14話 ヒポグリフ
司祭様は僕に一通りの説明をしてくれた後、僕が助からないかもしれないという事実にショックを受けて気を失ってしまったお母さんに、無事、僕が目を覚まして快方に向かっている事を伝えに行った。
司祭様が部屋を出て、僕は一人になった。
深く深呼吸をする。さて、状況を整理しよう。
僕は黒衣の男に襲われ瀕死の重傷を負い、ソルフィア教のアーカム教会に運び込まれた、アーカム教会は領都アーカムで唯一の医療行為が出来る場所でもある。
アーカム教会は国と信者からの支援により無償の医療奉仕が行われているからだ。
何かと領税の高いセイラム領では医薬品の類には膨大な領税が掛けられていて、更に職業税によって医師である事だけで毎月恐ろしい額の領税が要求されるので、街にあった病院や診療所は閉鎖している。
ソルフィア教は国家機関という側面もある事から領税の適用外でセイラム領の職を失った多くの医者を教会関係者として雇用し、昔と変わらない医療体制を維持し続けている。
セイラム領の領税は高い、それはシェリーさんの授業で教わっていた。
曰く「学校税とかもあってぇ、それで学校に通えない子供が多いのぉ、教師税もあるのよぉ」との事で、無茶苦茶ですね。
医薬品税で所持しているだけで毎月領税が取られ、しかも患者税もあって患者一人当たりでも領税が取られる、国が定めている税金、国税は聞いた限りだとヨーロッパに似ているけど所得に対して極端に高いという訳ではないし職業税とかそういう無茶苦茶な税金は無い、セイラム領が極端で異常なのだ。
国税に領税を上乗せしつつ独自過ぎる領税を考えられるだけ作って、納めさせている、いやこれはもう搾取だ。それに幾つもの領税が国税と被っている、これも違法だ。
法律で国税と領税を重複させるのは禁止されているのだ。
話は逸れたけど僕はアーカム教会に運び込まれたんだけど、肝心の医師は付近の村々や他の街との会議で不在、留守を任されていた応急処置や治癒魔法が使える司祭様が治療を行った。
で、母さんは僕の容態を聞かされてショックで気を失った。
僕は魔力に目覚めて一命を取り留める所か即日快方に向かっている、これが今の現状でお母さんはまだ気を失っているらしい。
「お医者様が帰って来るまでは、入院か……」
司祭様では詳しい容態を判断できないから、街で一番のお医者様に容態を見てもらい退院はその人の判断で決めるらしい。
「はぁ、本当なら今はお引越しの最中なのになぁ……」
KYという言葉、黒衣の男、いや変態黒男に贈ろう。
あの変態黒男の所為で全部滅茶苦茶になってしまった、でもあのヒポグリフ。
「カッコよかったなぁー」
騎士の様に僕を守る為に躍り出て、変態黒男を圧倒する姿は映画やアニメに出て来る騎士そのものだった、憧れるなぁ、男ならあ…僕は今女の子だった。
「はぁ…暇だな……」
部屋を見渡す。
木造のノスタルジックな病室、4人部屋らしく映画やドラマで出て来る大正の病室みたいな、たぶん診察室とかもノスタルジックなんだろうな、見てみたいけど今は大人しくしていよう。
僕は窓から外の景色を見る。
ここは2階だ、木造2階建ての病院という事か、なら診察室と言った設備は1階で二階は病室とかなんだろうか、冒険したいなぁ……あれ、何か木に止まってる?鳥かな、あれでも大きいし見た事があるシルエットだ。
ベットから降りて窓を開けて目を凝らして見ると何なのか分かった。
「おいで」
僕そう言って腕を広げると勢いよくそれは僕に向かって来た。
「グエ!」
ただ自分の前足が鋭い鷲である事を自覚しているのか、そのまま僕に飛びつかずに窓の下に置かれている戸棚の上に着地して、行儀よくお座りをする。
木に止まっていたのはヒポグリフだった。もしかして僕を心配して、でも近付くと周りの人たちが警戒するから、離れた所で見守ってくれていたのだろうか。
僕は恐る恐るヒポグリフの頭…確か犬とか初対面の人間に頭を撫でられるのを嫌がると言うから、よし猫を撫でる要領で首の下の辺りを……。
「クァァ」
すごく気持ちよさそうな声をして目を細める、良かったこれなら頭を撫でても大丈夫そうだ、頭だけじゃない全身を撫でても平気かもしれない、前の存在感が強過ぎて忘れがちだけど後ろは馬、綺麗な毛並みだから触り心地は最高の筈だ。
前回は果たせなかった、モフりタイム―――。
「何やってんだこの馬鹿!!」
「ふえ!?」
驚いて後ろを振り向くと鬼の形相のリーリエさんがいた。
そして呆れた表情のお母さんもいた。
「お・ま・え・は!怪我人なんだぞ!それなのに!鷲馬を部屋に入れて!危機感が無過ぎだぞ!!」
「で、ですが、この子は僕を助けてくれた訳ですし……」
「それでもだ!」
リーリエさんは僕の首根っこを掴みをそのまま、とは行かず少し考えて両脇に持ち直してベッドに座らせる。そして腕を組んでお説教を続ける。
「そもそも、お前は襲われたんだぞ。それなのに無警戒に窓を開けるなんて、あたしが暴漢なら迷わず襲うぞ」
「はい、ごめんなさい」
「ね、ねえ、リーリエさん、マリアも反省しているみたいだから、それくらいにしてあげて」
「ベティー……、はぁ~しゃーねぇな、次からは気ぃ付けろよ……」
リーリエさんのお説教は終わらせると僕はらヒポグリフに向き直る。
僕が叱られている間、オロオロとしていたヒポグリフは自分に視線が移った事で動揺し、少し挙動不審になる、感情豊かだな、カッコいいだけでなく可愛いとは愛でる要素が増えた。
「んで、お前は結局何なんだ?」
「グ…グェ……」
何と言われても、そう言っている気がした。明らかに表情が困惑して目が泳いでる。
改めて感情豊かだと思う、ヒポグリフとか魔獣はこんなにも表情豊かなんだろうか。
「目的は?何でマリアに付き纏う、そして何でマリアを助けた?」
「クァ…グァ……」
いや、その、と言っているよ。
ヒポグリフは人の言葉をしっかりと理解しているみたいだ、高い知性があってカッコよくて可愛い、飼いたい。
「捲し立てる様に言ったらその子、困ってしまうわ」
お母さんは可哀想になったのかヒポグリフを庇う様にリーリエさんを止めて、代わりに質問を始める。
「ねえ、貴方はマリアを害する気はあるの?」
「グエ!グエ!」
お母さんの質問にヒポグリフは頭を横に振って否定する。
「それならマリアに付き纏うのは、可愛いから?」
「グエ!」
今度は頭を縦に振って肯定する、質問の内容が少し変じゃないですかお母さん。
「マリアを尊いと思う?」
「クエ?グエ!」
今度は少し悩んで強く頭を縦に振って肯定する、いや何?尊いって!?
その後もお母さんの奇妙な質問が続いた。
それに対して明確に言葉を理解してヒポグリフは返答を続ける。
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