第300話 仕事が立て続けに


 話が前後してややこしいが、同時に、俺はラッキーな仕事を請け負った。ちゃんとした、本当にちゃんとした単発の仕事だ。将来にもしかしてちょっとくらい繋がるかもしれない。


 それは去年の俺の努力と関係していたが、あの時も母さんは俺をなじったな。目が見えなくなったらどうするの、と言って。俺は家系的に目が弱いから、父さんから「絶対に溶接はやるな」と言われていて、でも、今になって、真剣にまずいことに気づき始めていた。案外、早くに見えなくなるか?


 去年だったと思う、似たような感じですごく無理をして、でも、それが無駄じゃなかったことについて、俺は素直に喜んだ。綺麗な若い女性、若いと言っても多分、お母さんかもしれないが、俺が前に手伝ったこと、今やってることが軌道に乗ってきたから会社にすると言ってきた。俺は初めて会話した時から、ピンと、この人は成功できると感じていて、それが当たってきていることに興奮していた。ものすごくなんというか、即に結果に繋がることを抑えそうな、そういう野生の勘を密かに持っている人。そういう人が俺にたとえ単発であっても大事な仕事を依頼してきたことについて、素直に嬉しかった。


 俺は、もちろん俺ができることならなんでも手を貸すのが俺の仕事なので、上手くいくよう、自然に計算する。俺が知ってること、できることがどれくらいあるのか、ただ、この人は本当に上手な感じがした。何が上手かというと、波に乗れるタイプだ。それは軽薄という意味でなく、むしろ、職人的な感じに近い。上手く言えないが、俺には持ってないものを持っているのが見え、俺はもちろん、素直に依頼を喜んで頑張った。相手はそこまで俺に期待していない単発の仕事だが、俺が上手な仕掛けを時限爆弾のように計算して入れておいてやろう。絶対に成功できるように。


 相手は俺のことなど何も知らない。実は。俺が勝手に営業かけてとってきた。

俺も相手のことは会ったことないから知らない。声を聞いたこともない。それなのに、こういう関係は不思議なものだ。俺は理系じゃないが、コードをつなぎ、装置を作る自分が見える。絶対うまくいくように仕組みたい。それができる依頼人なのだから、簡単なはずだ。


 俺が思うように上手くいくのかわからなかったが、とにかく、素直に作業した。前の作業は地獄のようで、俺はドロップすると、連絡したんだが、なんでだったか。ああ、思い出した。俺はまっすぐだから、まっすぐじゃないことはしないし、できない。別に相手が悪いわけじゃないが、断ろうとした。でも結局何とかやりきった。相手がいい人だったからできただけで、本来ならドロップしている。俺がフリーなのは、組織の中でこんなふうに自分を曲げて存在できないせいだ。


 俺は実力が十分にあるのか本当に謎、と自分のことを評価しながら作業した。苦笑する。いつも本気出してやってないから、俺の本気はこの程度とわかると、大したことないじゃないか、と。もっとずっと常に100パーセントの本気じゃないと、全然ダメだな。


 俺は、努力続けろよ、と自分で自分を叱咤激励した。今までのはなんだよ。本当に口だけの男だな。


 俺は苦笑しながら作業を毎晩続けた。並行して運がいいことに他の仕事も入ってきた。これも、前にやった仕事が認められて、だ。だが、もちろんこれくらいじゃ全く食えない。これが毎月3倍以上続くなら食えても、一ヶ月ちょろっと何とかなるだけだ。


 だが、この頑なな「俺のやり方」を気に入ってくれた人がいたことについて、本当に嬉しく思った。俺には同志が必要と常に思っていた。俺はブレーンストーミングや分析が大好きなので、とにかく着眼点をどんどん上げて、会議の中でディスカッションしながら、コンセプトや大きなプロジェクトの構想を作っていくようなことが大好きだった。


 今いる世界は「真逆」・「一人」だ。


 頭の良い人が大好きなので、そのことも嬉しかった。二人ともとても頭がいい。俺より頭がいいのがすぐわかる。それなのに自分を指名してくれたことが、話を簡単にする。俺が足りなかった部分は相手が補って仕上げるのだから。


