第80話 縋る(3)
こうして3日ほど奔走した。
「なんとかキャパも立地条件も、この前のホールと同じくらいのホールを押さえることはできました。 ただ・・印刷の変更とか。 細かい訂正は入れなくちゃいけないし。 事業部に多大な迷惑を掛けてしまったことは事実なんで。」
八神は神妙に斯波の前に立つ。
この3日間
斯波はひとことも口を利いてくれなかった。
概要のコピーを見て、ボソっと
「チケット発売前でよかったな。」
そう一言だけ言って自分の仕事を始めた。
「は・・」
八神はそれをどう解釈していいか、一瞬わからなかった。
しかし
それがOKという意味であることがわかると、満面の笑みで
「はい、」
しっかりと頷いた。
「この3日。 ほんっとに大変だったろ。」
斯波はまたも仕事をしながら片手間のようにそう言った。
「え・・」
「ちょっとのミスが大打撃につながる。 おまえが自分の力でそれを食い止めたことが意味あるし。 そういうのは人から教えられるもんじゃないし。」
もう
怒っていない
声だった。
「自分の力でなんとかすることって、人から教わるものじゃないから。」
斯波はいつものように
言葉は少なかったが、
八神は胸がジンとした。
「はい・・」
南も萌香も玉田も
斯波が3日間どんな気持ちで八神を見ていたか
ひしひしと感じてしまった。
決して八神を放っておいたのではなかった。
「よかったね。なんとかなって。」
南はそっと八神に声をかけた。
「ほんっとご迷惑を掛けてしまってすみませんでした。」
神妙に頭を下げた。
「まあまあ。 ね、問題解決ってことで。 みんなで飲みに行こうよ、」
背中を叩かれた。
「え、でも・・」
「いいからいいから。 たまにはさあ。 みんなの結束を高めるためにも! 萌ちゃんもいいでしょ?」
と彼女にふると、
「え・・ええ、」
少し戸惑いながらも頷いた。
珍しい・・
栗栖さんはそういう場に今まで一度も来たことなかったのに。
八神は意外そうに彼女を見た。
「玉田からきかなかったら、おれだけ仲間はずれになるとこやったやん。」
志藤は不満そうに言った。
「別に仲間はずれじゃないよ~。 こういうとこにはやっぱ志藤ちゃんがいないとね~。 まあまあ。 どうぞ。」
南は調子よく彼のグラスにビールを注いだ。
「で、何の会? 『八神が大人になった会』?」
志藤は笑う。
「そんなとこかな。 『八神の成長を願う会』だよ。」
南も笑った。
斯波は遅れてやって来た。
酒を飲めない彼はこういう場にもあまりやってこないが・・
「あ、斯波ちゃん! 遅いよ。 ほら、どうぞ。」
南がビールを注ぐと、
「ああ、いいって。おれは。」
迷惑そうに手で制した。
「も~~。 たまには! 我を忘れちゃって飲んじゃいなよ!ほら!」
半ば強制的にビールを飲ませてしまった。
『新月』で飲んだ後は
南が無理やりカラオケにみんなを引っ張って行く。
と言っても
ほとんど彼女が歌って踊っているだけなのだが。
「ほんまにおまえは変わらへんなあ、」
志藤はそれを見て笑っているだけだった。
「も~~、志藤ちゃんも歌おうよう!」
甘えるように腕を取る。
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