第328話 皆で共有する宣言


 先導者はゆっくりと、自分がこういうワークショップを始めた時のことを話し出した。右手には人の形をした小さな綺麗な流木の小枝を持っていた。


 外の砂漠で、夜通し、聖なる歌を歌いながら過ごした明け方に、拾い上げてくれ!と言ったこの小さな小枝。私はずっとそれから、こんな風にワークショップには必ず持参します、と彼は言った。



 緑の目をした、彼は年齢が55歳くらいだろうか。声を聞いただけで、自分の全ての糸がピンと張られる気がする。波長の違いが、ここまで人に影響するのだ。この人がここにいるせいで、この空間に入っただけで、俺には特別だとすぐわかる。他の先生もそうだが、本当に波長というのは重要だ。簡単に振り幅があるのが普通だが、やはり先生方は安定している。


 この流木の小枝とともに、今日のこのワークショップの体験で得たビジョンをシェアしましょう、と通訳の女性は言った。


 誰か挙手して、話しませんか?少しの沈黙の後、髪が縮れた首の短い女性が挙手した。音楽とともに見えた旅の風景を現地語で話す。俺は、他の人もやはり、いろんなビジョンを見ているな、と聞いていた。この時点で俺は、自分のことを話すつもりは毛頭なく、ただ黙って聞いていた。




 他にどなたか?沈黙の後、ある女性がまた手を挙げた。俺はぼんやりと聞いていた。しっかり聞くには疲れすぎていた。こんなに疲れるというのも珍しい。前回はこんなじゃなかったな。もう一人、二人。



 次、どなたか?



 長い沈黙の後、15歳くらいの男の子の子どもが挙手した。初々しい。多分、誰も挙手しないから、きっと彼は、自分が何か話した方がいいと思ったんだろう。短いお礼の挨拶と、彼が感じたことと。


 その後、長い長い沈黙。案外こういう時、誰も挙手しないのか。俺は意外に思っていた。口から生まれてきたように、多弁のこの国の人たちが、誰も何も言わない。


 もう他に誰も何も言わないと、次に切り替わるのかと思ったら、いつまでもいつまでも、次に挙手する人を待つ感じだ。


 俺は、俺が何か言わないといけないのか、という気がした。たくさん人がいる中で、俺は、先導者に帰りにお礼の挨拶するのを、今しておけばいいじゃないか、と思い当たった。


 長い沈黙を破って、俺は挙手して、ゆっくり立ち上がった。


 

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