第20話 黒い巨塔と王の盾
草原を歩き、しばらくしてそれは砂に変わった。
砂丘だ。
足場の悪い冒険がしばらく続いた。
黒い巨塔が見えてきた。
「ニト様、あれがそうではありませんか!」
スーフィリアが興奮している。
ダンジョンだ。
彼女にとっても珍しいものなのだろう。
ダンジョンの周囲一帯はお祭り騒ぎだった。
いくつも露店が立ち並び、いつ建てたいくつかビルも目にする。
それらは富裕層のための宿らしいが。
もはやこれは町だ。
砂漠のど真ん中に町が広がっている。
露店でダンジョンジュースなるものや、ダンジョン
帰りに買って行こうか。
「歩きっぱなしで喉が渇いて来たわ」
トアがそう言うので、4人分のダンジョンジュースを買った。
味は柑橘系の甘い砂糖水だ。
ネムがおいしそうに、せかせかとジュースを飲んでいる。
相当、喉が渇いていたらしい。
「あの、ここに立ち並んでいる露店なんかは、元々ここにあったものなんですか?」
俺は店主に訊ねた。
「そんなわけないだろ。ダンジョンがあるから挑戦者が集まる、挑戦者が集まるから、俺たち商人も集まるのさ。それに合わせて建てたんだよ、俺たちみたいな商人にとっちゃあ稼ぎ時だからな」
「ねえ、この後はどうするの、もうダンジョンに行く?」
トアに聞かれる前から考えていた。
「皆はどっちがいいんだ? なんなら一日休んで、明日挑戦してもいい」
俺は特に疲れていないが、3人はどうだろうか。
獣人とはいえネムはまだ小さい、スーフィリアも温室育ちだ、トアはまだマシな方か。
「わたくしはニト様にお任せします」
スーフィリアは相変わらず遠慮がちだ。
ネムとトアは平気そうだが。
ダンジョンへは万全な状態で挑むべきだろう。
「今日はとりあえず休もう」
「じゃあ宿を探しましょ?」
「だな。そうだ、とりあえず、あの黒い塔の下見に行かないか? 一度近くで見ておきたいんだ。宿はそのあと探そう」
俺たちはジュースを片手に、塔へ向かって歩いた。
※
「大きいのです」
「これがダンジョン?」
「そういうことになりますね」
間近で見ると迫力が違う。
ダンジョンの周囲には疲弊した者や、これから挑むらしい者たちのグループがいくつかあった。
「これって何でできてるのかしら」
「何って、材質の話か?」
トアは意外なところに興味を示した。
俺は塔の一部である黒い短い階段を上り、広々と構える入口の前に立った。
階段下ではトアが手を振っている。
背後には入り口があり、その向こうは真っ暗で何も見えない。
時折涼しいくらいの風が吹き、反響したような遠い風音が聞こえる。
それがまるで話し声のように聞こえた。
「ねえ、そろそろ行きましょ!」
トアの声が聞こえ階段下へ振り返る。
そこで、露店の方からこちらに歩いてくる、見覚えのある二人の姿を見つけた。
魔的通信社のフランチェスカと、カメラマンのドリーだ。
3人と合流するタイミングで、フランチェスカが声をかけてきた。
「お久しぶりです、お面は相変わらずですね」
この町に入る前に、念のため面をつけた。
「身バレが怖いので」
「一枚いいですか?」
ドリーがカメラを構えた。
「3人はダメですよ」
面の上からなら撮ってもいいと事前に言ってある。
写真を撮られながら、フランチェスカは今の心境について訊ねた。
「特に緊張している訳でもなく、挑戦は明日からなので」
「そうだったんですか。でも構いません、明日も取材させてもらいますので」
そんなに何を聞くつもりなのか。
フランチェスカはメモとペンをしまった。
「実は学院を離れしばらくして、要塞都市アルテミアスが帝国の襲撃を受けたという情報が入りまして、おそらくトライファールが狙いではないかと思いますが」
どういうことだ、あれは俺たちが行ったものだが、帝国のせいになっている。
スーフィリアが一瞬、ちらっと俺の方を見た。
「王の遺体、それから側近と多数の王国関係者の遺体も見つかりました。そして、王女の死亡も確認されたとのことです」
