第123話 外堀(2)

八神は無視をするようにボウルと泡だて器を手にデザート作りをしていた。


「ね、なにを作るの?」


美咲は八神に言った。


「・・マンゴープリン、」


「マンゴープリン? おいしそう! あたしも手伝う!」




「って・・なにあの二人。」


「さあ・・」


南は志藤を小突いて、キッチンで楽しそうにデザートを作る八神と美咲を見て言った。


「おいしそ~。 ね、味見してみたい。」


美咲は甘えるように八神の腰に手を回してぴったりとくっついた。


「え~? んじゃ、ちょっとだけな、」


八神も笑って、スプーンで少しすくってやって彼女の口に運んでやった。


「・・おいしい! すっごくおいし~、」


「だろ?」


「この前まですんごいケンカしてたのに。 八神なんかケリまで入れられたとか言ってさあ、」


南が言うと、


「結局さあ・・ラブラブだよな、」


真尋は笑う。


「ほっとけよ、もう・・」


志藤は呆れて笑ってしまった。




「あ、氷がない。」


八神は冷凍庫に氷を取りに行って言った。


「あ、いけない・・そう言えば買ってくるの忘れちゃった。」


ゆうこが慌てて財布を持って出かけようとするが、


「あ! あたしが行ってきますから。 奥さんは座ってて下さいって。 ね?」


美咲が立ち上がった。


「そんな。 お客様なのに、」


ゆうこは申し訳なさそうに言ったが、


「ほんとに。 大変でしょうから。 行ってきます。」


美咲はニッコリ笑った。


「あ、あたしもコンビニいきた~い!」


ひなたも飛んできた。


「またお菓子買おうと思って・・ダメよ。」


ゆうこはたしなめる。


「美咲ちゃーん、いっしょにいこうよ。 コンビニの場所教えてあげるから!」


ひなたはもう美咲と仲良くなって彼女の手を取った。


「そっか。 じゃあ、一緒にいこ。」


二人はキャピキャピと家を出て行った。




「なんか悪いわ。」


ゆうこがため息をつく。


「いいんですよ。 使ってやってください、」


八神は笑う。


「でも、ほんと明るくていい子ね。 幸太郎さんが言ってたとおり。」


ゆうこは腰掛けた。


「しかも! かわいいやろ? 信じられへんて。 なんで八神やねんて、」


志藤は酒を飲みながら八神の頭を小突いた。


「でも、八神に合ってるって。 美咲ちゃんは。 八神みたいにボーっとしてるヤツにはああいう元気な子が一番だって、」


真尋も笑う。



「で、いつなんですか?」


ゆうこは八神の顔を覗き込んだ。


「は?」


「結婚式!」


八神は箸を持つ手が固まった。



妙な静寂になり、ゆうこは焦って、


「え? なに・・? ダメでした?」


志藤の腕を揺すった。



「・・こいつに『いつ結婚すんの?』は禁句やねん。」


志藤は笑った。


「は?」


「そうそう。 も、ぜんっぜん自信ないんやって。 世帯主になるの。」


南もからかうように笑った。


「世帯主なんて簡単簡単! おれだってなれたし~。」


真尋も笑う。


「金のある人はね・・いいんですよ。 おれだって・・もっと稼いでりゃ、」


八神は腹の底から搾り出すような声で言った。


「また金か、」


志藤は呆れたように言った。


「なにするにもね。 結局、金ですよ。金。 は~~、誰か1千万くらいくれないかなァ・・」


八神はそう言ってテーブルに突っ伏した。


「もー! 子供? 誰が1千万なんかくれるかって。」


南は八神の背中を叩いた。



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