26.母星《ほし》を護る戦い

 ソラは目前に迫ったヒガンテの一体を斬り倒した。


(これで、何体目だろう?)


 途中から数えるのはやめていた。

 そもそも、正確に何体残っているかもわからないのだ。

 ひたすら斬り、ひたすら倒す。

 それだけを考える。


 舞子からの援護射撃にも助けられつつ、ソラは次々にヒガンテを倒していく。


(なんで、僕、怖くないんだろう?)


 ふと、冷静になってそんなことを考えたりする。

 一瞬でも気を抜けば、宇宙の藻屑となって死ぬかもしれないのに、なぜかソラは恐怖を感じていなかった。

 それどころか、少し楽しいという気持ちすら持っていた。


(やっぱり、僕も、男の子ってことなのかな?)


 そんな言い方をしたら、舞子にぶん殴られるだろうけど。

 でもやっぱり、ロボットを動かして地球を狙う化け物と戦うというのは、ある意味男の子の夢だろう。


 もちろん、これはバトル・エスパーダのゲームじゃない。

 ちょっと間違えれば自分も舞子もケン・トも死ぬし、それはつまり地球が滅びることを意味している。


 それでも。

 今、ソラはとても高揚していた。


 あるいはそれは――


(怖すぎて、頭がおかしくなっちゃったのかな?)


 ――戦闘における戦士の興奮というものだったのかもしれない。


 ---------------


 ケン・トは目前に迫った3体のヒガンテにソードを向けた。


(3対1か。なかなかにハードだな)


 思いつつ、あらためて周囲を確認する。

 舞子はひたすらソラへ援護射撃をしている。

 トモ・エやクーギャの操る宇宙船は、ここから少し離れた場所で待機中。


 そしてソラは、今も数十体のヒガンテを相手に大立ち回り中だ。


(ま、俺もヒガンテの2、3体くらい倒してみせなきゃカッコつかないだろ)


 正直なところ、ケン・トにとってこの戦いは命を賭けるほどのものではないはずだった。

 もちろん、彼は別に非道の人間ではないから、殺されそうな子どもがいれば助けるし、の民が虐殺されようとしていれば心を痛めはする。

 だが、そのために自分の命をはったりはしない。

 そういう人間だったはずだ。


 別にそれを恥とは思わない。

 ソラや舞子の故郷の日本に住む者達だって、遠く離れた異国の子どもが戦乱で犠牲になるニュースを見た時、心を痛めることはあっても『今すぐ俺が助けに行く』と動く者は少数だろう。

 ケン・トにとって、地球に住む者も、ソラや舞子も、『異星の民』でしかない。

 多少のリスクですむなら助けもするが、ここまでヤバイ状況で命を張る意味など無いはず。


 そのはずだ。


(それなのに、なんで俺はこんなことをしているのかね)


 ヒガンテの1体が伸ばしてきた腕を切り裂きながら、そんなことを考えてしまうケン・ト。

 自分で自分の行動の意味が分からなかった。


「ったくよぉ!!」


 思わず叫びながら、それでも1体目のヒガンテを倒す。


「こんな、大損の戦いに巻き込みやがって!!」


 叫びながら、2体目のヒガンテに向かう。

 ケン・トはソラの『時間制止』や舞子の『空間認識』のような特殊能力は持ち合わせていない。

 ついでにいえば、歴戦の戦士というわけでもない。

 あくまでも、彼は商人だ。

 命がけの戦いなんて柄じゃない。


 それなのに。

 だというのに。


 ケン・トは剣を振るう。

 心のどこかで、今すぐ逃げ出すべきだと考えながら。


 それでも。


(結局は大人の男の意地なのかね)


 あんな子ども達が母星のために命を張っているのだ。

 大人として、一人逃げ出すのは恥ずかしいじゃないか。

 ケン・トが戦う意味は、結局それだったのかもしれない。


 ---------------


 舞子はひたすらソラへの援護射撃をしながら祈っていた。


(ソラ、頑張って)


 ソラのエスパーダは今のところヒガンテを次々に倒している。

 何度か危うい場面もあったが、このままなら勝てそうと思えるくらいには善戦していた。


 戦いの前、ソラは言った。


『それでも倒しきれなかったら、ヤツらの群れのど真ん中で、僕が自爆する』


 それは確かに作戦通りだ。

 作戦通りだが。


(そんなこと……)


 ソラにそんなことはさせたくない。

 だから、舞子はひたすら祈りをこめてミサイルを撃ち続ける。


 ソラが自爆などしなくてすむように。

 ソラが死なないように。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 その存在に、最初に気づいたのは、ソラでも舞子でもケン・トでも、トモ・エでもなかった。

 彼ら、彼女らはあまりにも目前の戦いに集中しすぎていた。


 だから、その存在に気がついて警告の声を上げたのは、戦いをもう少しだけ冷静に見守っていた鳥形アンドロイドだった。


「ケン・ト! 気をつけるギャー、どでかいのがやってくるギャー」


 クーギャは確かに観測していた。

 これまでの30倍は大きなヒガンテが1体、この場所に高速接近していることを。


 クーギャの声に、トモ・エも気づいたようだ。


『そんな、これは……ソラさん、舞子さん、高速接近中のヒガンテを観測。大きさは……これまでの32.6倍!』


 トモ・エの声にもかなりの焦りが見て取れた。

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