19-④:村長宅にお邪魔②
地下室への隠し扉は、棚をどかした後ろにあった。その扉を開け、ランプを持つ村長に続いてテス達2人は、地下へと続く階段を下りる。
そして、着いた先には、狭い石造りの部屋があった。その中には、古びた絨毯や家具、用途のよくわからない古い道具らしきものや、農機具などが雑然と置かれている。
「ここに隠してあります」
村長は雑然と置かれていた物の中から、何かをごそごそと掘り起こすかのようにした。そこには、地面の上に四角い金属製のふたが置かれていた。それを開けると、中には大きな木箱が入っていた。
「……大事な物なのでね。こうやってカモフラージュして隠してあるんですよ。例え、泥棒がこの部屋を見つけたとしても、どうでもいいがらくたしか入っていないかのように、見せてあるんです」
ランプを脇に置くと、村長は木箱の鍵穴に鍵を突っ込んだ。ふたを開けると、中にはガラスの容器らしきものと、古い大小の文書が重ねられて入れられてあった。
「……これが、『神の涙』です」
村長は、ガラスの容器を取り出し、丁度がらくたの中にあった机に、ごとりと置いた。
「…ただの金属の筒じゃないですか」
テスは首をかしげる。ガラスの容器の中には、水らしき液体で満たされており、その中には金属製の筒があるだけだった。
「この筒のなかに、『神の涙』を封印しております。『神の涙』は、鉄などの金属や鉛の容器に何重にも入れて、さらにその周りを水で覆って封印しているんです」
「封印…」
「…アンリから聞いたと思いますが、『神の涙』と言う代物は、見るか触れただけで人間を殺す力があるのらしいのです。厳密に言うと、触れた者の細胞を変化させて、殺すという事らしいですが。…過去に『神の涙』見たさに、勝手にこれを開けた馬鹿が私の先祖にいたらしいのですが、それはそれはすさまじい死に方をしたようで…」
村長はそう言いながら何枚かの文書を取り出し、テスに渡した。一番上にあった文書は、『神の涙』のスケッチであった。アーベルに見せられた実物によく似ているから、本物でまちがいない。そして、次の文書をめくった時、テスは息を飲んだ。テスの肩越しに文書をのぞきこんでいたカイゼルも、「ひい」と声をあげて後ずさった。
「…『神の涙』の封印を解いた者の死にざまを記したものです。それは見るに堪えない死に方だったそうですよ。慌ててその者の家族と親族たちが封印を施しなおしたのですが、皆同じように死んだか、無事だった者もその子孫に呪いがかかってしまったらしく、子や孫が早死にしたりしたそうです…」
「…この封印の仕方は、一体誰が考えたのですか?」
テスは村長に問うた。テスはこの封印の方法に、類似する物があることに気づいたからだ。
「…わかりません。ただ、ジュリエの民たちに、かつて山の女神が接触したらしく、その時に女神からこの封印の仕方を教えてもらったらしいと、口頭で祖父から聞き及んでいます」
「…」
その封印のやり方は、まるで放射性物質を閉じ込めるかのようなものだ。『神の涙』にもその方法が、果たして本当に効果があるかどうかはさておき、普通なら思いつくはずもないこの方法は、きっとテスが居た世界をよく知る者―あの女神が教えたもので間違いないだろう。
村長は、木箱の一番底にあった文書を取り出すと、テスに差し出した。
「後、『女神さまの瞳と涙』の物語にも抽象的に記されていますが、こちらの文書には『神の涙』はただの魔晶石が『神の瞳』と触れあって初めてできるものだとはっきりと記されているんです。そして、聞いているとは思いますが、その『神の瞳』と言うのが『神の涙』によく付いてくる不純物で。ただ、その記述が本当かどうか実験したくても、触れたら死ぬかもしれないから、できないんですが」
「『神の瞳』…?触れあって…『神の涙』ができる…?」
そんな話まで自分はアンリからは聞いていない。しかし、村長は、テスがその話までアンリから聞いていると勘違いしているらしい。そして、わき上がる教示欲に身を任せている村長は、首をかしげるテスに気づかず、そのまま延々と説明を続けている。
「……」
訳が分からないながらも、テスは差し出された文書を受け取る。かなり昔のものであろう、古い紙だった。所々虫食いの跡があるが、新しい紙を裏から張り付けて補強されてある。
そこには先程と同じ『神の涙』だが、先程の文書より更に古い時代に描かれたのだろう、モノクロのスケッチがあり、立方体の結晶には『神の瞳』と説明がなされている。
「…ん?」
そして、『神の瞳』の名の隣に、気になる単語が描かれていた。
「…『トリフォリウム』?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます