マブタノキミ 8

確かにアツコさんの部屋にはマシーンがあった。

ただ、アツコさんの部屋はドリームルーム仕様になっていたので、通常に使用している分には問題ないはずである。


***


「私が…母の妄想を出して、父を殺そうとしている、と言うんですか?まさか、そんな…。」


帰宅したアツコさんに話をうかがうと信じられない、といった表情を浮かべた。

ヒラヤマさんには席を外してもらっている。


「つまり自覚がない、と。」


「はい、確かに眠るときにマシーンを使用していますが…。

妄想が実体化したことはありませんし、ドーリィだって持ってません。」


アツコさんは困惑したまま答えた。


「ああ、これドーリィですよ。」


キジマが突然懐から袋を取り出して言う。

それは見た目には医者で処方される薬剤袋に見えた。


「それは、私の薬…ですね。

でも、眠剤ですよ、ちゃんとお医者さんからいただいているやつです。」


確かに睡眠導入剤と書いてある。

キジマが部屋で見つけたのだろうそれの中身を取り出すと、端を摘まんでヒラヒラと振りながら軽く言った。


「見た目はちょっと出回ってるドーリィと違いますけど、成分は一緒ですよ。」


「お前…何でわかるんだよ。」


私が聞くとキジマは当然のように答える。


「飲んでみたんで。」


私はキジマの背中を蹴り飛ばした。



アツコさんは父、ヒラヤマさんへの恨みなど無いとキッパリと述べた。

演技をしていたり嘘をついたりしているようには見えない。

眠剤として処方されたドーリィを服用し、眠りに堕ちてからあの妄想を無自覚に出しているということになる。


ヒラヤマさんを殺そうとする妄想を出しているアツコさんの深層心理に確かに問題はある。

どんなに仲の良い親子に見えても、二人にしかわからない事情もあるだろう。


しかし、今は別の薬と偽ってドーリィを処方しているその医者の目的を確かめなければ。


「キジマ、休暇は終了だ。これは事件として扱う。」


私はアツコさんに薬の服用をやめるように伝え、渋るキジマを連れて病院へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る