27 人員配置を見直そう!
まず最初にエウレカが始めたのは、魔王城における人員配置であった。魔王城には魔族や魔物が多数務めている。住み込みの者もいれば、家から通う者もいる。魔王城を辞めていく者もいる。そんな彼らをそれぞれの能力が発揮出来るように、かつ人員が偏らないように、異動させるのが魔王の仕事の1つ。
使用人達とその家族を住まわせ、仕事を任せる。魔王の許可無くして魔王城に関する人事を変えることは出来ない。魔王城敷地内には居住区があるが、住める人数は限られている。どこに誰を住まわせるか、どの部署に何人配置するか。そこに魔王の力量が問われる。
「魔王様。採用担当のウリエルからの連絡をご覧下さい」
「軍に200人、家事使用人に50人、増員か」
「軍の割り振りは魔王様に一存するそうです。その他50名の方は細かい内訳をご覧下さい」
魔王城には大きく2つの部門がある。見張りや有事の際に戦う戦闘部門、通称「魔王軍」。魔王城に住み込んで家事などをこなす「家事使用人」。それ以外に特例はない。
「家事使用人に50人は多すぎないか?」
「魔王様。魔王城を毎日掃除し、魔王軍の家事をし、魔王様に仕える。それが家事使用人です。ですが今、人手が足りません」
「そうなのか?」
「私は、
戦闘部門である魔王軍は、魔王城を守るために勇者や魔族、魔物と戦う。彼らが戦闘に専念するためにも、炊事洗濯等を担うのは家事使用人である。予期せぬ増員にエウレカが呻く。
「……我は承認していないぞ?」
「魔王様がitubeに夢中だからと、今回は特例で話を進めたそうです。魔王様の自業自得ですね」
「その特例の話、我は聞いていないぞ?」
「梅干し料理と一緒に書類を渡したらすぐにサインをした、とウリエルが申していましたが」
「なぬ!」
エウレカの知らないところで起きていた採用活動。人数を増やした理由も目的も理にかなっている。だがそれは、大好物を目の前にしてサッと流し見てサインした書類によって起きた事案だった。
自分で自分のした事が信じられず、エウレカは口をぽかんと開くばかり。必死に過去の事を思い出そうとするがぼんやりとしか思い出せない。思い出すのは動画撮影のことばかり。
「そういえば先月か先々月か。梅干しと梅茶と梅を練り込んだ麺、を誰かにもらった気がするのう。で、早く食べたいからとテキトーに名前を書いたような気がするぞ」
「……そんなに食べたかったのですか?」
「あんなに素晴らしい梅づくしなんて、滅多に見かけぬぞ! 大好物を前にして我慢など出来ぬ! 相手の顔は全く覚えていないがな」
「間違いなく今言った
「あーあー、聞こえないキコエナイ。我の心はガラスより繊細なのだぞ! 豆腐メンタルとやらなのだぞ! 傷ついたら大変なのだぞ!」
シルクスの言葉にエウレカは両耳を手で塞ぐ。涙目になって耳を塞ぎながら騒ぐその姿は、まるで親に悪戯を叱られている幼い子供のようだった。これではどっちが上なのかわからない。
魔王城に仕える者の数は、今回新たに採用された者も含めて約4000名。この中には短時間勤務の労働者も含まれている。そのうち、家事使用人は新人も含めて130名である。
「魔王軍といえば、ドワーフ、獣人、ゴーレム、人魚。エルフに魔物、巨人、妖精、天使に悪魔……」
「種族で数えるのなら、今は10種族、10部隊。種族別の部隊とは別に、魔物使役の部隊とゴーレム使役の部隊、さらに機械使役の部隊が存在します」
「だよな。やはり、魔王軍は13部隊であっているはずだ。しかしこの内訳がとても信用ならん。獣人と魔物がやたら多い。逆に人魚と竜人、使役関連は少なすぎるぞ」
200人の所属部隊未定者。そしてそれ以外の、所属部隊が明確に判明している魔王軍のリスト。それらを見比べてエウレカが首を傾げる。
「使役関連はゴーレムも機械も、魔法で一から生み出して操るものですが」
「それを踏まえても、部隊としての総数のバランスが悪い。かといってエルナはドワーフ軍から動かせぬからのう」
「ちなみに人魚や竜人は」
「元々の総数が少ないのだろう? ならばいっそ、亜人部隊としてハーピーとかと統合した方が……」
何かを思いついたのだろう。エウレカはどこからか紙を取り出して思いついたことをメモする。かと思えば、魔王軍に関する書類をいくつか見比べて唸る。
「種族ごとの全体数が違うとはいえ、こうなるとは。……ならば今度の新人をこう割り振って、さらにここの部隊を……」
「魔王様?」
「近々部隊長を集めて話し合うかのう。ウリエルにも確認せねば。新人に無理強いをさせるわけにもいかぬし……」
「あの、魔王様?」
「基本的には1日8時間までしか活動させないこととして。なるべく残業などというのはさせたくないのう。ともなれば、やはりここは人員を確保しつつ交代制にすることで……」
「魔王様! って聞こえてませんね。全くもう。一度集中するといつもこれなんですから」
元はと言えば魔王城内部の人員配置を決め、書類にサインするだけのはずだった。だが今、何かを閃いてしまったエウレカは、魔王軍という組織の大改革を行うことに没頭してしまっている。
もう、エウレカの耳に周りに音は聞こえていない。彼の頭の中では、いかにして負担を少なくしつつ魔王軍の運営を行うのか、脳内議論が行われていた。
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