47 雪原に響く白鷹の響き(なんかモンハンぽくてイケてるわ(自画自賛))
不毛のはずの銀世界に響く銃声は何度も何度も響き渡った
カコさんの誘導で全員岩陰に隠れると、今度はその岩を狙って銃弾が飛んでくる
「や、いやああああ!!!! いやだぁぁ!!」
「キタキツネ落ち着け! 隠れていれば大丈夫だ!」
「ヒデ、あなたはキタキツネを守ってあげて! フレンズは聴覚が敏感な上に銃に対してかなりの恐怖を抱くから今はあなたが頼りよ!」
キタキツネが顔を真っ青にして頭を抱え、他の研究員たちも初めて聞くであろう銃声に驚きパニックに陥ってしまった
誰が何のためにやっているのかわからないが今頭を出して確認すれば良くて即死、悪くて即死だ
「せめてあの銃だけでも破壊しましょうカコさん。あのボスには多少の迎撃機能も付いていたはずです」
「そ、そうね! ヒデ、かばんの中身を取り出して、空に向かって思い切り投げ上げてちょうだい」
「わ、わかりました!」
そういえば謎に背負わされたかばんの中身が気になっていたところだ
俺は号泣するキタキツネを慰めつつかばんの中身を取り出した
真っ白なボディに、ふわふわの尻尾……カバンの中には雪山で警備にあたっているラッキービーストの一回り大きいバージョンが折りたたまれて収納されていた
実はどこかで聞いたことがある……極秘裏に戦闘機能を搭載したラッキービースト8型がいる、と……それは間違いなくこいつだ
「行きますよ、オルルァァ!!!!!」
「ラッキー! ドローンモードに変形して銃を破壊し、ギンギツネの居場所を特定しなさい!」
カコさんがすかさずラッキービーストに早口で命令を下した
『了解。ブチカマスゼ』
何だ何だ何だ!!!!????
ラッキービーストはメカメカしい音を立てながら一瞬でゴツいドローンに変形してしまった
変形した瞬間銃弾に撃ち抜かれ…ない!? 弾き飛ばした!?
『インダクションヒーティングシステム起動、ファイヤアアアアアア』
『あああああっちゃああああああああ!!!???』
『ブッ倒シタゼ!』
なにやら再びメカメカしい音がしたかと思うと、遠くで男が絶叫する声が聞こえた
…強すぎる!
しかし次の瞬間に再び発砲音が響き、ラッキービーストのプロペラ音が急に聞こえなくなった
『アワワワワワワワ…ウワアアアアアアアアアアアアアア』
「今度は何だ?」
「ラッキーが墜落するわ!」
あれ君最強じゃなかったの?とか言ってる間にラッキービーストが目の前に墜落した
ボロボロというわけではないがなぜか装甲のあちこちが黒く変色し、本体である時計型cpuを吹き飛ばすとさっきまでドローンだったものはどす黒いヘドロのように腐食し溶け落ちてしまった
「スマネェ! ソレニ今ノドンパチガ原因デ雪崩ヲ起コシチマッタ!」
「雪崩だ!!!!!! あの岩に登れ!!!!!!!!!」
______________________
頼もしいはずのラッキービースト8型は人工サンドスターによって破壊され、さらにその衝撃で起こった雪崩が俺たち以外の全てを飲み込んだ
不幸中の幸いか、ラッキービーストを落とした奴等も一緒に流されてくれたようだ
「ギンギツネ!!!!!」
キタキツネがギンギツネのいた?カルデラの中央に走っていったので全員で追いかけたがそこには何もなく、雪崩で歪に削れた雪原だけがあった
キタキツネは耐えきれずに膝から崩れ落ちた
あれだけ大丈夫大丈夫と根拠もなく言い続けてしまった自分が恥ずかしい
さっきの連中に加えて雪崩まで起きたらいよいよ残酷な宣告をしないといけないのかも知れない
野生解放をして磁場を受信しようと試みるキタキツネを、研究員達は何も言わずに見守った
「…!? 誰か来る!」
最初はキタキツネのギンギツネを思う気持ちのあまり幻覚のようなものでも起きたのかと思ったが、聞き覚えのある羽音によってそれは現実となった
「ヒデ! キタキツネ! 上からなにか来るわ!」
妙に乱暴な気もするが、これはスズの羽音だ
あいつは今病院に預けていたはずだが…
というかそもそも気を失っていたはずである
「ギンギツネが居るよ! スズちゃんが助けてくれたんだ、きっと!」
「…本当じゃないか。でもあいつなんでここに」
ギンギツネを脚で鷲掴みしたスズは、近くの木に止まると体の横から生える巨大な翼を整え甲高い鳴き声を上げた
なんだか野性的なフォルムになったか?