フランチェスカはスーフィリアを
スーフィリアはいつも通りの笑顔を顔に貼り付けていた。
だがフランチェスカはすでに見抜いているだろう、そして疑問に思っている。
何故ここに王女がいるのか。
「前にも言いましたけど、それについては答えられません」
「では、私の趣味ということではどうですか?」
「趣味? いや、無理ですねえ」
「分かりました。ではそれは諦めるとして、質問を変えさせてください」
フランチェスカは言葉とは裏腹に諦めた様子を見せない。
「ニトさんは帝国の関係者ですか?」
「いえ、違いますけど」
「分かりました。では次にシエラさんについてお聞きしたいのですが」
「シエラはどうしてますか?」
「元気、とは言い難い状況ですね。噂によれば家からほとんど出ていないとか」
「そうですか」
「ヒルダ・エカルラートさんの葬儀が行われてから一週間以上が経ちました。二度に及ぶ帝国の襲撃を経て、どうやら白王騎士と国王の間で意見が分かれているようです」
「意見が分かれている?」
「はい、白王騎士は帝国との戦争を望んでいるとか。ですが王はそれを許さず」
「なるほど」
「ご主人様、戦争が起きたら、シスターやシエラはどうなるのですか?」
ネムの不安な顔が見えた。
「分からない。でも、戦争はまだ始まらないんですよね?」
「どうでしょうか、分かりません。ただラズハウセンは小国ですし、帝国に挑めるほどの軍事力はないはずですが」
「それで、シエラについて聞きたいことというのは何ですか?」
「白王騎士については記事に掲載されますので、その際にシエラさんのことも書かせていただきたいんです」
「俺との繋がりを公表するようなものでなければ大丈夫ですよ」
「分かりました、ではいくつか伺わせていただきますが――」
しばらくして取材が終わり。
「貴重なお話、ありがとうございました」
フランチェスカが一礼し、その場を離れようとした時だった。
どこからか殺気を感じた。
背後に
「ん、何だ?」
大柄な者の姿があった。
真っ白な体毛を生やした男が、俺に向けて鋭い爪を振り下ろそうとしている。
俺はそいつの首根っこを掴み。
「がっ!」
「いきなり何だ?」
白熊、獣人だろうか。
俺はそいつをぶん投げた。
地面に軽く叩きつけられた白熊は、体勢を立て直しまた鋭い視線を向ける。
さらに別の方向はもう一つ殺気を感じた。
さっきの要領で首根っこを掴み放り投げる。
「白熊が二匹」
二人の獣人が俺を睨みつけている。
「君がニトかい?」
背後――ダンジョンの階段付近から声がした。
振り返ると、階段に一人、パーマで乱雑にねじったような、ボサボサの黒髪の男が座っていた。
「小人族の愚面を被った、女連れの冒険者。間違いない、ニトだ」
その言葉に考えが過り、俺はフランチェスカの顔を伺った。
記事には仲間のことは書くなと言っておいたはずだが。
だがフランチェスカのは首を横に振った。
つまり言いつけ通り記事にはしていないということか。
「なんだお前、なんで俺を知ってる?」
人を見下したような目つきと不敵な笑み。
光るピアスと羽織っただけのジャケット。
くしゃくしゃで
男は無言のまま、視線を二匹の白熊へ移す。
直後、なんらかの合図を受け取ったように鋭い爪が迫ってきた。
前方より、横に並んで白熊の姿は見え。
俺は二人の間にできた、その隙間に向かって足を一歩踏み出した。
両腕の上腕二頭筋を二匹の顔面に添え、そのまま一気に《神速》を発動し叩きつける。
――『《ジャクソン・フレデリック【Lv:41】》討伐により、固有スキル《女神の加護》が発動しました。戦利品を選んでください』
――『《サミュエル・フレデリック【Lv:42】》討伐により、固有スキル《女神の加護》が発動しました。戦利品を選んでください』
頭の中に二匹分のアナウンスが流れた。
振り向くと、首の無い巨体が二つ佇んでいた。
「はははははは、これは傑作だ!」
乱れ髪の男が立ち上がる。
