第161話 好きな人のこと(4)

「夫婦ってほんまに不思議なカテゴリーやんかあ。 他人だけど一生一緒に生きる人やし。 今は簡単に離婚とかするけど。 そんなに間違っていいわけなくって。 あたしは真太郎との結婚はほんまに悩んだし。」


「え・・」


そっと彼女を見やった。


「あたしは真太郎より4つも年上やし。 バイトでキャバ嬢もしてたし、両親はいないし。 大阪のちっさい食堂の娘やったし。 真太郎があたしと結婚して彼にプラスになることなんかひとっつもないって思ってた。」


いつも


明るくて


悩みなんかひとつもなさそうな


南の


もうひとつの顔だった。



南は美咲が横たわるベッドの端に腰掛けた。


「それに。 ちょっと病気してしまって。 子供、できずらい身体になってしまったし。」


「え・・」


彼女のその


『告白』は


美咲にショックを与えた。


「もう、真太郎と別れて大阪帰って。 またキャバ嬢でもやればいっかって。 そう思ってた。 天下のホクトグループの跡取りの真太郎の嫁が、子供できない体なんて。 ほんまとんでもないやん、」


南はふっと寂しそうに笑った。


「でも。 真太郎はそんなあたしでもいいって言ってくれて。 ずっと二人で生きて行こうって。 ほんまに、嬉しかったなあ。」


そのときのことを思い出しているようで、南は優しい笑顔になった。


「真太郎だけやなくて。 社長もお義母さんも。 こんなあたしを温かく迎えてくれて。 ほんまに幸せもんや~って。 だから、あたしは真太郎のために生きようって思えたの。 真太郎が立派にホクトの頂点に立つ人間になるように。 あたしはどんなことでもしようって。」


いつもの


彼女の笑顔だった。



結婚って


憧ればっかりで。


いいことばかりしかなさそうで。


でも


同じくらい


つらくて大変なこともあるはず。


あたしは


慎吾と一緒なら


何があっても大丈夫って。


それは


ぜったいに


自信がある。



美咲は熱のあるぼーっとした頭の中が少しずつ穏やかに落ち着いて行くのがわかった。



その時、美咲の携帯が鳴る。


南は


それが八神からではないかと察し、そうっと部屋を出た。


「もしもし・・」


かすれた声で電話に出る。


「・・声・・ガラガラじゃん、」


八神の声が聞こえる。


「・・ん。 熱、あって・・」


彼の声を聞いたとたん、また気が緩んで泣いてしまった。


「え?熱? どのくらい?」


「38℃・・。」


「風邪ひいてるのに、薄着で出かけるから・・。」


「み、南さんのおうちで寝かせてもらってるから・・」


美咲が泣いていることがわかり、



「・・ごめんな。」


八神は素直にそう言った。


「慎吾、」


「美咲も具合が悪かったのに。 おれ、ほんっと見えてなかったし。美咲が言ったとおり、そういうときは南さんや絵梨沙さんに少しお願いしても良かったのに。 なんか、おれじゃなくちゃ!ってヘンな責任感がわいちゃって。 ほんっと・・ゴメン。 たたいたりして。」


八神も泣きそうだった。



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