第199話 パーティー(4)
「それでは、かんぱいのごはっせいを、真太郎せんむにおねがいしたいとおもいます、」
夏希がたどたどしく進行する。
「も、全部ひらがなに聞こえるぞ、」
八神は笑ってしまった。
真太郎は立ち上がって前に行き、
「八神くん、美咲さん。 本当におめでとうございます。 八神くんは本当に事業部のみなさんからかわいがられて、うちの南が何かとおせっかいをやいていたりしたのですが。こうして幸せな時を迎えられたことを心からお祝い申し上げます。 乾杯、」
シャンパンの入ったグラスを掲げた。
「ほんと、いつ見てもステキ・・・」
美咲はシャンパンに少しだけ口をつけて、真太郎に見とれた。
「あからさまに言ってんじゃねーよ、」
八神はおもしろくなさそうに言った。
「ではっ! みなさんご注目下さい! ウェディングケーキの入場ですっ!」
夏希がそう言うと、八神が4時起きで制作したスクエア型のかわいいケーキが運ばれてきた。
「八神さんお手製のケーキで、このためにゆうべはこの家に泊まらせてもらって一生懸命作りました。 それではお二人、前にどうぞ。」
と言われて、二人はケーキナイフを持ってケーキ入刀しようとしたが、
「あ、もっとくっついてください! 気分が出ない・・」
夏希は不満そうに言った。
「はあ?」
八神は振り向いた。
「八神!美咲ちゃん、こっち向いて、」
南がカメラを構える。
八神は仕方なく彼女の腰に手を回してくっついて笑顔を見せた。
「それでは、ええっと・・あれ? どこだっけ?」
夏希は進行表を見て、指で辿った。
「ほんといちいちハラハラするなあ、」
八神はイラついた。
「あ、そうだ。 現事業部の責任者であります、斯波さんからひとことごあいさつです。」
と言われて、食事を採っていた斯波はぎょっとした。
「は?」
「どーぞ。 前に。」
夏希から普通に言われて、
「聞いてないっつの、」
斯波は慌てた。
「え、でも~。 上司ですから。 当然、お祝いの言葉はあるでしょう・・」
「だからっ! なんで急に言うんだっ!!」
斯波が人前で話をするのが苦手なことをわかっているみんなは笑いを堪えた。
「おもしろそうだから、本人には本番で急に言うようにって南さんから・・」
夏希がチラっと南を見ると、
「・・おまえな~~~~、」
斯波は怖い顔をさらに怖くして南を見る。
「も~、みんなの集まりなんだからさあ。 気楽にやればええやん! ほら、早く!」
南は彼を促した。
斯波は仕方なく前に出る。
しかし
長い沈黙・・
八神は祝われるほうなのだが、ハラハラしてしまった。
「あのっ・・」
斯波は動悸を抑えるようになんとかしゃべりだす。
「・・・や・・八神、いや、八神くん・・。 おめでとう・・」
祝辞なのにすごい怖い顔でそう言った。
その後もまた沈黙・・
「・・お幸せに。」
そう言って会釈をして、斯波は終わりにしようとしたので、みんなわかりやすくコケかけた。
「ちょっとぉ・・も、少しなんかないんですかあ? いくらなんでも、」
夏希は普段怒られてる分をとりかえすかのように、少しイジワルく言った。
「なんかって、」
斯波はうろたえた。
「斯波さん、がんばって、」
絵梨沙が後ろからニッコリ笑って声をかける。
彼女はモーツアルトのピアノソナタ15番を静かに奏ではじめた。
その彼女のピアノに押されるように
「・・まあ、おまえが・・いろいろここまでくるのに悩んだりとか。 あったと思うけど。 今、この瞬間を見たら、その出した答えは間違ってなかったって。 おれは、思ってる。」
斯波は八神を見た。
「結婚したから頑張るとか・・そんな力入れなくて、今まで通りおまえらしく、一生懸命仕事してってほしいっていうか、」
少々しどろもどろだったが、斯波らしい重みのある言葉で
みんなは彼の言葉に聞き入った。
「・・迷わないで、まっすぐに進んで行って欲しい。」
斯波はそう言って少し微笑んだ。
八神は彼の心の篭ったひとことにふと微笑む。
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