「おーいスズ! ギンギツネを助けてくれてありがとうな! 早くこっちに来てくれよ、ギンギツネを保護したいん……だっ!?」
スズは木の枝を蹴って飛び出すと掴んでいたギンギツネを俺に向かって投げつけ、なんとか受け止めた俺の頭上すれすれを凄まじい速さで飛び去った
ギンギツネは銃には撃たれなかったようだがその体には巨大な爪で掴まれたような痛々しい傷が刻まれている
「おいギンギツネ何があった!?」
「スズ……あの子が……なんか、変…な……の…」
「こゃああああああああ!!!!!!!!」
「何だ!?」
振り返ると、スズがキタキツネを押し倒して襲いかかっていた
近くでよく見るとスズの姿は伝説の幻獣ハーピーそのものだった
腕の代わりに巨大な翼が生え、脚は途中から猛禽の鱗だらけの鉤爪になっている
恐怖! 強制レ○プ! 野獣と化したフレンズ! みたいな感じですか??
唐突に同性に目覚めちゃって襲っちゃうタイプのアレですか? いやそれはまずいですよ! なにやってんすか先輩!
しかも嫌がるキタキツネの服を口で引きちぎり始めて…いかにも鷹の捕食だ
「おいスズ! お前そんな趣味持ってたのか! 今はそんな場合じゃないから早く開放してやれ! 落ち着いた後じっくり……」
「ピイイイアアアァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
スズが俺の方を見た
生気のない、食欲に支配された飢えた獣の目だった
その瞬間、俺を含めその場に居た全員が一寸の狂いもなく同じことを思った
本気でキタキツネを捕食するつもりだと
スズはもがくキタキツネを鋭い爪の付いた足で容赦なく地面に押し倒した
キタキツネは手足を動かして抵抗するが何度も押し倒し、ついにキタキツネのお腹に爪を立てて抑え込んだ
「やめろスズ! 相手はキタキツネだ目を覚ませ!」
「いっ……ボクだよ…! ねえボクだよ…スズちゃんもうやめて!」
「やめてください! フレンズ同士でそんなことしないでっ!!」
副所長が研究員たちの静止も聞かず走り出した
「ピエエエアアア!!」
予備動作もなく羽が研究員達を狙って飛ばされた
するとなんと副所長が飛び出し、一瞬緑色の光を発したかと思うと羽はその場で急停止し雪の上に落ちた
…え? 今の何?