 そんなわけで、自分の小説を上げるという作業と並行して、俺は24時間くらいフル稼働していたんだが、それがどうもまずかったらしかった。


 俺は寝ないで食べないで平気で作業すると何度も書いたが、2〜3週間続くうちに、現地の学校にも言ってるから、時間が足りなくなり始めた。


 そうだ、神原さんが以前にコメントで俺がどの国にいるのか、国名の固有名詞を書いてカマをかけてきていた。俺はそのまま否定もせずにスルーして返事したが、実はアテナイには書いたかもしれないが、書いてないかもしれない。普通なら書かないが、欧州が何カ国あって、その中から条件で落とせば簡単にここがどこなのか、わかるかもしれず、俺は、また引っ越す可能性があると思ったから、迂闊に何かヒントを言ったかもしれなかった。まあでも、どこで書いても結局同じようなことになっていく。


 さっきも近況ノートで話が出ていたが、小説に実在のモデルがいるのかどうか、という話題に結局なってくる。たまたま、この話題が出たから書く。俺ね、藤浪くんにもその点で突っ込まれ、近況ノートは地雷と知ったくせに、時々更新してしまう。アテナイだけで書けばいいのにね。ほらさ、日付がちゃんと残るのは近況ノートで書いてないと、あの時期何してたか、わかんねーから。それで近況ノートにも書く。それが地雷になっちゃうんだな。近況ノートで会話してるのに、まるで俺、小説の中の人ということに周りがついていけないらしいが、実はアテナイはほとんどノンフィクションだから。最初エッセイとしていたが、エッセイじゃないだろ。日記に近いな。


 俺ね、じゃ、こういうことにしよう。俺と話す時は、全部嘘のファンタジーの世界でコミュニケーションしてると思ってよ。そうしよう。でないと、もうまともな大人の人が、この人病人です、って言い出しかねない怖さがある。


 藤浪くんが怒ってたが、俺、正直どうしていいのか、わからない。


 正直に言っても、誰も信じないなら、嘘ついているのと同じじゃないか。そうだろ?


 Bは俺が嘘つけないのをよく知ってるが、もう俺の周りに置く人間は、俺のことよく知ってる人だけでいい。本当にそう思う。だから深く追わないでください。そこまで俺のことに興味ないでしょう。実際に、「あなたに興味ない」と言われることはある。昨日か今日の近況ノートにちゃんとそう書いてあるから、見て。


 で、俺はこのことにまつわって、この時期に、やはり必然的にというか、まあ周りと気まずくなった。仕事の相手じゃないよ。仕事の相手と気まずくなるほど馬鹿じゃないから、俺。


 だって、俺がどこで何書いてるのか、しつこく聞くから。俺ね、自分でわかった。関係悪くなったら、それ以上、俺のこと追わないだろ?だからいつもそうなんだ、相手が怒ったり呆れるとホッとする。これできっと俺のこと追いかけてこなくなる、と。関係悪くなったのは悲しいが、これでもう追ってくるとかないかもしれない。わかんないけど。


 ウェブではそんな無茶苦茶な激しい性描写なんか書かないですよ、俺ね、調べたけど、表現の自由、最近あんまりないからね、やっぱり出版社抜きで訴えられたらめんどくさい気がする。誰にも読ませなきゃ済む問題だからね。


 それに他人の性欲というのは、見せられると引くと思うね。俺、やはりその点で、モデルにさせてもらった子に申し訳ないというのもあるけど、俺自身を曝け出すような、それやっぱり無理な気がする。俺ねえ、でもやっぱり思ったけど、本当はとことん追求したい方なんだろうという気がする。でもそれは相手が、素材じゃないからやらない。やっぱり生身の人間なのだから、素材に対するように対峙するわけにいかない。当たり前のことだけど、技術、技巧の話は、これ、絶対兄貴や王子くんと話す方が、同意得られる。結局のところね、なんでも同じなんじゃないかな、と思う。兄貴もよく、技術の話するけどね。


 話戻るけど、「あなた個人には興味ない」という感じで「見捨てられた感じ」になったらホッとする。俺ね、自分の周りにスペースがないと絶対に耐えられないから、そこに入ってくる人というのをすごく選ぶ。


 俺ね、Bでさえも、俺の後ろに立ったら、自動的に殴っちゃうから。物理的な問題なの。これは。俺は俺の後ろに立つやつ、絶対、自動的に殴るから、嘘だと思うなら、やってみて。


 女の子はさすがに殴らないと思うけど、俺の後ろに立ったとして、その後ろが壁だったら、絶対、壁に押し付けちゃうから、注意して。後ろにくるやつ、俺の中では全部、敵しかいない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る