第333話 シンクロニシティ、Yさんと母さんと。


 俺はすっきり朝起きた。12時くらいに寝たから、起きるのも早かった。思ったよりも何も起きなかった。俺は、真夜中にまた叫んだ?とBに聞いたが、いいや、とBは答えた。


 俺が真夜中に叫んでいた頃、あの頃は、俺はまだ、戦場にいるような意識に苛まれていた時期だった。なぜそうやって、真夜中に大声で叫んで起き上がるのかわからない。わからないと言うよりは、眠るのが悪いんだ。


 寝込みを襲われたら一発だから、何かあったらすぐ起きるように、まどろむ程度でいないといけない。あいつ。あいつはそうだ。ちゃんとそんなふうに、いつ起こしても平静で、「……なんだ?」と静かに答えた。俺たちは、そんなふうじゃないと、感情の波の上がり下がりがあれば、ミスをしてすぐに死ぬことになる。


 あいつは何も言わないが、俺が感情に支配されたまま生きていることが間違っているのだ、とテレパシーで伝えてきた。俺の中では、わかっているけれど、他の人と場を共有すると、自然にそっちに波長が合ってしまう共感性の高さに悩んでいた。あいつのように、いつも同じをキープできるのなら。


 俺は朝、Yさんのことを思い出していた。Yさんは、ちょっと取り乱したみたいに俺に「メールとかほんと勘弁して。わけわからない世界にあなたは住んでるから、理解できなくて頭、爆発するから」そう言った。


 俺は別に短いメールを一度、それから昨日、一度送っただけだ。


内容は「なんか気まずいです」というのが昨日。短いメッセージだったはずだ。


その前は「俺が前世の記憶を思い出したのは1997年でした」という内容で「俺は呼ばれたから、行っただけ。来ないでと言われたら、ちょっとカチンときたんで」と書いてしまった。


 俺、馬鹿正直に言うんじゃなかった。


Yさんは、俺を無意識で呼んでること、自分に全く自覚がないから、何これ?と思うだけだ。俺がカチンと来なければ良かっただけだ。なぜカチンときたかと言うと、俺を子ども扱いするから。


 この図式、俺は、起こった理由を知っていた。


 俺は自由になりたい。大人だから、思ったことを言って、セックスだって普通にしたい。当たり前のことだろ。


母さんは長い間、本当にうるさく俺を干渉して、俺は本当にずっと、いい子を演じてきた。完璧なほどに。


 本当の俺は、そんなじゃない。汚い言葉だって、禁じられてきて使ったこともないし、自由な格好もできない。見た目、本当にイイとこの坊ちゃんのような洋服を強制されて来て、マナーだって。


 俺はさ、本当に窮屈に育ったんだよ。父さんがいつも塾とかは迎えに来てくれて、買い食いとかだって、初めてが中三。あの子と塾の帰りに食べたのが初めて。


 この話はしたかもしれないな。あの子がすごく器用にクレープを食べるのを見て感動した。歩きながら食べるとか、お行儀が悪いからダメだと厳しく言われていた俺は、すごく感動した。


 お行儀が悪いどころか、すごく可愛らしく、エレガントだったんだよ。


あの子のことを話せば、本当にキリがないから、俺はやめておきたい。Jさんと出会ってすぐの頃、突然にJさんは、クレープを食べるんだと言って、俺の分もあっという間にさっと買ってしまった。


 俺は感慨深くてショックを受けた。あの子とクレープを食べたことを、いまさっきのように鮮明に思い出す。


 あの子は死んで、もういないんだが、Jさんは、あの子と同じ魂のグループに所属しているために、こんなふうにまるでパズルのピースのようなヒントとなることが、各所に散りばめられるように、俺は。


 誰にもこういう感覚はわからない。よく注意してみていると、人生の中には、ヒントのようなことがたくさん隠されている。


 大の大人の、年配のおじさんが、真昼にクレープを屋台から買うのはおかしいだろ。


俺は、チョコレート・スプレッドの入ったクレープを受け取り食べたが、あの時も俺、チョコレートのクレープを食べていたんだよ。俺は、Jさんが偶然選んだだけなのに、これがユングの言う、シンクロニシティなんだよ、とショックで黙っていた。


 シンクロニシティは、起こり出すとすごい勢いで人生の中に立て続けに起こる。本当に奇妙な偶然の一致。俺は、何度も経験していたが、ここしばらく、本当に長い間、そういうことは起こってない。


 ただYさんとは、本当に偶然にばったり会うようなことが多いんだ。これは兆候。Yさんは車で少し離れた場所に住んでいるから、おかしい偶然だ。近所の人ではない。


 Yさんはさ、母さんなんだよ。


 俺、Yさんに「私の前世も見えるの?」と聞かれて「ブロックがかかってて見えません」と答えた。何か、ブロックが見えた。


 そういう時、無理に見ない。俺はそんなふうに人を見ないんだ。どうしても見えて仕方ないことはしょうがないとして、ややこしくて仕方なくなるから。


 俺は鏡を見ても、俺が別の人に見えることもある。最初に気づいたのは、俺に死相が出ていたからだ。その時に、これはまずいなと感じた。その時期、俺は悪魔と出会っていた。はっきり思い出したのは、その人に出会ったせいだったが、俺が前世を思い出す大元になったのは、確かにその人との出会いだった。


 Yさんには、見えないわからない、と答えたが、俺は突然に思い出した。Yさんと俺は、そういう関係。Yさんは母さん。



 俺は、Yさんの名前と母さんの名前が同じ名前だったことに絶句した。


 それから、Yさんに相談された出生の秘密。俺は何でも調査すると言ったね。だから調べようとして、途中までいろいろわかって、でもYさん自身、もういい、知りたくない、と言ったんだ。


 俺はそこでやめた。知りたくないことなら、俺も調べないほうがいいからさ。



 母さんもさ、俺が嗅ぎまわることについて、すごくナーバスなんだよ。俺は知っている。母さんの出生の秘密。簡単なことがきっかけで、俺は不思議に思って調べようとしたら、同じように、ものすごく……


 母さんの場合は、俺を罵った。誰も幸せにしないことを調べないでよ、と。


 そんな大げさなことかと思ったが、母さんにしてみたら、とても重要なことであるのはわかってた。自分の存在の根幹のことだから。


 Yさんと母さん、そっくりだろう?


 それで俺、俺の無意識が、呼ばれた、と感じてしまった。それが発端だ。母さんも、俺が男であることを認めたくない。


 大人の男は、当たり前だが、時期が来れば、生殖活動するのは自然界の自然の掟なのに。


 ま、とにかく結婚しろというロジックはわかる。責任だろ。生殖活動だから。



 俺はさ、自由になりたかった。いつまでもさ、ガタガタ言われたくなくて。

俺は、行儀悪いことだって、自由にずっとやってみたかったさ。


 父さんは道具を使うこと、ナイフを使うこと、射撃を習うこと、そういうことに反対はしなかった。当たり前だよ。男だからさ。



 俺は、父さんがかわいそうだと感じていた。現実ばっかり見てる母さんのせいで、父さんの中にあったものが、すっかり封じ込められてのが、俺、見えてて知っていた。


 父さんはさ、波長的に俺と似た、兄貴と似たものを持ってたんだよ。






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