第40話 勝沼(2)

そこに


「慎吾!」


呼ばれて振り向くと、家族が勢ぞろいでやって来たことがわかり凍り付いてしまった。


「え? 八神のファミリー?」


南がおもしろがってやってきた。



「あ~、はい・・」


「どうも、初めまして! 今回はお世話になります~。 あの、あたし北都南って言います。」


南はいつものハイテンションで前にじりっと出てきた。


「あ・あの、社長の息子さんの専務の奥さん。」


八神が言うと、


「えっ!! 社長さんの息子さんのお嫁さん? あんたそんな偉い人と仕事してたの!?」


わかりやすく驚かれた。


「も~、そんな上等なもんやないですから! ほんまに八神くん頑張って仕事してくれてますから! ご家族も安心してくださいね、」



八神はそこにいた長姉・涼の腕を引っ張って、


「ね、この前のこと誰にも言ってないよね?」


心配そうに言った。


「は?」


すっとぼけた声を出す彼女に


「だから! 美咲のこと・・」


「ああ。ま、黙っといてあげたよ。 おばさんには美咲はウィークリーマンションにいるって言っておいたし、」



心から


もう


心からホッとした。



「よ・・よかった・・」


立っていられないほど安堵してしまった。


「なによ、ソレ、」


不審がられ、


「おれの運命が変わるトコだった・・」


オーバー気味にホッとしていると


「バカじゃないの?」


冷たい視線を浴びせられた。



「ばあちゃん?」


八神はちょっと自宅に顔を出して祖母の部屋に行った。


「あれ、慎吾?」


祖母が弱っていると美咲の母が言っていたが、普通に元気に仏壇の掃除をしていた。


「あれ、」


ちょっと気が抜けた。


「旅行だって?」


「うん・・今、美咲の家に、」


「そうかい。 美咲は元気にしてるの?」


「仕事も決まったみたいだし。 なんとかやってるみたいだよ、」


「あの子はほんと気が強いけど、ひとりがダメな子だからね。 一人暮らしなんか大丈夫なのかね、」


位牌をきれいに拭いていた。



もう


どっちが本当の孫かわからなくなるくらい


美咲のことはかわいがってた。



祖母の背中を見ると


やっぱり


申し訳ない気持ちがいっぱいで。


忙しかった美咲の両親に代わって


本当に親代わりみたいなもんだったから。



「慎吾はどうなの。 仕事は、」


祖母はゆっくりと振り向いた。


「おれは・・大丈夫だよ。 仕事、ほんと楽しいし。 この前もウイーンに行ってきたんだよ。」


「ういーん? アメリカ?」


ピントを外れたようなことを言う祖母に


「ちがうよ。 ヨーロッパのウイーン。 1ヶ月ずうっと。 ピアニストの北都マサヒロさんについて。 もう、音楽の都って言われてるところでさあ。 すっげー楽しくて、」


八神は思わず嬉しくなって祖母の近くに座り込んで笑顔でウイーンの話を夢中でした。


そんな彼を


本当にいとおしそうに


祖母はうなずいて笑って話を聞いていた。



美咲の家に戻るともうバーベキューが始まっていた。


「ばあちゃんとこ?」


美咲が声をかける。


「うん。 おばちゃんの話だと寝込んでるのかと思ったら、フツーに仏壇掃除してたよ。」


「そう。 あとであたしも行ってみよう。」


「もう疲れたから寝るって言ってたよ。 明日にすれば?」


「そっか。 ね、もう火がいい感じになってきたよ。」


美咲は八神の腕を引っ張った。



「え~~、マジうま~い!」


真尋は美咲の家のワインにご満悦だった。


「おまえ、飲みすぎじゃないの?」


斯波は心配した。


「斯波ちゃんもちょっと飲めばいいのに、」


「ヤダ。 ほんっともう飲んだら大変なことになる、」


斯波は仏頂面でウーロン茶を飲んだ。


「はい、慎吾特製のグリルチキンでーす!」


美咲が八神が作った料理を持ってきた。


「こっちもうまそー! 八神、ありがと!」


真尋は笑顔で八神に言った。


「あんまり飲みすぎないで下さいね。 寝たらここに置いていきますよ、」


八神はそう言って笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る