「52ヘルツの鯨」と宵待草
第33話 少女は語る
「星原? 入るぞ」
星原から小説の構想が出来たというメールを受け取った次の日、僕はいつものように声をかけて部室のドアを開けた。もう夏休みは目前なのでこれが今学期最後の部活動になるだろう。そもそも正式な部ではないけれど。
はたして星原は部室にいた。……が、いつもと少し様子が違っていた。だらっとソファーに寝そべっているのではなく行儀よく座っている。そして手にはノートではなく文章を印刷した用紙の束を持っていた。その表情はどことなく思い詰めているようにも見える。
だがそれとは別に気になることがあった。
「星原って、近視だったのか?」
星原は眼鏡をかけていたのだ。
「え、うん。いつもコンタクト着けていたの。今日は少しイメチェンしようかと思って」
「ふうん」
朝、教室で見た時はかけていなかったような気がするが、わざわざ眼鏡にしたのだろうか。
それに普段は小説の構想を話すときはノートのメモを見ながら星原の頭の中にあるあらすじを語っていたのに、今日は紙にプリントアウトして持ってきている。
いつもより長いストーリーなのか。それとも内容をある程度固めてきたということなのだろうか。わざわざ昨日、小説の構想が出来たこともメールで知らせてきたこともあるし、何となく改まった雰囲気があるように思える。
「それじゃ、聞いてくれるかしら」
「ああ、聞かせてくれ」
星原は少し緊張した面持ちで口を開いた。
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