マブタノキミ 6

確かに、それは仏壇に飾ってあるヒラヤマさんの奥さんの写真と同じ人物に見える。

幽霊とはこんなにハッキリと見えるものなのだろうか。


ヒラヤマさんの奥さんに見えるそれは、柔らかな笑顔のまま、眠っているヒラヤマさんの首に手をかけた。

ヒラヤマさんはウウウ、とうめき声を出して暴れだす。


私は反射的に奥さんの幽霊に体当たりをした。


しかし、幽霊は微動だにしない。

この吹けば飛びそうな小柄の女性が、私が全力でぶつかって全く動かないなど、幽霊とはそういうものなのか。


奥さんは私に気づきもしない様子で、笑顔のまま、ただただヒラヤマさんの首を絞めている。


バタバタと暴れるヒラヤマさんの力がどんどん弱くなっていく。

どうしたらいいんだ。

経でも唱えたらいいのか。

私は混乱していた。


その時、唐突に奥さんの体が後ろに引っ張られ、倒れた。

奥さんの首には縄のようなものが巻き付いている。

奥さんは起き上がりまたヒラヤマさんの方へ向かおうとするが、進もうとすると縄が食い込み先へ進めないようだ。


「やっぱりな。アサヌマさん、幽霊じゃないですよ、これ。」


縄を引きながらキジマが伝えてくる。


「お前、なんで奥さんを動かせ…」


言いかけて、漸く気づいた。


実体はあれど、抵抗できない。

ヒラヤマさんの首には指のような痕。

冷静に考えたらこれは、実体化した妄想ではないか。


奥さんの形をした妄想は、しばらくもがいていたが、数分すると消えた。


「なんでお前マシーンを持ってきてたんだ?ドーリィも。

気づいてたのか?ヒラヤマさんの言う幽霊が、妄想だと。」


私が尋ねると、キジマは笑いながら答える。


「アサヌマさーん、マジで幽霊とか信じちゃってたんですかあ?意外にピュアなんですねー。」


私はキジマを蹴りたい衝動に駆られたが、今はヒラヤマさんが心配だ。

ヒラヤマさんを見ると、しばらく苦しそうに咳をしていたが、またすぐに寝てしまった。


「慣れって怖いですねえ。殺されかけたのに目も覚まさないなんて。」


キジマはあくびをしながらそう言うと、用意してもらっていた布団に潜り込む。


「おい!あれが妄想なら事件だろうが。寝てる場合じゃ…」


私はキジマを怒鳴り付けたが、布団からは既に寝息が聞こえてきていた。

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