬢ちゃん、落ち着いてんな」

「それはまあ、ボクが怒る前に皆が怒っちゃったから、それに頼んでいた物が届いたからそっちが優先かな」


 展開が早過ぎて今でも何が起こった分からないしね。

 何度も思い返すけど、いきなり現れてボクを物の様に言い出して女将さんが怒ってと、正直馬鹿らしいので今はドーナツを作る事を優先したい、何より今日は誕生日だからそっちの方が重要だ。


「それにしても伸びたな、髪だけが」

「身長も伸びました!」


 失敬な、これでもそれなりに身長は伸びたのだ。

 同年代より頭一つ分小さいけど、それでも伸びたんだ。


「しかしもう6歳か、早えなちょっと前までこんなに小さかったのによぉ」

「親方、それは小さ過ぎますよ」


 親方さんが椅子に座った自分の膝の高さに手を置いてボクがこんなに小さかったと言って来る、それを見たお弟子さんは笑いながらツッコミを入れる。

 ボクはそんなに小さくないですからね!


「失礼な事を言う人達にはドーナツあげませんよ」


 ボクはそう言ってテーブルにドーナツを置く、揚げたのはリーリエさんだけど生地作りとかはボクがした。


 西部にも似た様な物はあるらしいけど、ドーナッツとは違って球状で果物の砂糖漬けとか入れて揚げた物で親方さんの好物でもある。

 今回の試食会も喜んで参加してくれたけどニムネルさんは事務処理で来れなかった、なのでお土産も忘れず用意しておかないと。


「ほう、何となく想像ついていたが本当にリング状だな」


 揚げたて熱々のドーナツを平然と掴んだ親方さんは豪快に一口、少し硬めに作ってあるから食べ応えがある筈だけど、喉が渇くと思うから牛乳を用意しておいた方が良いかな。


「旨いな!形が違うだけでここまで変わるのか」


 材料も違うんだけどなあ、まあ良いか。

 親方さんに作ってもらったのはドーナツメーカーとドーナツスプーン、メーカーの方が昔欲しくて何度か調べたから構造は何となく分かっていた、でもいざ図面にすると曖昧な所が多くて、それなのに親方さんは説明書きから目的を理解して作ってしまった。


 親方さんは本当にすごい職人だ。

 ニムネルさんの分を紙袋に入れて親方さんに渡す、今回はニムネルさんは忙しくて試作品を試す暇が無く、試食会にも行けなくて落ち込んでいたらしい。


「ありがとうよ、また何かあったら言ってくれ、面白れぇ物は何でも歓迎だ!」

「はい、また何かあったらお願いします」

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