『海底47m』 サメ映画におけるサメの存在意義

 サメ映画という革を被った、上質なパニックホラー。


 バカンスを楽しんでいたヒロインのリサ(マンディ・ムーア)は、彼氏と別れたことを思い出し、夜中に泣き出してしまう。


 同行者のケイト(クレア・ホルト)は、彼女を励まそうと、現地男性と共にケージ・ダイビングへと誘う。


 鉄製のオリに入り、オリの中からサメを鑑賞するというダイビング法だ。

 

 ダイビング経験のないリサは怖がるが、ケイトの説得で渋々ダイビングへ。


 オリは予定通り、5m付近でストップ。


 オリを横切っていくサメを間近で見るのは、スリル満点だ。


 だが、撮影しようとしたら不注意でカメラを落としてしまう。

 それを、サメが飲み込んだ。


 そろそろ上がるかという所で、ケージを支えるケーブルが緩んだ。

 ケージは海底へ急降下。ケーブルも船から外れてしまう。


 二人は海底47mに転落し、無線も通じない。

 しかも、ケーブルの巻上機がケージの出入り口を遮っていた。


 責任を感じたケイトは危険を顧みずに脱出。

 ケーブルの巻上機をどかせることに成功した。

 無線の通じるポイントまで浮上し、船に救援を要請する。

 

 船側も、「ダイバーの一人が救助に向かっている」と告げる。

 船は、自分たちを見捨てていなかった。

 

 だが、次なる危機が迫っていた。

 残りの酸素が、危険値に達し始めていたのである。



 本作はいわゆる「サメ映画」だ。


 数10分ごとにサメが体当たりしてきて、物語の中盤などで人を襲う。


 ミステリ好きだと、

「ケイトがわざと誘ってサメに襲わせたのでは?」

「現地人の罠では?」

 などと勘ぐってしまう。


 しかし、その考えは捨てて欲しい。

 二人が助け合い救援を待つか、自力で海上へ上がるか。

 どの選択をするか、に集中すること。



 サメ映画と言えば、お約束が欠かせない。


 冒頭がいい。

 ホテルのプールで、ケイトがワインを持っているリサを浮き輪ごと転覆させるシーン。

 プールに真っ赤なワインが広がっていく。

「これから血の作劇が始まりますよー」と示唆している。


 いかにも作り物と分かってしまう、バカでかいサメも面白い。

 背びれの段階で「デカ!」と思い、んなアホな、と思わせてくれる。

 サメ映画はこれくらい大げさでいい。


 サメとはマクガフィン、つまり、「物語を動かす動機」に過ぎないのだ。

 

 いかにサメから逃れるかなので、サメそのものより、サメが襲ってくるというリアリティのほうが大事なのだ。


 それが、サメ映画という風流である。細かいことは気にしない。


 サメはちょくちょく出てきては、ちょっかいをかけてくる。

 

 だが、この映画の本質は「サメがマクガフィンとして機能している」ことである。


「サメに襲われる」という事実より、「サメが襲ってきたらどうしよう!」というリアリティのある恐怖心との戦いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る