8話 異世界度が高過ぎる

 ここ三週間、僕は純粋に国語の勉強をしている。


 最初の授業で国語の勉強から僕の所為で歴史の授業に変わり、そして僕の質問攻めで基本の基本すら入れなかったことから、授業に関係のない質問は授業の後でという事になった。勉強する時はその勉強に集中する様にと副女将さんから注意を受けてしまい、僕も知らない事を知る事が楽しくて暴走してしまったから今は反省して授業にしっかり集中している。


「驚いたわ」

「なにがですか?」


 単語の書き取りをしていたら唐突にシェリーさんが呟いて感心した表情を浮かべて僕のノートを見ている。僕は何か驚かせる事をしてしまったのだろうか?いや、特に何もしていない、繰り返し単語を書いて覚えるという初歩的な事をしているだけだ。


「話をしっかりと聞いて、文字が綺麗で丁寧、分からない事はすぐに聞く」

「?」


 何でその程度で感心されるんだろう?授業は常に集中して話を聞く、字は綺麗に丁寧に書く、分からない事はすぐに聞く、この三つは勉強をする上で基本原則であり別段褒められることではない。


「根っこが真面目過ぎるのねぇ、普通はどれかが欠けてるものよ」

「???」


 いや、だから何故?これくらいは普通で出来て当たり前なのでは?前世は進学校だったから他の中学はどうだったのかは知らないけど、僕の周りはこれが普通だった。常に成績首位を維持する為に努力する事は呼吸をするのと同じ事だった。

 まあ、僕の場合は途中から料理に傾倒して後半からは首の皮一枚で首席だった、首席だけにね。


「でも、一番驚いたのは覚えるのが凄く早い」

「それは、しぇりーさんがおしえるのがうまいからですよ」

「可愛い事言ってくれるわねこの子は!」


 シェリーさんは笑顔で僕の頭を撫でてくれた。嬉しいな、昔は出来るのが当たり前で一々喜んでいたら鉄拳が飛んで来ていたから、すごく嬉しい。


「最近は、本を読む様になったって聞いたわよ。一番のお気に入りはなにぃ?」

「ええと…」


 僕の一番印象に残っている本、本、ならあれかな。


 魔女のお菓子探訪。


 魔女が理想のお菓子を作る為に各地を旅しながら色々な人々とお菓子に出会い、最後は自分が理想とするお菓子を作り出会った人たちと楽しくお茶会をするというお話だった。出て来るお菓子がどれも美味しそうで僕は作ってみたくなった。

 生前はそれなりにお菓子作りを嗜んでいた、レシピはまだ頭の中に入っているから材料と道具さえあれば作れる自信はある、味に関しては残念ながら誰かに食べて貰った事がないから自信がない。


「魔女のお菓子探訪ねぇ、流石はベティーの娘、食べる事に目が無いのね」

「ううぅ、ぼくはそこまでくいしんぼうじゃないですよ~」


 そう、僕のお母さんはあの見た目なのに恐ろしくよく食べる。

 綺麗で丁寧な食べ方なのに量が凄い、物理の法則を無視した量を平然と食べてしまうのだ。

 そして恐ろしく燃費が悪い、すぐに腹ペコになる。

 離乳を迎えた僕は皆と一緒に食べる様になってからその驚愕の真実を知った、その事実を知った時は本当にこれだけの量を食べる人がいたのだと、異世界の恐ろしさを思い知らされた。


 僕に関してはたぶん普通だと思う。


「2歳で初等部の子供と同じ量を食べてる時点で、既にあれと同類よぉ」


 う、そう言えば気にしてなかったけど僕は2歳児だ、そして女の子だ。

 生前の感覚が抜けていないから気づかなかった、同じ量を食べてた。


「親子よねぇ、おまけに細いし。私なんて計算して食べないとすぐに太るのにぃ」


 一応、いつも腹八分目で抑えています、食べ過ぎは体に悪いしね。

 ふと僕は教科書として渡されている教育省と印字されている本を見る、最初は全く読めなかったけど、今は殆ど問題なく読める様になった。


 ページの最後の方には名前が書いてある、この綴りだと…。


「はりえっとまーす?」

「ハリエットさん、花屋の元看板娘のおばちゃん。ほら、店に花を飾りに来てお菓子をくれる人よぉ」


 お菓子をくれるおばちゃん、あの人だ。

 何時も納品の時に僕を見かけると手招きをして、甘いお菓子を食べさせてくれる人だ。

 ハリエットさんが生けた花は上品で慎み深く気品に満ちた芸術品の様だった。


「これははりえっとさんのきょうかしょだったの?」

「そうよぉ、お孫さんが中等学校に上がって使わなくなったから、使って欲しい、て」


 3代に渡って使われて来た教科書、大切に使わないと、日本式使用方法は厳に慎まないといけない。


 ん?孫?それだとハリエットさんて少なくとも60代なのでは?でも腰は曲がっていなかった、歩く姿はしっかりとしていて見た目も30代にしか見えない、とても中学生の孫がいる人には見えない。


「しぇりーさん、こどものまちがいでは……」

「まだマリアは知らないかぁ、ソルフィア人はね長命なの。国王陛下は今年で298歳、まだまだ現役よぉ」


 日本だと超高齢者越えです!そしてハリエットさんの年齢は147歳だってギネス記録と同じかよ!まさか、お母さんも見た目は若いけど実はそれなりの年齢なのかも……。


「ああ、ベティーは今年で19歳よぉ、老け顔なのよねぇ」


 若過ぎるわ!?え、僕を何歳で生んだの?

 忘れよう、年齢の事は忘れよう。

 異世界度が高過ぎて僕の頭が追い付かない、今後ゆっくりと勉強して行こう。

 そう思いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る