『二郎は鮨の夢を見る』 ザギン・デシー・スー

 銀座の地下にある寿司店、「すきやばし次郎」の店主である小野二郎を追跡する。



 イスはたった10席しかなく、予約制。

 メニューはおまかせのみ。


 御年85にして、厨房に立ち続ける。

 2020年現在、ミシュラン史上最高齢の三ツ星シェフだった。


 大将は外出時は常に軍手をはめて、手を保護しているという。


 料理評論家の山本益博いわく、

「シンプルをつきつめるとピュアになる」

 という。

 二郎の寿司は、まさにピュアそのものだ。



 主に寿司を作るシーンばかりなのだが、トロやアジの光沢が半端ない。


 海外の監督が撮影しているからか?


 息子が店の外で海苔を炭で炙っているシーンだけでも、実にうまそうだ。

 ここは芸術品を食べさせてくれる場所だと、と思わせてくれる。


 今でこそ、寿司は庶民でも手を出せる料理となった。

 

 我々からすれば銀座で寿司は

「ザギンデシースー」

 と呼ばれ、ステータス程度の価値しかない。


「修行なんて過去の遺物」との罵られる時代に、おしぼりを握らせるだけで10年、卵焼きを焼くだけで半年修行させる。

 はたから見れば、異常なストイックさだ。


 が、二郎の握る寿司はまさにクラシックの演奏である。


「完璧主義は古い」という考えが浸透している昨今、伝統を提供し続けてきた様は、いかにもストイックといえる。


 恐ろしいのは、二郎が「未だ成長過程にある」と発言している点である。

 ミシュランをうならせ、息子が生まれる以前から寿司を握り続けている。

 にも関わず、二郎は「まだ先がある」と信じ続けているのだ。

 どこまで成長するのか。

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