第127話 旅行王子とジョーと


 俺、慌てて自分の名刺探すが、忘れてきたらしい。


馬鹿なんじゃねーのか、俺。何しにきたんだよ。


 ジョーが気遣ってくれたのか、現地語から英語に切り替えてくれた。俺、うわあ、チャンス逃す、と思ったが、どうせジョーの紹介だから、ジョーを通す。


 すいません、ぜひ俺にも一枚名刺……


 間が抜けてる俺、ジョーが俺らの出会いなどを説明する。


 旅行王子はトレイの上のクスクスのサラダをジョーに勧められて、丸いプラのパッケージを開け、食べ始めた。ここのカフェは、ショーケースからすぐ全部テイクアウトできるようになってる。俺はジョーと旅行王子を見比べた。


 ジョー、一体どこからこんな人脈引っ張ってくるの?


 そいつは旅行会社をやっていて、ジョーに講師の派遣をお願いしたいということで、今日は会ってるらしい。こいつ、日本の旅行関連の資格持ってますよ。


 実は俺は、結構なんでもやっていて、なんでもできるんだよ。続かねえだけで。


 旅行王子が、それがね、残念なことに顔が西洋人じゃないとアウトなんだよね。それが顧客ニーズなんだよね。


そう言った。アジア人相手の旅行者なんだけど、西洋人じゃないとダメでさ。


無茶なんだよね、世界遺産を貸し切りにしろとかさあ……


 俺は、写真の上だけなら、世界遺産の貸切可能ですよ、と言った。人が誰も写らないように撮れます。


 旅行王子は、写真だけじゃなくて本当に貸し切れってニーズなんだ、無茶だろ?


 ジョーがいくらで?と聞く。


 800ユーロ。


ありえねえ。なめてんのか。一秒でも無理なんじゃねーか。


 俺は、これだから嫌なんだ、と思いながら、この若さで会社を立て、従業員を雇い、店舗も持つってすげえな、と、さりげなく旅行王子の親御さんの職業の話にじっと耳をすます。


 教師?


俺の周りってほんとみんな同じだな。Bの母親も教師。


 旅行王子は、香港人だが、飛行機の設計エンジニアをしていて、起業したらしい。すごい。この国の国籍、生まれたのもここ。中国語はもちろんペラペラ、現地語ネイティブ、英語もネイティブ発音。


 この男は見込みあるのでは、と思っていると、その料理アトリエに君、何か出さないか?販売じゃなくて、ショーケースで見せるだけ、売るのはネットで。


 ジョーが、そうそう、もう俺ら在庫とかほんと、うんざりだから。


 俺もゾッとした。ジョーのお店はめちゃめちゃおしゃれだったが、俺も在庫には本当に、死ぬような目に合わせられるから、モノを持つのは本当に命がけ。


 雑多なものを100箱も梱包。考えてもゾッとする。機械的に同じものを梱包していくのとはワケが違うからなあ。


 旅行王子は、ネットでの注文って、ほんと注文かけたやつと送ってくるものが全く別物と思って、ちょっと発注して、まともなら買うことを繰り返してる、と言ってた。


 俺は、どんな話でも受けますよ、ハイハイ、という気分で、よろしくお願いします、と言った。


 俺、軽い。

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