「君のどこにそんな力があるんだい、それに魔力も感じないし!」
仲間が死んだのにこの笑顔か、イカレてるな。
「悪く思うなよ、そっちが先に手を出してきたんだ」
「別に構わないさ、相手の力量を見計らったそいつらの責任だ」
労う言葉もなしか。
「まさか、あなたは……」
フランチェスカが驚きながら言った。
心当たりがあるのか、徐々に彼女の表情は恐れを抱くもののそれになる。
「こいつを知ってるんですか?」
「間違いありません……彼はラージュ。王の盾です」
「王の盾?」
「帝国には白王騎士クラスの者が何十人もいるという話でした。ですが皇帝は言いました。この国には彼らを遥かに凌駕する者が3人いると」
「それが王の盾ですか?」
「はい。ですが帝国の実態は最近まで謎でした。それは皇帝が一向に、その王の盾の実体を見せなかったからです。だから世間では王の盾は力の誇示を目的とした、皇帝の虚言だと言われていました」
「流石は魔的通信、僕のこと知ってるんだ」
乱れ髪の男――ラージュは彼女を称賛した。
「
「よく覚えてるね」
ラージュは満面の笑み浮かべた。
「何ですか、そのパルステラって?」
ラージュはその場に座り込んだ。
その動きにフランチェスカがビクつく。
「警戒しなくてもいいよ、自分の話をされるのは好きなんだ」
「彼は、峡谷都市パルステラの元宮廷魔導師だったのです」
ラージュは歯茎をむき出しにし。
「そうそう! はぁ、あの頃が懐かしいよ。パルステラは名前の通り、とある峡谷に築かれた都市だったんだけど、夜になると夜景がキレイでさ」
空を見上げながらラージュは微笑む。
「夜景ねえ。じゃあ、気が向いたら俺も行ってみるよ」
「無理だよ」
ラージュは笑顔を貼りつけたまま言った。
「だって、あの国はもう僕が壊しちゃったから」
「壊しっ、は?」
ラージュの笑顔が徐々に不気味なものへと変わっていく。
笑うと口角が上がり、目が狭まり細くなる。
細くなった目の間から見える不気味な瞳が、俺を捉えていた。
「なるほど、そういう感じか」
「楽しかったなあ、あれは。ニト、君は知っているかい、それまで仲間だと思っていた奴に殺される者の、最後の表情を?」
「趣味が悪いなあ」
「敵なのか味方なのか分からなくなって、死の間際、困惑するんだよ! そして気づく、こいつは敵だったんだって! でも気づいた時には遅いんだ、死んじゃってるからね」
ただの狂人か。
「つまりお前はその国を裏切って、帝国に寝返った訳か?」
「違うよ。僕は初めから帝国の人間さ」
「そうです」
フランチェスカが俺の誤解を解いた。
「皇帝が王の盾の存在を公表したのは10年以上前の話です。彼は5年前、スパイとして潜入していたパルステラを滅ぼし、帝国へ戻りました。その後、皇帝は再び世界に公表しました。彼が最初から帝国の人間だったということを。その証拠に」
「そう、その証拠に僕の本当の名前はラージュ・ダームズケイルだからね」
「ダームズケイル?」
聞き覚えのある単語だった。
ラズハウセンにいた頃、初めて帝国という単語を耳にした。
俺は特に興味もなかったから疑問も持たなかった。
だがそれからというもの、帝国の名を何度も耳にするようになった。
ダームズケイル帝国――。
俺はこの名前をカリファさんから聞いた。
だがこの国は何百年も前に滅んだ国で、現代には存在しない国だ。
だから現代で言われている帝国とは別物で……。
「なんでダームズケイルがまだあるんだ?」
「ニト様、この時代の帝国の名も、ダームズケイルというのですよ」
スーフィリアが答えてくれた。
あまりに当然の話で、俺だけが知らなかったらしい。
「さっきから何を話しているんだい、時代がどうとか言っていたけど?」
ラージュは軽やかに立ち上がった。
「話はもいい。とりあえず、お前が狂ってるってことは分かったよ」
「ヒドイな~、僕は狂ってなんかいないよ。というか、君には少し近いものを感じたんだけどな」
ラージュはわざと落ち込んだような態度を見せた。
