第341話 拒絶するマネキン
「なんのつもりだ、ゼファー。観察者からあんたを救ったのは俺だろ?」
「……ああ、そうだな。だが俺も復讐神の秘薬を与えただろ?」
「そういえばそうだったな……。だからって俺を拘束するのか? パトリック、シエラ。お前らまで」
シエラとパトリックは何も答えない。
「魔導師教会をバノームに配備したのは終焉の学院ビクトリアだ、つまりそこにいるクソガキの陰謀だったってことだ。そうやって昔から魔術師たちを監視し、権利を奪ってやがったんだ。そうだろ!」
「そうじゃ」アダムスはぬけぬけと言った。「八岐の王というシステムを作ったのも儂じゃ。ゼメキスを派遣してのお」
「ゼメキスはイキソスという権力を手にし、好き放題していた。それもこいつの命令だったってことだ」
「意識あるものを完全に従わせることはできぬ。ゼメキスにもそのうち欲が出てきたのじゃ」
「聞いたかお前ら!」その場の全員に向かって言った。「つまり八岐がもたらしたこれまでの惨劇は、すべて、このアダムスが原因だったってことだ!」
「――それは違う」
「……は?」振り向いた先にアドルフが見えた。「アドルフ?」
「アマデウス……いや、マサムネ、それは違うんだ。かつて八岐の白龍を野に放ったのは僕なんだよ。アダムス様はそれを食い止めようと、ゼメキスとウラノスを送ってくれたんだ」
ウラノスは八岐の白龍を倒した。英雄が生まれる中、魔術師教会を名乗り現れたゼメキスの提案により、八岐の王が誕生。
八岐の白龍は実験的な試みであったとアドルフは言う。大規模な力が欲しかったのだと。
それにより、アドルフはウラノスを見つけた。
「ガイアを殺したのは僕だ」
ガイアはダームズアルダンの元国王――シュナイゼルの姉にして、ウラノスの妻だ。
「どうすればウラノスが心を壊すのか、僕にはそれが手に取るように分かった。思惑通り、彼は最初のダームズアルダンを壊し、そこに帝国を築いた。黒龍がもたらす世界崩壊の迷信と、それにより現れる観察者の力があればガイアは生き返ると教えた。心の破綻した者を操るのは簡単だった」
アドルフは言った。「アダムス様はなにも、好き勝手にバノームを操っていた訳じゃない。助けるべきところには手をさしのべていた。それだけなんだ。魔術師教会も、八岐も、すべては平和のためのにあったんだよ」
「お主は子供じゃ」
オズワルドだった。いつかの偉そうな面がよみがえるようだ。
「子供がそのまま大人になった、幼稚な者じゃ」
オズワルドは白い杖を俺に向けて、
「この封印の杖でお主を拘束する。バノームのみならず、世界中を旅して作り上げた杖じゃ。これには封印効果のあるスキルを有しておった、数々の協力者の想いがこめられておる」
アダムスが言った。「お主はもう救えん。さらばじゃ深淵の王よ」
そこに集まった誰もが俺を睨んでいる。嫌悪している。いい加減に真面目ぶったような微力の目つきで、俺を見ている。呆れに近い感情たち。
シエラも、パトリックも……誰一人、止めようとするものはいない。
「アルフォードの無念をここで晴らす!」
ジークがそういうと、エリザがの目つきが強まった。
「全員でじゃ、全員で力をあわせ押さえこむ!」
そんなアダムスの掛け声のあと、隣から「お助けしましょうか?」とロメロの声が聞こえた。
こんな糸、いつでも切れるんだよ。
「見えてない……」
お前らは――。
「見えてないんだよ、お前らは!」
俺の声が中心となり、風圧が大地に走った。
「一条。 お前、俺を助けるんだろ?」
表情を変えない一条。
「パトリック……俺たち、友達だろ?」
「ニト、俺は……」
目を強くつむるパトリック。次に開くと微かな迷いは消えていた。
「俺にとってシエラは、言ってみれば最初の異世界人だった。最初に親しくなった異世界人だった」
「マサムネ。今は封印されてください……平和のために」
シエラの手の平から俺へと伸びる緑の糸は、風の魔力を含んでいる。
「裏切りの王よ」とアダムス。「お主は皆を裏切った。信じていた皆を。だからこそこの現状が生まれたのじゃ」
オズワルドが言った。「こうなることは分かっておった。子供をしかるのは大人の役目じゃ。儂はこの魔法にすべてを捧げ、お主を封印する」
これで終わりだ。これで終わりだ。これで終わりだ。これで終わりだ。
一人一人、順に、安っぽいどうでもいい感想を述べていく。俺を封印して終わり。一件落着。闇は消え去った。平和が訪れる。これで安心だ。
目先のことばかりに執着する愚だ。
なぜ俺のようなものが生まれたのか。
そんなことになんて興味がない。
見えてない……見えてない……見えてない見えてない見えてない見えてない。
「盲目どもが――!」
俺は喉に痛みが走るほど叫んだ。
※
「やっぱりこうなっちゃったのね」
パトリックの頭上に火の精霊王サラが現れていた。
呟いたサラに激しい怒りの目を向ける政宗。今にも飛び掛かりそうなほどだ。
フィオラの頭上に雷の精霊王ボルートが、エリザの頭上には水の精霊王ウンディーネが、ゼファーの頭上には土の精霊王ノームが、そしてシエラの頭上には風の精霊王シルフの姿があった。
政宗を拘束している5つの糸が、それぞれ赤、黄、青、白、緑に輝いた。拘束が強まる。だが政宗の表情は変わらない。
「盲目なお前たちは興味もない結果と原因を前に主体性を失う」
目の前のそれぞれを指さし政宗は「マネキン、マネキン、マネキン、マネキン……」とつぶやいた。
心配そうにロメロが「陛下?」と呼んだ。すると政宗はぼそりと言った。
「このまま封印されてやろうか……」にやついた。
「一体何を……」
困惑するロメロへ振り向き、「その代わり、正門を開けてやる」
「……それは。なんと喜ばしい」
政宗はニタニタと笑った。
失った半身ヴェルの記憶が受け継がれている。政宗にとって意識廟の門を現すことは簡単だ。
「なんということじゃ……」
アダムスは絶句し、上空のそれへ意識を奪われた。
青空を隠すようにいくつもの黒い扉が現れていた。まるで敷き詰められたタイルのように、縦と横、幅をそろえて閉ざしたまま整列している。縦は雲の上にまで続き、横は果てしない。無数だ。
「オズワルドよ、やるのじゃ!」
アダムスの声をきっかけにオズワルドは杖を逆手に持って駆け出した。迫る老人を目前に、政宗は「手を出すな」とロメロに言った。
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