21-1 対峙

「タカが人間にさらわれた・・・?」


緊急の連絡を受けてすぐスズに説明した。

あまりに衝撃的なニュースに動揺し、いつも以上に顔を真っ白にしてしまった。


それは俺も同じで、説明する時も頭が真っ白で言葉が出なかった


まず間違いなく鈴を狙う組織の仕業だろう。

ポイ捨てやちょっとしたトラブルなら日常でもたまに起こるが手口があまりにもアブノーマルだ。

しかも誘拐した時に切りつけている。


「ヒデ。大丈夫か?」

「大丈夫なわけないだろう!小さい頃から一緒に居たやつが誘拐されたんだ。

くそっ・・・!」


ハヤブサが声をかけてきた。

冷静を装っているが拳は震え、声も若干震えていた。

タカはハヤブサにとっても昔からの付き合いで大の親友だ。


そんなハヤブサの姿を前にして何もできない自分が、憎い。


「絶対に自分を責めるなよ・・・!悪いのは誘拐した人間だ。

考えている暇があったら捜索に集中するんだ。」

「ハヤブサの言うとおりだ。行こう、スズ。」


スズの手をポンポンと叩くと、何も言わずに飛び出した。


森の上にはどんどんと鳥のフレンズが集まってきている。

双眼鏡で覗くと、木の枝をすばしっこく飛び移りながら捜索しているフレンズも居るようだった。

空も地面も多数のフレンズでどんどんと埋め尽くされていく。


「飼育員。我々のおかげでパーク中からフレンズがやってきているのです。

見つかったら全員におごるのです。」

「来るのに一週間もかかるようなちほーからも増援が来るらしいので期待するのです。お礼は特に我々にするのですよ。」


音もなく近づいてきた博士と助手がなんだか厚かましいことを言っていたような気がするが今は応対する余裕はないので思い切り無視した。


「なんか変わったものはあったか?」

「いや。全く無いわ。さっきから何周もしてるんだけど木しか無いわ。」

「・・・そうか。」


するといきなり誰かに肩をポンポンと叩かれた。

野生解放して全力で水平飛行しているスズに追いついて優しく肩を叩く・・・

どんなフレンズつわものかと思って首を横に向けた。


真っ白でひらひらのドレス。

中には薄い構造色のような色味の下着?を着ていて緑や青、黄色でアクセントが入っている。

髪は真っ白で黄色の髪留めと同じく構造色のようなヒレ付きのリボンが対になって付いている。

腰からは同じようなデザインの立派な尻尾?を生やして風にたなびかせている。


「君は・・・?シラス?深海魚?クラゲ?」

「・・・・・・!!・・・☆・・・?・・・!!」

「鯉のぼりがフレンズ化したとか・・・?海藻?」

「・・・!!!!!」


何故か喋ってくれないが言葉は伝わっているらしい。

海藻と言った時あきらかに怒った。


「んわ!?何この子。とっても綺麗ね。」

「・・・♪」


喜んだのかスズの前に飛び出し宙返りした。

ちなみに未だに全力で飛行中である。

助走をつけずにスズ以上のスピードで飛び出しなめらかに空を泳ぐように飛び回る。

それはまるで空の魚のように・・・


空の・・・


魚・・・


「スカイフィッシュ!」

「いきなり大きい声出さないで!今集中してるの!」

「ごめん。」

「・・・www・・・!!!・・・♪」


微笑みつつ正解のジェスチャーをした。

この子はUMAのスカイフィッシュのフレンズだったようだ。


「・・・↓・・・→・・・←」


急に指で何かを伝えようとしてきた。

せわしなく手を動かしている。


「今はタカを探してて忙しいんだ。遊ぶならあとで良いかな?

君がタカの場所知ってるってわけでもないでしょ?」

「・・・m9・・・m9!!」

「まさかだけどあなたタカの居るところを知っているの!?」


スカイフィッシュがウンウンうなずいた。


「やったぞスズ!ありがとうスカイフィッシュ!

ところであいつは無事か・・・?」


再びうなずく。

こんな所で見つかるとは!!

