ep.1 Merry Christmas Story

名古屋からのプレゼント 〜きらり〜

 そろそろコートが愛おしくなってきた今日この頃。月もあっという間に12月を迎えていた。

 わたしが名古屋から上京してきて、そろそろ9ヶ月だ。

 暖冬のせいか、東京という場所のせいなのか、こっちではまだ雪にお目にかかったことがない。


 そう、あの日――

 あいつに別れを告げるつもりだったあの日から、一年が過ぎようとしている。


 でもまさか、あいつとあんな形で再開することになるとは思わなかったな。

 大学の入学式の日、駅前の喫茶店のマスターである肇さんに傘を貸してもらい、大学で裕哉くんと出逢って、そしてこの喫茶店『門』を紹介してもらって、真砂さんと知り合い、そのまま『門』でバイトすることになって――


 そして名古屋であいつと再開したのは、オープンソースカンファレンスの会場だった。

 わたし、文系学生なのにね。巡り合わせって、こういうことなのかもしれない。


 今日はクリスマス・イブ。

 こんな時期に東京で雪が降ることなんて滅多にないことらしい。

 それにしても、今日は月が綺麗だ。名古屋もこんなに晴れているのだろうか?


 でもあの日は雪の日だったせいか、もうしばらく雪はごめんという気分だ。


 ぶるぶるぶるぶる――


 スマホのチャットアプリに着信が入った。

 そうだ、あいつからプレゼントが届いていたのに、まだ開けてなかったよ。

 だって、妙に箱がでかいんだもん。あいつ、この中に何を詰めて送ってきたのだろう?

 ……カラーコーン……とかじゃないよね!??


『あ、きらりか? 荷物届いた?』


 あいつの声はいつもどおり、飄々としていた。


「うん、届いたよ。ごめんね、連絡してなくて。……でもこれ、何が入っているの?」

『って、まだ開けてないのかよ!!』

「だって、妙に大きいんだもん。わたしの部屋狭いから、開けるの躊躇してたところ。」

『そんなにでかかったか?』


 見た感じ、80cm × 80cm × 80cmってとこだろうか。

 ……でかいよ!! 約20平米くらいのわたしの部屋にやっと置き場所を見つけたくらいだ。


「とりあえず、開けてみるね。」

『ああ。とっとと開けてくれ。』


 わたしは段ボール箱にカッターナイフを入れていく。

 ……ん?

 中から出てきたのは、ヨド○シカメラの包み紙と、さらにその奥には――


「あ、コーヒーメーカー……」

『きらり、豆から挽けるやつがこの前欲しいって言ってただろ?』

「うんっ! 覚えてくれてたんだ。ありがとう!!」


 喫茶店『門』でバイトするようになってから、わたしはいろんなコーヒー豆を試して飲むようになった。酸味の強い豆から、苦味の強い豆まで――

 でも、自分の部屋で豆から挽こうとするとどうしても時間がかかってしまって、部屋にはたくさんの種類の豆が蓄積されていった。買ってはみたものの、そのまま放置になってたコーヒー豆が溜まってしまったんだよね。

 これさえあれば、わたしの部屋のコーヒー豆も片付くだろう……たぶん。


 ……あれ?

 なんだか妙な音がする。


「ねぇ。さっき何か喋った?」

『いいや。そういえばそっちから妙な音が聞こえるんだけど、気のせいか?』

「え、やっぱし??」


 耳を澄まして聞いてみる。

 Gがもそもそ動いている音? ……いや、それにしては音がでかい。

 そもそも、どこから聞こえてきているんだろう???


 ……え、箱の中?


 わたしはコーヒーメーカーをダンボール箱から取り出してみた。

 すると中から出てきたのは…………


 緑色のカメレオン!??


 ……あれ、これどこかで見たことある。

 どこだっけ?


「ねぇ、なんだか箱の中に緑色のカメレオンが入ってたんだけど?」

『カメレオン!??? ……あ、ひょっとして、ぬいぐるみか?』

「え、ふつーにカメレオンだよ。ぬいぐるみじゃなくて、ふつーに生きてる。」

『…………あぁ〜……あいつか。』


 いやいや、『あいつか』じゃないでしょ!!


「これも一緒にわたし宛?」

『ごめん。大学の研究室に住んでた一匹がそっちに紛れ込んでしまったみたいだな。』

「大学の研究室!??」


 どうやら名古屋の大学の理系のとある研究室には、こんな緑色のカメレオンが住んでるらしい。

 (鹿野注:住んでません!!)


『そいつ、名前を『ギーコ』っていうんだ。ほら、オープンソースカンファレンスの会場でも、それに似たぬいぐるみがたくさん置いてあっただろ?』

「あ、そっか。だからわたし見たことあるんだね。」

『俺のいる研究室のサーバーには、『ギーコ』をマスコットにしているLinuxりなっくすディストリビューションが入ってるんだよ。オープンソース版はopenSUSEおーぷんすーぜって呼ばれてるやつ。……ま、研究室のはそれの商用版だけどな。』

「そのサーバーを使ってると、こんな可愛らしいカメレオンが棲みつくってこと?」

『……そうみたいだな。』


 最初見た時はドキッとしたけど、よくみると本当に可愛らしい。

 特に目の辺りがくるっとしていて、わたしも前からぬいぐるみが欲しいと思ってたんだ。

 そっか、openSUSEを使っていると、こんな可愛らしい『ギーコ』が棲みつくんだね!

 (鹿野注その2:そんなわけないでしょ!!!)


『それもきらりにあげるよ。研究室にはもう何匹かいるし。』

「ありがとう。大切にするね!」


 『ギーコ』は箱から出してあげるとぴょんと飛び跳ね、わたしの肩にすとんと乗ってきた。

 ……ところでこの子、餌は何をあげればいいのだろう???


「あ、わたしからのプレゼントもそっちの届いた?」

『ああ。マフラーとコーヒー豆200gだな。俺も手挽きのコーヒーミルを買ってしまったよ。』

「それ、神奈川で有名なお店の限定品だから。」

『そうなの!??』


 その時、カーテンの隙間から月の光が部屋の中に入ってきた。

 12月だと言うのに、今年は本当に寒くないんだから――


「クリスマスだね。あひる焼き、食べたよ。」

『あひる焼きじゃなくて、どうせフライドチキンだろ?』

「まぁ、大して変わらないって。」

『いや、変わるだろ!!』


 あいつの声、一年前にはこんな風に聞けるとは思わなかった。

 すごく暖かくて、優しい声。


 来年もいい年でありますように。


「メリークリスマス。良いお年を……。」

『メリークリスマス。……って、年末に名古屋帰ってこないつもりか?』

「あ、帰る。」

『……おいっ!!』

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