第196話 パーティー(1)

「え・・?」


絵梨沙は大きな目を、もっともっと大きくして驚いた。


八神も、驚いた。


「絵梨沙のがレパートリーがあるし。 イケるだろ?」


「ちょ、ちょっと・・練習もしてないのに。」


絵梨沙は戸惑った。


「練習なんかしなくたって絵梨沙は大丈夫だって。 おれより上手いし、」


真尋は笑った。


「で、でも・・八神さんのせっかくの、」


「おれもちゃんと弾くから。 BGMは頼むね、」


真尋はおなかを掻きながらリビングを出て行ってしまった。



絵梨沙は八神を戸惑ったような目で見る。


それを察して、


「も、もちろん・・絵梨沙さんでも全然OKですから。 もしよかったら、」


とフォローした。


「ごめんなさい、ほんと気まぐれで、」


絵梨沙は彼に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


真鈴はジーっと影からその様子を見ていた。



「もー、めっちゃかわいー! やっぱこれにしてよかったよ。 すっごく似合うし、」


南は鏡の前の美咲をみて大いにはしゃいだ。


「もう30になるっていうのに若作りかなあ、」


美咲は照れた。


「ぜんぜんOKやって。 八神、発情するよ~コレ。」


南は笑った。



今日のドレスは全体的に淡いピンクで前から見るとミニスカのドレスで後ろが長くなっている。


胸元もざっくり開いて、お色気もあるかわいいドレスだった。



一方


「も~~、眠い・・」


ケーキ作りが終わったあとの八神は仮眠を取っていたのだが、南にたたき起こされて控え室に連れてこられた。


「ほらあ、八神を王子にしないとなんないんやからあ。 ちゃんと起きて! もー、寝癖ついちゃって、」


とむりやり鏡の前に座らせた。


「もうすでに疲れた・・」


八神はアクビをした。



その間にみんな集まり始めた。


事業部のみんなとその家族も。


「あ! なっちゃん、カワイイっ!」


おしゃれをしてドレスのひなたが夏希に飛びつく。


「わ! これ借り物だから。 ひなたちゃんもかわいいね。 ななみちゃんもこころちゃんも・・みんなおそろいなんだぁ、」


志藤の娘たちを見た。


「ママが作ってくれたの。 ほら、こうやってくるっと回るとスカートがぱあっと広がるの。 かわいいでしょ。」


ななみが喜んでくるくると回る。


「へえ、ほんとだ~。 かわいー、」


「ちょっとさあ、こどもっぽいかなあって思うんだけど~、」


もうすぐ小学校6年生になるひなたはちょっと不満そうに言った。


「そんなことないよ。 すっごいカワイイよ、」


夏希は彼女の頭を撫でた。



「お、またも変身したな。」


志藤が夏希を見て言った。


「あ、おはようございます、」


「今日もカワイイわよ。」


ゆうこも凛太郎の手を引きながらニッコリ笑う。


「いや~、そんなぁ、」


夏希は大いに照れた。


「お世辞だよ、」


志藤はアハハと笑った。


「はあ? も~、」


夏希が膨れていると、


「おはようございます、」



玉田が妻と娘を連れて現れた。


「おう、おはよ。 ごくろうさん、」


志藤は手を上げる。


「あ、香音ちゃん、久しぶりねえ。 大きくなって、」


ゆうこは頭を撫でた。


志藤は夏希に、


「あ、玉田の奥さんの里香ちゃんと娘の香音、」


と紹介した。


よく考えれば会うのは初めてだった。


「あ、はじめまして! あたし、加瀬夏希といいます! いっつも玉田さんには牛丼屋の割引チケットを頂いたりしてお世話になっております!!」


元気よく挨拶をし、


「牛丼屋の割引チケットって、」


玉田は笑ってしまった。


妻の里香もぷっと吹き出して、


「そうですか。 いつもあなたのことは主人から聴いています。 とってもおもしろい子なんだって。」


里香はニッコリと笑った。


「ほんっと、本部長と違って玉田さんって奥さんや子供さんのことを『自慢』気にすることもなく、」


夏希は思いっきり言ってしまい、


「誰がやねん、」


志藤はムッとしていつもの調子で彼女の後頭部につっこんだ。


「あ~! もう、ヘアスタイルがっ!」


「ほらほら、もう、」


ゆうこは笑って髪を直してやった。


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