しかしあっちばかりは気にしていられない
俺が走り出すと同時にスズはキタキツネの首筋に噛み付いた
「やっめろおおおおお!!!!!!!!!!!!」
ギリギリでスズに飛びつきそのまま胸元を掴んで押し倒そうと試みるも圧倒的な力で引き剥がされ、追撃の鉤爪もギリギリで避けると再び飛びついた
「飛べるスズさん相手に投げ技は効きませんよ! 覚悟を決めてチョークスリーパーで拘束して下さい!! 私達が麻酔弾を打ち込みます!!」
「ああくそ、許せスズ!」
俺は暴れるスズの後ろに回り込むと両手でスズの首を締め付けた
こうでもしないとキタキツネは物理的に食われるし研究員たちも血肉と化してしまう
しかしスズは首を絞められても暴れ続け、ついには地面を蹴って空へ飛び出した
腕だった翼は器用に動かせず鉤爪の足は後ろまで動かないので泥沼の戦いとなった
「俺もこんなことはしたくねぇ! 早く目を覚ませ!」
「グ…ガア…あああああああああ!!!!」
「お前虐められてる子狐助けたり、子供の相手とかしてただろ…? あのときのこと忘れたわけじゃないだろう!!! イベントの日に寝過ごしかけたところを起こしてくれたのも、部屋の掃除してくれたことも皆覚えてるぞ!!!!」
いつもは無表情だがたまに笑ったときのあの顔が脳裏に
あっ、力が抜けた…
「おわあああああああああ誰か助けてえええええええええ」
遥か下にゴマ粒ほどの研究員たちの姿が見える
これはさすがに、今度こそダメだろう
最後の希望と言えば
「スズ、スズっ…!」
スズがこっちを向いて急降下を始めた
しかしその目はキタキツネを襲ったときと変わらなかった
足の鉤爪をこっちに向けて完全に空中で終わらせるようだ
_________________
今までご愛読ありがとうございました
ここで連載終了します
理由は彼の死……アフン!(何者かの魔貫光殺砲を受けて倒れる
____________________
今度こそ終わりだと覚悟して目を瞑った俺だったが、その瞬間感じたのは思ったより100倍優しい衝撃だった
何と目を開くとスズが爪をしまって指だけで俺を掴んでいた
「助けてくれる…のか?」
「ピヤッ」
優しく一声鳴くといつものように丁寧に地面に降り立ち、何事もなかったかのように俺を解放した
何だか知らんがいつもの調子に戻ったようだ
姿は少しゴツくなったがこれからはこのスズとやっていこう……と思った瞬間だった
スズは糸が切れたように倒れ、雪原に倒れ伏した
同時に翼と鉤爪が煙になって消え、いつのまにか元のフレンズの姿に戻っていた
___________________
「ひとまず一件落着です! 結果的に全員無傷でしたし人工サンドスターについての捜査も一段階進みました」
「いやギンキタがスズに襲われたじゃないですか。怪我の具合はどうですか」
副所長の後ろから元気そうなギンギツネとキタキツネが飛び出してきた
顔の血色も良くなっておりさっきまでけが人だったとは思えない
「なんかね、ボクスズちゃんとヒデが戦ってるのを見てたらいきなり怪我が治って力が湧いてきたんだ!」
「ありえないけれど私もなの。ちょうどあなた達が降りてくる少し前に衝撃波?を感じたと思ったら体の傷と痛みが完全になくなったのよ」
…危ない薬でもやってんのか?
「私が説明するわ。けもハーモニーって知ってるわよね? あなたが2年生のときに私が講義で話したのだからもちろん説明もできるはずよ。あなたはいつも最前列で聞いてたから」
「講義は覚えてないです」
所長の顔から笑顔が消えた
「だって所ch……教授~あの時話の途中で小さい地震が来て~? 話が途中で止まっちゃって最後まで解説してくれなかったから教科書どおりにしか答えられないですよぉ。それでも良いんですかぁ?」
「良いわよ♡」
一気に気温が10度ほど下がり、周りの職員たちが真っ青になった顔で視線を送ってきた
「けもハーモニーとは、複数のフレンズが同じ想いや感情を強く抱くことで、体の外にすら漏れ出した輝きがそれぞれのフレンズを音叉として増幅され身体機能の向上や傷病の治癒などを引き起こす現象のことである。なお発動には特別、という謎の輝きの存在が不可欠である」
所長はエロい手付きで俺の肩を小突くと悪魔のような笑顔を浮かべた
「完……璧……! 私の鬼畜暗記テストに答えたのはパーク開演以来あなたで二人目よ」
「で、それがなにか関係あるんですか? …まさか」
「そのまさか。スズちゃんは特別を持っていて、あなたがそのトリガーとなってけもハーモニーが発生したの。小規模だけれどキツネさん二人の傷を癒やすぐらいには強力だったみたいね」
「いやいやいやいや、特別はまあ無きにしもあらずですけども二人ですよ!?」
「もちろん数も大切だけれど感情が大きくて濃くても発動には十分よ。だってあなた、あの子のことが好きなんでしょう? 愛の輝きは一番強いのよ」
笑顔の所長、そして凍りつく空気
盛大に反撃を食らって無事敗北した俺だった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます