マブタノキミ 7

私は寝ずにヒラヤマさんを見張っていたが、それから朝まで奥さんの幽霊、いや、妄想は出てこなかった。


この部屋にマシーンは無い。

そしてヒラヤマさん自身、マシーンとの接続機は装着していない。


そして、この家の中には私とキジマを除くと、あと一人しかいない。


だとすると、何故?

何故彼女は、死んだ母を使って父の首を絞めるのだろう?

ヒラヤマさんに何と説明すればいいのだ。


私が考え込んでいると、アツコさんが炊事をする音が聞こえてきた。

今のうちに、本人に聞くべきか。


私が腰を上げると、もぞもぞと目の前の布団が動いた。


「んん…?アサヌマ、起きてたのか。」


ヒラヤマさんが目を覚ましてしまったことで、私はまた座り直す。

続いて、台所からアツコさんが声をかけてきた。


「お父さーん、朝ごはん用意しておいたから、お客様と食べてね。

私は病院の日だから、もう少ししたら出かけるからー。」


「はいはい、ご苦労様ー。」


伸びをしながら返事をするヒラヤマさんを見ても、この親子の間に問題があるとは思えずにいる。

だが、昨夜のあれは、アツコさんが出した妄想と考えて間違いないだろう。


「病院?アツコさん、どこか悪いのですか?」


私が聞くと、ヒラヤマさんは渋い顔をして、小声で答える。


「あいつ、出戻りだって言っただろう?

旦那にさ、暴力をふるわれてたんだよ。DVってやつだ。

おかげで心に傷が残っちまって、カウンセリングを受けてる。」


「そう…ですか。」


私が何と言っていいものかわからずにいると、ヒラヤマさんは、


「もちろん相手のことはボコボコにしてやった。おかげで慰謝料出し渋られたがな。」


と、わざとらしく明るい声で言った。


離婚、DV、心療内科。

明るいアツコさんからは似合わないワードがぐるぐると頭の中を巡る。


「…ヒラヤマさん、後でアツコさんの部屋、見せてもらっていいですか。」


私が静かな声で伝えると、ヒラヤマさんは一瞬驚いた顔をしたが、


「…家内のことで、何かわかったんだな。」


そう真剣な顔で呟き、了承してくれた。

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