歓喜のあまりその場で雄叫びを上げる。


「よっしゃあああああああああ!!!!!」

「やった・・・!!やったわ!!!!!!」

「でもまだ助け出したわけじゃない。安心するのはまだ早いぞ。

それはそうとこの事をみんなに伝えなきゃな。どうしようか・・・」


今の雄叫びで何人かは集まってきたが周りでは未だに捜索が続いている。

何百人も居るこの状況だと全員に伝えるのは時間がかかりすぎるし、かといって無視していてはまとまらないし好意を無駄にしてしまう。


突如俺を隣りにいた鳥の子に預けると、自信に溢れた表情で一言呟いた。


「ちょっとみんな、耳をふさいでて。」

「急にどうした?一応塞いだが。」

「・・・?」


周りのフレンズたちも言われるがまま耳を塞いだ。

スズが空気をどんどん吸い込んでいく。

叫ぶのだろうか・・・?


目に野生の輝きを灯しつつ、ついにスズが構えた。



「ピュウウウウイイイイ!!!!!ピュウウウウイイイイイイイイイイイッッ!!!!!!」


鼓膜を突き破るようなとんでもない声で何度も何度も叫んだ。

鼓膜どころか全身の組織が震えて飛び散ってしまいそうなほど強力な音の波動が放たれていく。

効果はてきめんで、すぐにフレンズたちが文字通りすっ飛んできた。


「みん・・・ゲホゲホッ・・・」

「俺が代わりに言う!タカのいる場所をこのスカイフィッシュが教えてくれた!

捜索はここで終了!今から救出だ!みんな!頑張ろう!!!」


ーーーーーー


「ん~~っ!!」


タカの胸に顔を埋めていた男がやっと顔を上げた。

もうタカはほとんど動かない。

動かないのを良いことに一晩中寝ずに体を舐め回し続けていた。


寝れなかった疲労に屈辱や邪な感覚が重なり、既に体力が尽きてしまったタカは一晩中男のされるがままにされてしまっていた。


スカイインパルスのメンバー、スカイダイバーズのメンバー、スズ、ヒデ、スカイレースに参加したフレンズの笑顔・・・

脳裏に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。


その時。


耳をつんざくようなスズの鳴き声がどこからか聞こえてきた。

本能的にこれは自分の場所を伝え、雛を呼ぶ時に使う時の声だと悟った。

スズは何かを呼んでいる。自分かもしれないしそうじゃないかもしれない。

しかし希望が確実に見えた。


「このやかましい声はなんだ?うるさいなぁ。

だけど君の顔を見るとおそらく助けが来てるようだね?

じゃ、捕まる前にさっさと奪っちゃうから辛抱ね。」


慌てて真顔に戻そうとするが既に遅かった。

昨日男が居場所が見つかったり助けが来たのが分かったらその瞬間に純潔を奪うと宣言したのを思い出した。

眼の前の男は冗談のようなことばかり言うが、そのどれもが真実だった。


「フフ・・・まだ腰から上と太ももより下しか触ってないんだ。

我慢の限界だったしこれでやっと一つになれるよ・・・!!アッヒャヒャヒャヒャヒャヒャwwwwウヒャヒャヒャヒャヒャww」


気色の悪い笑い声を上げながら少しづつ近づいていく。

尽きた体力をなんとか振り絞って顔を上げた。


「やめてっ・・・」

「それが最後の抵抗かい!?いいね燃えるね!!かわいいよ!!

もっと抗ってくれよ!まあそんなことしたら仲間が君の大切な友達を同じ目に合わせちゃうかもしれないよ!?もしかしたらもう遅いかもしれないけどねっ!!」


ついに男がスカートをちぎり取った。美しい素肌がさらに露わになる。

もうたった一枚の秘部を隠す下着しか残っていない。

タカが顔を真赤にして今度こそ最後の抵抗を見せる。

しかし縛った布が擦れる音が響いただけで状況は全く変わらない。


「ああ、ああ!!!!ハハハ!!!!!!!!!!!」


首を落として力尽きたタカを前に、両手を広げて狂ったように笑いだした。


そして数分ほどして笑い終わった男が、最後の関門に手を伸ばす。

タカは一切の抵抗も見せない。

指が触れるか触れないか・・・震える手をどんどん伸ばしていく・・・


「おい!入るぞ!」


突如聞こえた声に驚き手を引っ込める。

すると髭面の男が乱暴にドアを開けて部屋に入ってきた。

この男は組織で仕事をしていた時、主に上からの命令を伝える役目をしていた。

もう一人相方がいたが、警察に捕まり移送中に組織の殺し屋に撃ち殺されてしまった。


「ったく何してやがる・・・お前も来い。」


続けて成人直後ほどの若い男が入ってくる。


「はい。」


なんだか申し訳無さそうな表情で髭面の男の後ろにピッタリ張り付いている。


「関係無いフレンズの服引っ剥がしてパンツ一丁にして遊ぶとは・・・

人質にとるとか他にあっただろう!?

