魔獣退治(その一)

 ラウドの父アレルドからダビドが聞いた話によると、蛇型魔獣の体色は灰色で、火竜並みに大きく、ちょうど鹿並みの大きさのラージハウンドを襲っていた様子から、巻き付いて締め上げて獲物を殺して食す習性を持っている。発見した地点は、ベネト村に隣接する森ではなく、少し下ったところの森とのこと。登山道からは離れた地点で、ベネト村でも猟師くらいしか踏み込まないあたりだという。


 発見した場所が村から離れ、猟師以外は踏み込まない地域だとしても、いつ移動してくるか判らない。

 ドラグニ山でしばしば見かける獣や魔獣ならば、村人の多くが対処法を知っているし、生息域も判っている。だが、今回見かけた蛇型魔獣は、これまで知られていない。習性も弱点も分からない魔獣が増えたりでもしたらベネト村の住人が困る。

 

 早朝、ダビドの呼びかけで、猟に慣れた者が二十名集められ、発見地点周辺を調査し、見つけ次第倒すこととなった。

 ヒューゴとライカッツ、ラウドも参加する。その他にも、パリスの兄スタニーなどの剣や弓、攻撃魔法が得意な者が揃っていた。本人は参加したいと希望したが、いざという時しっかり動けないと困るという理由で周囲から反対され、蛇が苦手なパリスは不参加になる。


「では、必ず二人一組で行動するように」


 ダビドの合図で、アレルドが発見した地点まで各々で移動を始めた。


・・・・・

・・・


 ヒューゴはライカッツと組み、目的地へ向かう。

 ラダールを周辺監視のために飛ばせ、蛇型魔獣を発見したら鳴いて知らせるよう指示を出した。火竜並みの大きさなのだから、地上に出ていればすぐ見つかるはずとヒューゴは予想していた。


 だが、目的地の近くまで来ても、ラダールからの合図はない。


「地中に潜っているのか、それとも遠くまで移動したのか?」


 ライカッツの問いは、ヒューゴを困惑させる。


 どこにいようと発見できなければ討伐はできない。特に地中を潜って移動できるとしたら、それは村の近くまで接近しても判らないということ。村の住人を危険な目に遭わせるのは絶対に避けたい。

 ヒューゴはダビドから教えられた情報を思い出していた。

 アレルドが発見したのは昼間……ということは夜行性ではない。

 ラージハウンドを捕食していたのだから肉食性。


 今は昼前だから活動しているだろう時間。

 ならば……餌を探して移動しているかもしれない。

 とにかく思いついたことを試してみるしかない。

 

 ヒューゴは、指笛を鳴らし、舞い降りてきたラダールに新たな指示を出した。


「巨大な蛇だけじゃなく、中型から大型の獣か魔獣を見つけたら教えてくれ」


 クゥウと鳴いて、ラダールは再び上空へあがる。


「餌を探しているかもしれないので……」

「判った、ヒューゴ。ラダールの動きに俺も注意しておく」


 方針を確認しあって二人は森の奥へ更に進んでいった。

 ライカッツもヒューゴも狩りをする。だからベネト村へ日帰りで戻れる距離の森なら一度は足を踏み入れたことはある。ドラグニ山は天候が変化しやすく酷い天気に変わることもあるので、猟師でもなければ日帰りできる距離より遠くまではいかない。

 そして、そろそろ日帰りできる距離を超えようとしていた。その状況は、ライカッツもヒューゴも判っているが、いざとなればラダールに乗って戻れば良いと考えている。

 できる限り広い範囲を探して、可能なら今日中に討伐を終えたいのだ。


 森のだいぶ奥深く入ったところで、ラダールがギュウウウウーーーーと鳴いた。見上げると、ヒューゴ達が来た方向へ戻って飛んでいる。

 

「ヒューゴ! 戻るぞ!」


 ラダールが向かう方角へライカッツは駆けだした。ヒューゴもその後を追う。見失わないように、時折ラダールの動きを確認しつつ二人は走った。

 森の中は枝葉で多少影があるが、まだ昼前で明るく視野は良い。背の高い雑草を避けつつ、二人は駆け抜ける。

 ライカッツとヒューゴの息が荒くなったころ、蛇型魔獣に五名の村人が剣と槍で攻撃しているところに到着した。

 

「ライカッツさん! ヒューゴ! 親父が捕まった!!」


 巨大な灰色の蛇は、人に巻き付いている。蛇の身体の隙間から、アレルドの苦しそうな顔と、剣を持った手が見える。


「急がなければ!」


 左右に振る尾の先側で村人達の動きを牽制しながらも、アレルドを離そうとはしない。村人達が正面側から攻撃している様子を見て、ライカッツは背後へ回る。


「なり振り構っていられない!」


 ヒューゴの背中が紫色の強い光を放つ。剣を強く握りしめ、アレルドの胸部を閉めている部分目がけて地面を蹴った。近づくとヒューゴの頭ほどの鱗がびっしりと詰まっていた。

 鱗の隙間目がけて、剣を力の限り突き刺し、ガンッという反動を強く感じた。

 剣は隙間に多少食い込んだ程度で、深くは刺さらなかった。


「堅い……」


 剣も通りづらい堅い鱗が重なるように体表を覆っている。

 士龍の力で強化されたヒューゴの攻撃でもこの程度なのだから、物理的攻撃で体表を攻撃しても傷を負わせるのは至難の業だ。

 どうする? と躊躇しているところに太い尾が迫ってきた。ヒューゴは背後に避け、一旦、距離をとる。


 口を大きく開いた鎌首も振り、村人達を攻撃している様子を見ながらヒューゴはどう攻撃したら良いのか考える。


 ――蛇型なのだから蛇と同じ弱点を持っているはず。冷気には弱いだろう。だけど、僕は魔法を使えないし、他のみんなは近づかせて貰えない。離れたところからだと、アレルドさんを魔法に巻き込んでしまうかもしれないからダメだ。近いところから魔法を当てるしかない。


 周囲を見回すと、ラウドが槍で蛇の頭部を攻撃している。攻撃しているというより、槍で蛇の頭を近づかせないようにしている風にしか見えない。ラウドも攻め手に困っているようだ。


 ラウドは魔法が使えるとひらめいたヒューゴはラウドに声をかけ、協力を求める。

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