「何で俺を狙った?」
「聞かなきゃ分からないことでもないだろ、君が帝国に刃を向けたからだよ。一応、面倒になる前に殺しておこうって話になってね、そこで手の空いていた僕が選ばれたって訳さ」
「なるほど、でも、お前じゃ無理だろ?」
過信している訳じゃない。
ただこいつの魔力は、ジークたちと同じレベルだ。
「俺はダンジョンに挑戦しにきただけだ」
「なるほど、僕と関わるのは面倒ってことか。じゃあ、仲間の一人でも殺して君に本気を出させてあげようかなあ」
その瞬間、ラージュの姿が消えた。
だが俺には見えている。
トアの目の前に、ラージュの姿はある。
彼はトアへ、紫色に光る手刀を振り下ろそうとしていた。
「ぐわあ!」
俺はトアとラージュの間に入り、ラージュの右手を
血が噴き出す右手を押さえ、距離を取るラージュ。
その表情から先ほどまでとは違う恐れが窺えた。
「みんな、下がってろ。俺一人で十分だ」
「ぐっ、流石だね、ニト。まったく見えなかったよ」
「お前、ここで死んどくか?」
「はっはっ、冗談に聞こえないなあ、怖いよ」
「本気だ」
こいつは、俺にやる気がないことが分かるとトアを殺そうとした。
「厄介だな、お前」
「それは僕のセリフさ。色々話を聞いてはいたけど、まさかここまで桁違いだとはね。僕はこれでも強い方だと思うんだけど、君の前では……」
途端にラージュの表情が一変し、何かに怯えるように。
「あ、お前ぇ! なんだ! そっ、その眼は!?」
「は?」
「近づくな!」
ラージュはバランスを崩し尻餅をついた。
急いで立ち上がると急ぎ足で距離をとり。
「くっ、来るなあ!――《
ラージュは紫色の球を飛ばし、さらに。
「嫌だ、嫌だ、嫌だあ!――《
ラージュの頭上に巨大な紫色の球が現れた。
それは魔法陣もなく、現れたと同時に俺へ迫った。
「流石は帝国、詠唱が早いな――《
だが巨大な球は、中心に吸い込まれるように消失した。
ラージュはさらに怯えたように。
「近づくなあ!」
「そうだ、聞いておきたいんだが、お前ら帝国はラズハウセンをどうするつもりなんだ? あの国は平和だ、お前らみたいな暴力的な連中とは無縁のはずなんだよ、なのになんで襲う?」
「ちっ、近づくなぁ!」
「質問してるだけだろ?」
「《
「は?」
奴の足元が光り、その瞬間、ラージュはその場から姿を消した。
「え……」
あまりに突然のことだった。
白熊の死体を置き去りに、ラージュは逃げたのだ。
※
フランチェスカたちと別れた後、俺たちは宿を求めて町を散策していた。
「すごい魔力だったわね」
俺にはよく分からないが、トアから見るとラージュは強い魔術師だったらしい。
ネムは委縮して縮み上がっていた。
スーフィリアは相変わらず穏やかな様子だが。
「魔術の腕だけはいいみたいだが。逃げられたのは厄介だ。また襲ってこられでもしたら面倒くさい」
トアが立ち止まっていることに気付いた。
それは白いテントの前だった。
屋根に大きく「診療所」と書かれており、トアは酷く動揺した様子で中を見つめていた。
「トア、どうしたんだ?」
気になった俺は、トアの元まで戻った。
テントの中を覗き込み。
「これは」
見えたのは、いくつものベッドと体中に包帯を巻いた患者たちだった。
トアは手で口を押さえ、その光景にショックを受けていた。
「あんた達も挑戦者か?」
テントの中から一人の大柄な男が顔を出した。
「はい」
「じゃあよく見ておくことだ、こいつらの姿を」
「この人たちは、どうしたんですか?」
「見りゃ分かんだろ、どれも夢を見た愚か者どもさ」
テント内は呻き声で溢れている。
これが夢を見た愚か者。
ダンジョン挑戦者の末路なのか。
「誰もがつい数日前まで、あんたらみたいに平気な面してたんだ。だが今じゃこの有様だ。だがこいつらなんかまだ運が良い方さ。ダンジョンが現れてから今日までに、千人近い者たちが挑んでいった。だが未だにほとんどの者が帰ってきてない」