折角のチャンスを無駄にしやがって無能が・・・!

上の命令よりお前の欲求が上なんだな。」

「なっ・・・ちょっと調子に乗りすぎただけだ。

今から人質にとってやろうと思ってたところだ。」


髭面の男に詰め寄られると、急に萎縮して今までの覇気?は無くなった。

なんとか言葉を絞り出してその場をしのごうとする。

しかし。


「もう遅い。さっきのやかましい鳴き声を聞いただろう。

上空には百強のフレンズが群れをなして捜索している。

見つかるのも時間の問題だ。さっさとずらかるぞ。」

「なんだと!?

そうすると・・・俺はどうなるんだ?」


顔を青くしながら髭面の男に詰め寄る。


「お前のスカウトしたこのガキが働いてくれたおかげで今回は無罪放免だ。

あとは帰って伝えるからな。俺は帰らせてもらう。」


それだけ言い残すと男は小屋から出ていき、森の茂みに消えていった。

小屋の中にタカと若い男と痩せぎすの男の三人が取り残された。


「さあ・・・逃げますよ。一応証拠隠滅もしておきましょう。」

「ん?ああ、そうだな。

・・・ありがとう。お前のおかげで命が助かった。」

「そんな事はいいんです!それよりさっさと逃げましょう。

危険物は全部捨てるとして、フレンズはどうします?」

「疲れ切って抵抗できないしナイフでさっさと息の根止めればそのうち動物に戻るだろ。」


若い男が「え!?」と驚いた表情を見せる。


「なんだ・・・?」

「かわいそすぎませんか!?」

「お前、動物ごときに情が湧いてんのか?ありゃ人の姿したただのケモノだろ。」

「ああ、まあ・・・そう・・・ですね。

さっさとやることやったら私達も脱出しましょう。そばで見てるんでちゃっちゃとやっちゃってくださいな。」


ーーーーーー


スカイフィッシュに先導されて林冠ぎりぎりを低空飛行していく。

ジャスティスとハヤブサと俺とスズ以外は100メートルほど離れたところを飛んでもらっている。

相手が武器を持った人間なだけに、もし俺たちが倒された時の保険であり囲い込みの用意でもある。


と、スカイフィッシュが手を出してスズの動きを止めさせた。

下を覗き込むと葉っぱや枝に隠れた小屋が見える。


「・・・↓・・・↓・・・!!!」

「この中にいるんだな?」


スカイフィッシュが二回、しっかりとうなずいた。


「ゴー!とにかく突入よ!!」

「考えてる暇なんかあるか!行くぞ!」


なんとハクトウワシとハヤブサが静止も聞かず小屋に飛び出していった。


「おい待て!人質にでも取られてたらどうする!行動の選択肢がなくなるぞ!」


二人は「知るか!」とだけ叫ぶと、ついに小屋の扉を蹴破り中に飛び込んでいった。

こうなったら行くしか無い。

突入することをスズに伝えようとした。


しかし話しかけようと首を上げた頃には既にスズも飛び出していた。

あっという間に地面に着いたかと思うとその勢いのまま小屋に突っ込んだ。



「おーっと!!またお仲間か?今日は騒がしい日だなぁ・・・」


小屋の中に入った瞬間気味の悪い声が聞こえてきた。

すると何故かスズは全力で足を踏み込んでブレーキをかける。

俺は慣性によって前に投げ出される形で放り出された。


小屋の中は6畳ほどだった。

薄暗い小屋の向こうの壁に痩せた男が立っている。

その手にはナイフが握られていて・・・


その切っ先は探し求めていたタカの首にあてがわれていた。


「タカ!!」


しかしタカから全く返事がない。

何をされたのかは知らないが、表情は疲れ切っていて首は下を向いたまま。

力尽きて動けないようだった。


「どうもヒデさん。今オオタカさんは動けないんでそっとしといたげてください。

それにあんまり叫んだりするとこの人が何するか分かりませんよ・・・?」


タカの代わりに答えたのは・・・


りうきうで出会った毎晩飯を運んでくるあの男だった。

