第4話 不戦勝

この大陸には3大魔法学校と呼ばれるものがある。


一つは、フィシャナティカ魔法魔術学校。

もう1つが、ハイルクウェート高等魔法学院。

そして最後が、終焉の学院と呼ばれる、


ビクトリアだ。 


だが俺はそれしか知らない。

これらは授業で習ったものだが、それ以上の説明はなかったし、俺も特に気にすることはなかった。


「アダムスには2人の弟子がいたのよ。1人はマーセラス・ハイルクウェート。そしてもう一人は、ベアトリス・フィシャナティカ」


「フィシャナティカですか? それって、対校戦の相手校ですよね?」


「そうよ。その対校戦も、すべては監視対象である“それ”を見つけるためのもの。何よりそれが……2人がアダムスから命じられたことなのよ」


「命じられたこと?……」


さっぱり分からない。

つまり、この話を俺が聞く理由がどこにあるのかということだ。

用は済んだし、さっさと帰りたいのだが……。


「突如、現れた帝国のSランクモンスターを一人で殲滅した青年。その数ヶ月後には、ダンジョンを攻略……」


すると校長は一人、話しを始めた。


「あの……何が言いたいんですか?」


分かっている。

つまり何故かは分からないが、この人は俺を疑っているわけだ。


「おかしいと思わないかしら? わずか17歳の青年が、Sランクばかりか、ダンジョンまで攻略したのよ?」


「だからそれは、適正があるんですって」


この人に話したのはマズかっただろうか?

なんだか、そんな気がしてきた。


「そうね……あなたが言うには、そうだったわね? でも、だとしたら余計におかしいのよ。異常な力を授かった上、ダンジョンにまで認められる。それが普通だと誰が思うかしら?」


結局、この人の言いたいことが分からない。


校長は俺の目をじっと見る。

そしてその目は俺の何かを探っているように思えた。


すると校長は、ある話を始めた。


「――それを手にした者は、まずそれが何かを求める。そしてその者は必ず世に出てくるのよ」


校長は突然、意味深な話を始めた。

まるで独り言のようだ。


「“それ”って……何の話ですか?」


「そして……可能性として、いずれかの環境に身を置く……」


どうやら俺の質問に答える気がないらしい。


「環境……ですか?」


「そうよ……」


俺は分からなかった。

この人は俺の何を疑い、何を話しているのか?

それが分からない。

ただ相づちを打つだけの会話に何の意味があるのか?


「では聞くけれど、あなたは何のためにこの学院へ来たの?」


俺はその問いに正直に答えた。


「ヒーラーでも使える魔法について調べるためです」


「え?……」


すると意外だったのか、校長は間抜けな顔をし、言葉を詰まらせた。


「そっ、そう……まあ、いいわ。でもそういうことよ。学校という環境は、求める者に知識を授けるわ。だからその者はいずれ、どこかの環境に身を置くはず。だから2人の弟子は、ハイルクウェートとフィシャナティカという魔法学校を設立したのよ」


「あの……さっきから先生が言ってる“それ”ってどういう意味ですか? もう少し具体的に言ってくれないと、分からないんですけど……」


大体、想像はつく。

おそらく深淵のことだろう。

ここ最近、それについて触れる機会が多かったせいか、俺の頭の中には、自然に“深淵”の文字が浮かんだ。

でも何故、この人はそれを知っているのだろうか?

まあ、俺の勘違いということもあるし、とりあえず話を聞くべきだろうか?


だが話を振り返ってみると、分かることがあった。

つまりこの人は、アダムスの弟子が創設した学校の校長なわけだ。

だとするならば、深淵を知っていても、さほどおかしくはないのかもしれない。

そう考えるとやはり、俺の予想も間違っていないのではないかと思うのだ。


「……私とフィシャナティカの校長、オズワルドは、就任して直ぐ、その存在を知ったわ。この2つの学校の校長に就任するそれぞれの者は、古くからそれを知ることと、その者がそこへ至らぬように導くことを伝えられる。そして誰にも語らぬようにと、言い渡される」


