21話 試食会です!
「それじゃあ、試食会を始めるよ!」
女将さんの掛け声と共に試食会が始まったんだけど、ピラニアの様に一斉に新メニューを殺到するメイド、ちょっとシュールだけどそれだけ待ちわびてもらっていたのなら嬉しいな。
「うわ!?このギョーザ、今まで食べた事の無い味だ!」
「野菜が甘い、それにこの皮がもちもちでたまらないわ!」
「羽根っつうんだっけ、これは香ばしくて良いな」
良かった、ギョーザは問題なく受け入れてもらえたみたいだ。
それじゃあボクも…うん、ちゃんとたっぷり野菜を入れたから甘くて美味しい、だけど鶏がらスープの素は別の方法で何とか出来るけど、紹興酒や味醂が無いのはとても痛い。
味は悪くないんだけどやっぱり旨味が足りない。
足りない旨味を補う為に作った酢醤油はビネガーを使ったから少し癖があるけど悪くない、ホットオイルを入れた方も辛みが良い塩梅だ。
「マリア!これはビールが欲しくなるよ、入れてくれないかい」
「はい、分かりました」
「ベル、真昼間からお酒は……」
女将さんが豪快にビールを飲む姿を見て呆れる副女将さん、でも仕方ないよ。
日本でもギョーザと生ビールは鉄板だったから、ボクは飲んだことが無いから分からないけどフランスでは日本式と称してギョーザとビールが定番になり始めているとテレビで紹介されていた、だから女将さんがビールを飲みたくなったのも仕方ない事だ。
さて次は副女将さんが作ったフライドチキンだ。
さっきから美味しそうな匂いがボクのお腹を襲撃して来て胃袋が早く食べさせろと暴れている、カラアゲより少し大振りに切ってあって、コンビニの骨なしチキンに形が似ている、匂いは今まで嗅いだ事の無い魅惑的な匂いで、まだ食べてもいないのに涎が止まらない!
ボクは我慢が出来なくなってまだ熱々のフライドチキンを手で持って豪快に齧り付いてしまった、でも仕方が無いのだ、匂いだけでご飯が何杯も食べられるのだから。
「美味しい!こんなに美味しいフライドチキン、ボクは食べた事がない!!」
絶妙な配合、本来なら最上級の誉め言葉の一つなのにこのフライドチキンに対しては全く足りない、神懸かりに配合されたとしか表現できない香辛料、鶏肉の旨みと香辛料の風味が奏でる銀河級の交響曲、何と言うかもう正しくその味を例える言葉をボクは持っていない。
これが天にも昇る至高の味!
「確かにこいつぁあビールが進むね!」
え!?いや、女将さん?ビールが進む以外にも感想があると思うのですが…駄目だ、女将さんはギョーザやフライドチキンを肴にビールを飲むのに夢中になっている。
他の皆もフライドチキンを絶賛しながら我先に食べている。
すると副女将さんはボクの頭を撫でて微笑む。
「マリアのおかげです」
「ボクのですか?」
「ええ、店を開いてから他の飲食店から何度も抗議を受けて料理が出来ずに燻っていたら、楽しそうに、一生懸命に料理をする貴女を見ていたらまた火がついて、昔の感が戻り―――」
「マリア、ギョーザお代わりなの!足りないの!」
ボクに深く女将さんが何かを伝えようとした瞬間、ギョーザを食べ尽くしたララさんがお代わりを所望して来た。
一瞬で無表情に戻った副女将さんは静かに殺気の篭った目でララさんを見る。
「少し空気を読んでください、それとギョーザのお代わりは材料がないので諦めなさい」
「わ、分かったの、カラアゲとフライドチキン食べるの……」
ララさんは怯えながら食べ始める。
うん、横にいたボクも怖かった。
「フライドチキンも旨いが、この塩カラアゲも良いねえ。サッパリしてビールが進む!」
「確かにぃこれはぁ良いわねぇ、醤油よりもこっちが好みねぇ」
「そうですか、私は醤油の方が美味しいと思いますよ」
あれ、何故か空気が不穏になり始めた。
気づいたら塩派と醤油派に分かれてる!?
これ、お店に出しても大丈夫なのかな、キノコとタケノコと同じで争いの火種にならないかな。
「こりゃあ、明日から忙しくなるねえ」
「油鍋の追加、必要かもしれませんね」
「その前にあの争いを止めないと……」
ボクは、ボク自身がこの世界に持ち込んでしまった新しい争いの火種を見て深いため息をついてしまう。
目の前で塩と醤油、それぞれどっちが美味しいか言い合いが始まっていた。
翌日、やはりお客さんの間で塩派と醤油派の争いが生まれたのだった。
あと副女将さんの作ったフライドチキンは、他の飲食店から強い抗議を受けてしまい月に一度だけしか提供できなくなってしまった。
すごく残念だ。
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