約束の一ヶ月まではあと数日ほど。

なんだかんだ言って料理は良かったし楽しく喋ったこともあった。


信じていただけにこの結果は何なんだろうか。


「お前っ!!!!やっぱりっ!!!!!!!くそが!!!!!ぶち殺してやる!!!!!ずたずたにして!!!セルリアンに食われてしまえ!!!!!」

「おいうだうだ言ってんじゃねえぞ飼育員!!コレが見えねえのかよ!!」


そう言うと、痩せた男がタカの首筋にナイフを再度あてがった。


「アングリー・・・正直言うと私もいますぐアイツを八つ裂きにしたいわ!

だけどタカが捕まってる以上今は何も出来ない。」

「気持ちは、分かる!だが下手に動くとタカが危ない。」


先に突入していた二人も小屋の壁に張り付いて拳を震わせていた。


「ねぇ。よく分からないけど鈴がほしいんでしょ?

私も分からないことばかりだけどそんなにあなた達にとって価値があるならあげるわ。

だから・・・タカを、返して!交換なら良いでしょう?」

「ああ、鈴だけだとお前ら攻撃してきそうだしそのフレンズと一緒ならいいぞ?」

「何言ってるの・・・!?」

「この・・・!」


ハクトウワシとハヤブサが歯を噛み締めながら男を睨みつける。


「お願いだからタカを返してっ!なんにも悪いことはしてないでしょ!?

色々教えてくれたり一緒に居てくれたり・・・!」

「そんなん知るかとしか言いようがねえな。知らん。」


スズが「え?」といった顔で硬直する。


「俺は悪者だ。お前の事なんか知らん。興味ない。俺は俺のやりたいようにタカを捕まえて好きなようにさせてもらった。お前が何を言おうとどんな思い出があろうと関係ない。」

「この・・・この!なんて残酷なの!」

「チッ・・・」


男がナイフを構えて牽制する。

ついにスズがぺたりと地面に座り込むとそのまま動かなくなってしまった。

その顔に感情はなかった・・・

無かったと言うより奪われた、のほうが正しいかもしれない。


その時偶然か・・・若い男が笑ったように見えた。


「この・・・!」


立ち上がり睨みつける。

痩せた男の後ろからタカの首元を掴みつつ・・・笑っている。

そして・・・一瞬サムズアップした。

ナイフを構えて痩せた男に突き立てるジェスチャーまでしている。

しかし痩せた男は気づいていない。


ハクトウワシとハヤブサと目を見合わせる。

二人も男の行動に気づいているようだった。


これは・・・チャンス、ってやつなのか?

アイツを信じて良いのか?

しかしアイツのやろうとしていることをすると意識を失うまでの数秒で首にあてがったナイフをスライドさせるなど容易だ。


しかし・・・アイツにかけるしか無い。

アイツが二重スパイだと賭けるしか今は方法がない。


「おいあんまコソコソしない方が良いぞ。良くねえ結果になっても知らねえぞ。

そこの嬢ちゃん立ち直れないかもしれないな。ヒヒッ!」


音を出してもやばい。足や手で合図を出してもやばい。

今は小屋の中の俺とハクトウワシとハヤブサでなんとかするしか無いようだ。

タカは力尽きていてスズも気が抜けてへたり込んでいる。



と、その時ガチャリとドアを開けて、スカイフィッシュが歩いて小屋の中に入ってきてしまった。

何も知らないスカイフィッシュはどんどん近づいていくので流石に引き止めた。


「なんだてめぇ!お前ら人質取られてるってのに調子乗り過ぎじゃねえか!?」

「・・・?」

「お前が何にも言わせてくれねえからだ!!さっさと返せっ・・ガハッ」


叫びすぎて喉が枯れてきた。ハクトウワシになだめられてなんとか落ち着くが・・・


「そんなにさっさと終わらせてほしいなら今終わらせてやるよ。

あーあ、かわいそうだなぁ・・・」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る