マブタノキミ 5

ヒラヤマさんの家に着くと、またアツコさんの手料理でもてなされて、なんだか申し訳ない気分になった。


今回の食事にはアツコさんも終始同席していたので、幽霊の話を詳しく聞き出せないままに談笑が続いている。

料理もうまくしっかり者のアツコさんは良い嫁になりそうなものなのに、離婚してしまうとはもったいない。


そんなことを考えていると、今日は外に泊まるからと伝えた時の妻の冷めた目を思い出してしまう。

同時に、ヒラヤマさんと顔を合わせているせいか、固く蓋をしたあの忌まわしい事件が首をもたげてくるようで、私はどうも居心地が悪い。


自然と私はいつも以上に口数が少なくなり、酒ばかりが進んでしまう。


キジマがヒラヤマさんに、アサヌマさんは昔からこんなに無愛想だったんですか?などと余計なことを聞いている。


ヒラヤマさんは、いや、そんなことは、と言いかけてから、


「…まあ、根はいい奴だよ。こいつはちょっと不器用なだけさ。」


と答えた。


ああ、ますます居心地が悪い。



食事が終わり、ヒラヤマさんが風呂に行っている間、幽霊出ますかねー、キジマが布団の上で謎の筋トレをしながら聞いてくる。


今夜は三つ並べられた布団の真ん中にヒラヤマさんが寝ることになった。

大の男三人が川の字で寝ると言う何とも言い難い嫌な構図だ。


「さあ…?とりあえず寝ずに見張るしかないな。」


思った以上に酒を飲んでしまったので、既に眠気が襲ってきていたが、キジマもいるから大丈夫だろう。

今日は酒を飲ませていないし。



風呂からあがったヒラヤマさんは早々に寝てしまった。


私は横にならずに壁にもたれてヒラヤマさんを見ていたが、一時間ほど経ち、ウトウトしてきた時だった。


「アサヌマさん、マジで出やがりましたよ!」


キジマの声で顔を上げると、確かに「それ」は、そこにいた。

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