つまり話せないというわけか。

そしてこの人は、俺が“それ”であるかどうかについて、様子を見ながら話しているというわけだ。

万が一、違った場合のことも考えて、あえて言葉にしないのだろう。


「あなたがそうであるにしろ、違うにしろ、あなたにはその可能性しか見えないの。もし今あなたが、実は心の中で私の言っている意味に気づいていて、理解しているのなら、私の話を聞きなさい」


「……はあ」


俺は疑問の籠った相づちをうった。


「――もう、それと関わるのは止めなさい」


校長先生は俺に、場が静まり返るような冷静な声で、そう言った。


この人はダンジョンのことを知らない。

つまりダンジョンが、俺と半身を繋ぐものだということを知らないのだ。

でもこの人は深淵の何かを知っている。

できることなら知りたい。

アダムス関連の話なら尚更だ。

だがこの人は隠す。

隠している以上、こちらも話す訳にはいかない。

心意も分からないし、まだ信用できない。


俺は席を立った。


「俺はこれで失礼します。先生の言いたいことは分かりませんが、ご忠告、感謝します。それと手続きの件、ありがとうございました」


俺はそのまま扉の方へ歩いていった。


「待ちなさい――」


すると俺を引き留める声が聞こえた。


「何ですか?」


「もう一つ話があるのよ」


あれだけ話したというのに、まだ何かあるらしい。


「……何の話ですか?」


「あなた、対抗戦には出場する気でいるの?」


「はい、一応参加しようとは思ってますけど……」


代表決定戦への参加は、エントリー方式ではなく、意志がなければその旨を伝え、意志がある場合は放置という仕組みだ。

つまり基本的に、最初の時点では皆、参加していることになる。

そこから徐々に、棄権者が明らかになり、人数が減っていくわけだ。


「そう。実はあなたが参加するにあたって、色々とこちらで考えさせてもらったの」


「はあ……?」


次から次へと話の多い女だ。


「その結果、今回の対校戦への、あなたの出場を認めないことにしたの」


「……へ?」


校長の口から飛び出したのは、思ってもいない言葉だった。


「オズワルドとも話し合って、色々考えたのよ。冒険者ニトという存在をどうするのか?」


――出場停止。

俺はどうやら、対抗戦に参加できないらしい。


「出場……できない?」


それはマズい。


「対校戦は生徒たちの成長の結果が如実に表れる場所よ。それに各国から様々な国の重鎮も訪れる。言ってみれば、彼らにとっては将来がかかっているの。ただのイベントごとではないのよ」


「俺だってそうですよ!……」


フィシャナティカには、あいつらがいる。

だから俺はどうしても出場したかった。

この巡り合わせは奇跡だとすら思った。

それなのに……


「でも……やはり冒険者ニトをこの試合から省くわけにはいかない」


「え?……」


するとそこで兆しが見えた。

一体どっち何だ? という話だ。

出場できるのか、できないのか?

どっちかにしてほしい。


「つまり……どういうことですか?」


「あなたがこの学院に在籍していることは、もう世間では周知の事実なのよ。試合当日は、あなた目当ての客が大勢訪れるでしょう。その中には、今いったような国のトップも含まれるわ。その手前、あなたをただ出場停止にはできないの。そんなことをすれば必ず反感を買うから……」


「じゃあ、俺は……」


「特別措置として、今回の対校戦に追加対校戦を設けました。もちろん対校戦自体の勝敗とは無関係よ」


「じゃあ代表決定戦はどうなるんですか?」


「あなたに代表決定戦はないわ。あなたが関われば、この学院のランキングを乱すことになるでしょ? だからあなたは代表決定戦を免除され、現時点を持って対校戦への出場が確定されたのよ」


代表決定戦も行わずに、対校戦出場確定。


「そうよ。もうそろそろアナウンスが放送されるはず。その上で、意義のある者が現れた場合は、あなたと直接、試合をしてもらいます。その上で、挑戦者が勝った場合は、追加対校戦の切符が勝者に渡るわ。何もなければ、あなたはそのまま今いった通り、対校戦出場よ」


校内アナウンスが流れた。

内容は先生が言った通りだ。

俺は代表決定戦を免除され、対抗戦とは別に行われる追加対校戦へと出場する。

今年の対校戦は3対3。

そこに追加で、別の対校戦も行われる。


先生はその後、前例がないからどうなるか分からないと、付け加えた。


「無謀な子がいないことを願うわ」

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