「え、この人たちだけ!?」
「そうさ。ダンジョンってのはそういう所だ。誰もが
ダンジョンは求める者に夢を見せ、世間の人々はそれを馬鹿にする。
「なぜ何百年も攻略者がいないのか、もっと考えるべきだった。あんたらも良く考えることだ。本当にその選択が正しいのか。これ以上は言わねえ、自己責任だからなあ」
そう言い残し、男はテントの中へ戻っていった。
おそらく俺たちの挑戦を止めにきたのだろう。
彼自身も挑戦者だ、それは右肩から先を見れば分かる。
血で滲む包帯だけ、腕がなかった。
「トア」
トアは下を向いて震えていた。
この光景を見た後ではきついものがある。
トアには無理かもしれない。
「行くわ」
「無理しなくていい、俺だけでも全然いいんだ」
「ううん、大丈夫、行くわ。ここまで来たんだもん、そのために付いてきたんだし」
「俺が無理やりつれてきたようなものだ」
「いいえ、ニト様、それは違います」
「スーフィリア」
「わたくしは望んでお傍にいるのです。今も考えは変わっておりません」
「ネムも、ネムもご主人様についていくのです!」
「ネム」
俺は上手く答えることができなかった。
だがこれはいい機会だったのかもしれない。
あまく考えていたが、ダンジョンに挑む意味を解することができた。
つまり冒険に命をかけるってことだ。
「分かった。じゃあもう聞かない。行こう、ダンジョンに」
※
翌日。
俺たちは再びダンジョンの前までやって来た。
そこにはフランチェスカの姿があり。
「ニトさん、これから挑戦ですか?」
「はい」
「現在の心境をお聞かせ願えますか?」
「わくわくしてます」
フランチェスカは俺たち一人一人の表情を見た。
何かを察したのか、それ以上は聞かず、見送った。
「では、攻略をお待ちしております」
取材を終え、俺たち4人は階段を上った。
入り口の前に立ち、最後に互いの顔を確認し合う。
「よし、行こう。ん?」
ダンジョン内から、女性を抱えた男が一人出てきた。
大層な鎧を身にまとっっている。騎士のようだ。女性の方はだいぶ血を流している。
通り過ぎようとすると、
「待て。ダンジョンへいくのか?」
「ああ、そうだけど」
「止めておいた方がいい。あそこは挑むなんていう類のものじゃない」
男は俺たち4人の顔を確認して、
「女が3人に、男が1人か。中は墓場だぞ」
「敗者にとってはそうだろうな、だが俺には関係のない話だ」
「忠告は聞いた方がいい。君のような安易な者が真っ先に命を落とすんだ。君だけならいい、彼女たちを殺す気か?」
ネムが威嚇し、
「それ以上、ご主人様を愚弄するのなら、その首、切り裂いてやるのです!」
スーフィリアが言った。
「どなたかは存じませんが、まずご自身の心配をなされてはいかがですか。こちらにおられますのはSランク冒険者のニト様ですよ」
「君があのニトだと!?」
「行きましょう」トアは不機嫌そうに言った。
「だな。ただでさえもう昼前だ」
「ちょっと待ってくれ」
「悪いが後にしてくれ。それより、その人を先に手当してやったらどうだ?」
騎士は「あなたが」と言葉を驚いているようだった。
「私はレオナルド・アスタール。ダームズアルダンの騎士です。無礼をお詫びします。またお会いしましょう、ニト殿」
「あっそ」
俺がニトだと分かると急に名乗ってきた。
調子のいいやつだ。
ダンジョンへ向かった。
「どういう、ことだ」
足を踏み入れた瞬間、周りの景色が一変した。
「え、ここって」
トアは戸惑い。
「見たことのない変わった様式ですね」
スーフィリアは冷静に分析し。
「ここがダンジョンなのですか?」
ネムは首を傾げる。
突き刺さる夕日。
俺が最も嫌う、儚い夕方という時間。
校門、体育館、グラウンド、そして校舎。
すべてに見覚えがある。
「学校だ」
それは俺が無意味な時を過ごした空間。
高校の校舎だった。
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