第145話 一念発起(2)

そして、ついに。


「わ~~、かわいい! きっれ~!」


美咲をジュエリーショップに連れてきた。



ここのところ忙しくて、ようやくとれた日曜日の休みだった。


ボーナスは出たものの、やっぱりどう考えてもすごい指輪は買えそうにもなく・・。


八神は美咲がいったい何を欲しがるのがドキドキだった。



しかし


それをグッと押し殺して、



「・・す、好きなの選べよ。」



ものすごく


ものすごく無理をして言ってしまった。



「ほんと~? わー、うれしい。 どれにしよっかなあ・・」


美咲は嬉しそうにショーケースを見て回る。



「これなんかとっても人気があるデザインなんですよ。カッティングもいいですし。」


店員が説明してくれて、それをはめてみたりしていた。


「え~~、いいなあ。 こんなのも。」



夢見るように言う美咲だが


八神はおそるおそるそのプライスカードを覗き込む。



に・・・200万!?



もう、心臓が口から飛び出そうだった。


おしゃれでヒカリモノ大好きな美咲は、なかなか決められず、あれやこれや言うたびにその値札を見て八神は寿命が縮みそうだった。



「なんかおなか空いて来ちゃったな。 そろそろ決めよう、」


ようやくそう言い出した。


美咲は最初のうちに見ていたショーケースに戻り、



「慎吾。 コレにする。」


と一点を指差した。



「え・・」



それは


彼女の誕生石のルビーとダイヤのコンビになっているもので。



値段は


8万だった。



「え・・、」


思わず美咲を見る。


「コレがいい。 ね、かわいいと思わない?」


とニッコリと笑った。



「・・うん・・」



しかし


金のない自分に気を遣ってそう言ってくれているんじゃないか、と逆に悲しくなってしまう。


「美咲・・。 もっと高くても、いいから、」


と言った。


「え? これでいいのに。」


美咲はきょとんとした顔で言った。


「さっきの・・ダイヤとか、」


「ああ、あんなのつけたことないから。 どんなんかなあって。 ちょっとはめてみたかっただけだよ。 こういう機会でもないとそんなのできないし、」


と屈託なく笑う。


「でも、」


納得できない顔の八神に、


「だから。 あたしは、指輪を買おうって言ってくれた慎吾の気持ちがほんとに嬉しかったの。 誕生日にはちょこっともらったりはしたけど。 あたしと結婚の約束をした証って言うか。 なんかね、その気持ちがすっごく嬉しかったの。」


美咲は静かにそう言った。


「美咲・・」


「ほんっとあたしたち結婚するんだね。 もう、それがすっごく嬉しい。」


彼女の目は店内のライトのせいか潤んでいるようにも見えた。




すっかり夜になってしまった街を歩く。


八神は自然に美咲の手を取った。


腕を組んで歩くことはあっても手をつないで歩くことはそうそうなくて。


子供のとき以来のような気がした。


マンションの件やこの指輪の件でも。


自分が美咲を選んだことは間違いじゃないって


つくづくそう思える。



不思議だなァ・・



こんなにずうっと一緒にいたのに。


美咲と


家族になるなんて


想像したこともなかった。



って言うか


もうすでに


ずうっと家族だったのかもしれないけど。



でも


最後に愛してるって言える女が


美咲になるなんて。


これには


自分でもびっくりしてる。

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