第327話 宣言 俺は本来の俺になる


 大地に結びつけるような音が続いた後、また記憶を思い出させるようなギターの調べが続く。とても懐かしい。俺の原点のような、そしてこの音は、俺を旅に誘う音だった。


 俺は、忘れないように、今のうちに、この「理想的な俺」を刻んでおこうと思った。


 今の俺と、どこが違うんだ?俺にははっきりわかっていた、波長が全く違う。自信を持って生きている。自分に疑いがなく、自分を信じている。そこには無理がなく、誠実で、裏表もなく、穢れた考え方に心を囚われることがない。


 今の俺と違うのは、波長だ。この波長を覚えておけば、俺はこの男と全く同じになる。だってこの男は俺だ。


 衝撃的な事実に、俺は声が出せない気分だった。俺が、こんなにちゃんとした前世を持っていたなんて。


 俺は自分をいつも疑い、俺はダメな男だと思い、欲望にいつも、心と体をハンドルされていた。気をつけていても、そんなふうになって。理性は全く歯止めにならなかった。


 何が違うのか。俺は自分をもっと信じて、自分が強いことを知らねばならない。無理せずとも、すでにそうじゃないか。何があっても動じない。好きな人のために、ドラマティックな気分でなく、まるで広い海のように自然に、身を捧げることができる男。


 俺は感動していた。こんな男なら、俺も矛盾を感じない。こんな男になりたいというのでなく、俺はこんな奴だった。なぜ今は違うんだ。それは波長の違いでしかない。俺は自分を信じてないから。


 音の中にいて、暗い闇がゆっくり降りてこようとして、俺はまた大声を自然にあげた。


 しまった。


 だが、みんな寝てしまったように静かだ。音楽は続いているが、本当に寝ている人が多いらしい。おじさんのようないびきが聞こえてくる。


 俺の前世は、こんな男もいた。それから、よく知ってる弱い女性たちに、子供。数え切れないくらい生まれ変わる中、どの人生も、本当に上っ面だけ取り替えてるだけで、そっくりだ。逃げる、追われる、閉じ込められる、自由がなく、自分でどうすることもできない環境。もっと強ければ、誰かが助けてくれれば。


 そういう前世の中、俺は、あの老女も思い出していた。俺が思い出す中で、最も立派だった、政を司る老女。


だが、俺は、立派な男として生きた時もあったんだ。俺は突然に、統合された気がした。


 男性性と女性性。これでやっと揃った。俺は、やたら自分が女性のように弱いことについて、長く悩んでいたが、これで円環になる。


 ホッとしたように、無意識になる瞬間、また俺は「ぎゃっ!」と大きな声で叫んだ。


 単に音に反応した声だが、俺は、まずいと思った。だいたい、そう何度も叫ぶなんて、自分自身、無意識だから仕方ないが、これが個人セッションなら、もっと深く入り込んでこんなものではきっとすまない。


 だか実際、俺には必要なことで、俺は分かっていて、距離を置いていた。普通の世界からどんどんかけ離れていくから。



 俺は、とにかく忘れない、自信とこの波長と。それだけ今日は覚えていればいいんだ、と自分に何度も言い聞かせた。これだけわかれば、別人のように今から生きなおせる。


「ギャッ!」


 俺は闇に落ちかけ、また叫んだ。反応だから仕方ない。これは眠りに落ちる前なのか。俺はわからないと思ったが、叫び過ぎだ。


 結局、俺は5回くらい叫んだらしかった。ヤバいが、みんな寝ててくれ。



 仕方ないと思ったが、まあ20人近くいるのだから、誰かわからないだろう。


 そしてセッションの終わり、先導者が俺たちをゆっくり覚醒させるためのお話を始めた。

 


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